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aitoの日記: SIGMUS89@九州大学 2月11日まとめ

日記 by aito
■セッション1「楽器発音モデルと分析・合成」 【13:00~14:20】
このセッションは吉川研セッション。

(1) 正倉院尺八吹奏時の歌口端補正長さの推定(九州大学)
吉川先生。正倉院宝物の尺八が楽器音響学的にどういうものかの推定。実物は触ることができないので、昭和期に調査されたときの資料を基に考察する。調査されている運指に対して、数理モデルと実測周波数との比較から、歌口端補正値を推定。「ジェットの具合によって周波数が変わるのではないか?」という質問があったが、その辺の変動は全部補正値の中に含まれてしまっているとのこと。

(2) サワリ機構をもつ弦楽器モデルにおける撥弦振動に関する実験的考察-初期条件の影響について-(九州大)
サワリ機構とは、弦楽器で弦を押し下げたときに弦に接触して音色を変える機構のこと。サワリがあることによって、工事倍音の余韻が強調される効果がある。数値シミュレーションでは、弦を持ち上げて離す場合と押し下げて離す場合で音に違いがあることが示唆されたので、それを実際に調べてみた。弦を高速度ビデオカメラ(6600fps)で撮影。シミュレーションの場合と似た現象が撮影されたが、映像がまだ鮮明でない。

(3) ホルンのストップ奏法に関する数値シミュレーションと管壁振動測定(九州大)
ストップ奏法は、ベルに手を入れて管をふさぐことで金属的な音を出すテクニック。そのときの音の変化をシミュレーションおよび測定で調べた。シミュレーションにより、音高が下がる現象が再現した。出口をふさぐことで閉開管が閉閉缶になることでモードが変わり、また途中で管をふさぐことで管長が変わることで音高が変化することが確かめられた。また、ストップ状態では放射音圧が1/10になる一方、出口付近での壁の加速度は7倍になり、同時に2kHz~4kHzの倍音が非常に増大していることがわかった。振幅が理論式とは合わないので、その原因を探るのが今後の課題。

(4) 擦弦振動の過渡状態に関する数値シミュレーション(九州大)
バイオリンなどの擦弦振動の定常状態は良く知られているが、過渡状態がどうなっているのかについてシミュレーションをしてみた。過渡状態では1つの角が弦の上を回転するような運動(ヘルムホルツ運動)をしているが、過渡状態には角が2つある運動をしていて、数周期のうちにそれが1つに収束して定常状態になる。定常な音が出るためには、弦の端での減衰が本質的。数値計算の精度と結果の関係について(どの程度まで結果の振る舞いが信用できるのか)について質問があった。

■セッション2「創作」【14:35~15:55】
(5) ロシアの電子音響音楽とマルチメディアの状況報告(静岡芸工大)
長嶋先生。去年12月にエカテリンブルグで開催されたSYNC2010(Int. Electroacoustic Music and Multimedia Festival and Competition)の報告。長嶋先生3日間毎日2時間のレクチャーをやらされたとか。ロシアの国際会議って大変そうだなあ。ロシアの音楽事情はやはりクラシック中心で、電子楽器的なものはマイナーだそうだ。

(6) ソレノイドを利用した動的触覚呈示デバイスによる音楽演奏インタフェースの提案(首都大学東京)
PocoPocoの発表。12月のインターカレッジで実物を見た気がする。4×4の丸いものがコイルの磁力によって浮き上がったり沈んだりして、それを押し込む事でスイッチとしても使える。触覚提示と入力の統合デバイス。これを使ったシーケンサーPocoSequencerの紹介。見た目は大変面白いのだが、本当に触覚提示として使えるのかというコメントをした。

(7) 演奏ソフトウェアアートにおける楽譜としての視覚表象(九州大学)
中村研。「ソフトウェアアート」の中で、演奏を中心とする「演奏ソフトウェアアート」についての考察。2年前のSIGMUSで中村先生が講演された発表(「新しい音楽」)と関連する内容だと思う。既存の演奏ソフトウェアアートとして、Cubie、Overbug、push action buttonsなどの紹介。これらのソフトウェアアートの画面(音と同期している)と、通常の楽譜の機能の比較について。楽譜の機能を「規範的」「記述的」「企画的」の3つの機能に分け、コンピュータ画面と比較。その結果、コンピュータの画面は楽譜の機能を一部持っているという主張。「楽器の機能をどう定義しているのか」という質問があった。私もそれはちょっと疑問に思っていて、ここでいう「画面」は「これから演奏される音楽に関する何らかの情報をあらかじめ記述したもの」ではないので、広い意味での楽譜とも言いにくいのではないかと思った。

(8) dial:音・映像構成のためのロータリーシーケンサ(九州大学)
中村研。楽譜を円形にした「円形記譜法」の紹介と、それを利用したソフトウェアアートoverbugの紹介。さらに円形記譜法を応用したシーケンサー「dial」の紹介。overbugでは複数の回転オブジェクトの角速度が同期していたが、dialでは速度同期なので複雑なシーケンスが作れる。グラフィック画面上にコマンドが重畳して描かれるCUIが面白い(実用的ではない気がするが)。

■セッション3「音楽/演奏分析と生成」【16:10~17:50】
(9) Segmentation of Music Using Physiological Data(阪大)
沼尾先生のところ。音楽聴取者の生体情報(心拍、皮膚抵抗など)を利用して音楽を分割する。対象は洋楽ポピュラー。基本的なセグメントをk-meansでクラスタリングすることで最終的なセグメントを得る。クラスタリング実行にはWEKAを利用。分割結果の精度を検討した結果、心拍だけが有効。特徴選択手法によってさらにやや向上。何が「正解」なのかわからなかったので質問してみたら、イントロとかAメロみたいな構造を自動抽出したいと思っているようだ。なんか問題設定に無理があるような気がする。

(10)非調構成音を含む和音への対応を目的としたTPS(Tonal Pitch Space)の拡張―ジャズ音楽理論への適用を目指して―(工学院大)
おなじみ山口さん(@nycity1022)。クラシック音楽理論TPS(Tonal Pitch Space)をジャズに拡張しようという試み。TPSは和声を扱う理論で、和声間距離を定義する。TPSのbasicspaceはクラシックでないコード(7thとかdimとか)をそもそも表現できない問題がある。条件を緩和するために、basicspace関数とchord関数を拡張する。表現はできるようになり、複雑な和音進行の距離が計算できるようになったが、制約がゆるくなったために、クラシックな和音での調の推定がうまくいかなくなってしまった。アドホックな規則を入れれば改善しそうだけど、こういう理論系はどこまでアドホックな規則が許されるのだろうか。

(11)演奏者の個性を表す特徴に関する考察(京大)
寺村さん(@okeihaan)。演奏の個人性を表すモデルUsapi。UsapiはGaussian Processを用いた演奏表情生成モデル。楽譜情報に対して、実際の演奏を「パラメータ時変のガウス雑音が載った信号」としてモデル化する。今回は、学習データやカーネル関数のパラメータによって演奏の個性がどう変化するかを調べた。ある演奏でUsapiを学習しておいて、カーネル関数などを取り替えて演奏推定したときに、モデル出力が実演奏とどれだけ食い違うかを調べた。その結果、カーネルパラメータは演奏者間ではそれほど違いがなかったが、未学習の場合とは違う。学習データが異なる場合には出力に違いがある。いろいろ解析した結果、連続する2音のdynamicsの分散と歪度に演奏者による違いが表れることがわかった。「演奏者の違いはそこにある、と言ってしまうのは言いすぎじゃないの?」という嵯峨山先生のコメント。

(12)音楽演奏表情データベースCrestMusePEDB 3.0: 収録演奏の公開とフレーズ構造記述について(関西学院大)
橋田さん(@em_use)。これまでのCrestMusePEDBに加えて、音楽構造に関する分析結果を入れたものと、ある音楽構造に合わせて演奏した演奏データを新たに収録。音楽構造(フレーズ)を記述するために、MusicApexXML形式を定義。またラベリングのためにMusicApexEditorを開発した。3月後半リリース。

(13)スペクトルの1/f特性に基づく歌唱合成音声の音質改善(関西学院大)
川端研。VOCALOIDによる合成音声に緩やかなフィルタをかけてスペクトルの傾きを変えたときに印象がどう変わるか。傾きを1,1/f,1/f^2 と変えて印象評定を行った。音質評価なのだが、音質に対して適切でないと思われる形容詞対が入っている(「ありがたい」―「恩知らずの」など)。また、形容詞対の評価と評価の高さは必ずしも直接に結びつかないと思う。一対比較をすることにより、1/fのときが最も評価が高かった。フィルタなしは1/f^2に近いそうだ。
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日本発のオープンソースソフトウェアは42件 -- ある官僚

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