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yasuokaの日記: 『日本のルールは間違いだらけ』は間違いだらけ

日記 by yasuoka

たくきよしみつの『日本のルールは間違いだらけ』(講談社現代新書2017、2009年10月)を読みかけたのだが、内容にあまりにも事実誤認が多く、第一章の途中で力尽きた。私(安岡孝一)が力尽きる直前までのガセネタを、以下にざっと並べて晒しておく。

このように、日本式ローマ字のルールが最初からかなり曖昧だったため、一度しっかりしたルールを決め直そうという意図で、1937(昭和12)年に、内閣訓令第3号として公布されたのが「訓令式ローマ字」だ。(p.20)

NかMか」にも書いたが、5年半に渡る臨時ローマ字調査会の議論の中心は、ヘボン式と日本式のどちらがローマ字としてふさわしいかだ。日本式の曖昧さを決め直すために、5年半も議論していたわけじゃない。

訓令式ローマ字の曖昧さは、主たる表(第1表)の他に「第2表」というものが付属していたことにも表われている(p.21)

昭和12年9月21日内閣訓令第3号には、「第2表」なんか付属していない。昭和29年12月9日内閣告示第1号か何かと、混同してないか?

島岡次郎という名前の人がいたとする。
島岡 次郎さんであればなんの問題もないのだが、島 岡次郎さんという人であれば、1946年11月17日から2004年9月26日までに生まれた人の中には一人も存在していないはずだ。(p.41)

違う。子供の名づけに使う漢字が当用漢字に制限されたのは、1948年1月1日だ。しかも、いくつかの理由で前後14日間は余裕があったため、1948年1月15日から2004年9月13日まで、となる。ただし、家庭裁判所が人名用漢字以外を認めてしまうケースがあるので、そうなると、そもそも「一人も存在していない」とは言い切れない。

この後は1997年に「琉」、2004年2月に「曾」、6月に「獅」、7月に「毘」「瀧」「駕」と、ちまちまと追加して、合計290の常用漢字以外の漢字が指定されていたが、2004年9月、一気に488字を追加、さらに人名用漢字許容字体から205字を加えて、合計983字に増やした。(p.45)

2004年2月23日に追加されたのは「曽」だ。「曾」じゃない。「曾」が追加されたのは2004年9月27日だ。あと、2009年4月30日に「祷」と「穹」が追加されているのだが、そっちは無視していいのだろうか?

当用漢字が告示された1946年11月からおよそ2年半後。1949年4月には、「当用漢字字体表」というものが告示された。当用漢字はこう書くのが正しい、という書体見本だ。(p.46)

当用漢字字体表は、漢字の骨格を手書きで示したもので、その意味では「字体見本」だ。「書体見本」などではない。

このときに、従来存在しなかった字形が登場した。
例えば、「羽」という字は、それまでは「羽」と書いていたが、今後は「羽」と書きますよ、ということになった。亜細亜の「亜」という字も、それまでは「亞」と書かれていたものが「亜」に変更された。他にも、「國」→「国」、「區」→「区」、「佛」→「仏」、「團」→「団」、「廣」→「広」など、多くの字が新しい字形に改められた。(p.47)

「区」は、1946年の当用漢字表の時点で簡易字体の「区」が採用されていた。当用漢字字体表で改められたわけではない。

実は、「掴」や「鴎」という字形は、1983年までは存在していなかったのだ。(p.47)

嘘を書くにもほどがある。文字コードに限ったとしても、CO.-59の盤外文字「漢テレ文字コード表」(1960年5月)では、3663と5878にそれぞれ「掴」と「鴎」が収録されていた。少なくとも「鴎」に関しては、『文字符号の歴史 欧米と日本編』の「2.1.7 漢字テレタイプとCO.-59」にも書いておいたはずだ。

「つちよし」は、日本国中の看板や表札、手書き文字の中に無数に存在しているにもかかわらず、Unicode時代になってもコンピュータ上では扱えない。「おまえはすでに死んでいる」と宣告され、デジタル文書ファイルの中に入ることを拒否されている。(p.67)

「𠮷」ならUnicodeのU+20BB7に収録されてるけど? いったい、いつの時代のUnicodeの話をしてるの?

これら以外にも曖昧な記述がかなり多く、細かくチェックすれば、まだまだ間違いは増えそうだ。「日本のルール」の間違いを指摘する前に、自分の文章の間違いくらいチェックしておくべきだと思うのだが、そもそもちゃんと調べる気がないのだろうか。

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