本家インタビュー:ミュージシャンのジャニス・イアン 25
超ベテラン 部門より
airhead 曰く、 "本家インタビュー翻訳企画第7回目として、シンガー・ソングライターのジャニス・イアンをお送りします。彼女はオフィシャル・サイトでの独自のアルバムの販売やMP3の配布などの活動もしており、その視点から「音楽業界の今」について数々の記事を執筆していて、本家/.でも度々取り上げられています。
2002年9月に掲載された"Janis Ian on Life in the Music Business"で彼女は、音楽業界の実情,RIAA,レコード契約,アーティストの本音,さらには未来について、ユーモアを交えながら答えてします。問題点の指摘だけにとどまるのではなくリスナーには見えづらい背景についても語られており、興味深いものになっていると思います。翻訳附記とあわせてどうぞ。"
1) いくら?
evilviperによる
―― あなたは、あなたのCDの表示価格から何パーセントを受け取るのでしょうか?
Janis: まずアーティスト/シンガーとして。それは契約や表示価格にも左右されるので難しい質問です。たとえば私は契約上、「ミッドライン」価格のレコード,カットアウト,シングル,カセット,コンピレーションについては実入りも少なくなってしまう... ええと、だいたいおわかりいただけますよね! 時代によっても変わります。私の最初の契約はVerve(現在Polygram)での、印税率2%というものでした。現在の印税率は12から20%です。一般的に考えれば、出荷/配布/広告/移動/電話/ファックス/アートワーク/パブリシティ/プロモーション/製造などなどのかねてからある諸経費以外のものが発生せず、(印税が)完全に私のもとに返ってくるとすると、私は17.98ドルの定価から1,2ドルくらいを得ることになります。いやいや、そんなことはあり得ない、レコードに高い定価が付けられるのは、そこに多くのプロモーションがなされる場合だけだから。(12.98ドルで売られる)ミッドラインの場合、私の取り分は最終的に85セントにまで下がります。
ソングライターとしてですが、曲を書いていたとしてもさほど受け取れません――レコード会社は75%条項に訴えるからです。これにより彼らは、議会が定めた作曲/音楽出版のための法定レートの75%だけをソングライター/レコーディングアーティストに支払います。彼らの最初の要旨は、およそ10年前のことですが、自作の曲を録音すると言ってゆずらないアーティストがヒット作の芽を摘んでしまった、それはレコード会社が彼らにヒットを見込めそうな曲を録音するように奨励することができなかったから、というものでした。
―― それと、もしご存知なら。価格のうち、広告やスタジオ代その他に支払われるのはどれだけで、レコード会社の純益はどれぐらいになるのでしょうか?
Janis: 広告経費やスタジオ経費その他を正確に把握しない限り、それを決めるのはほとんど不可能でしょう。世界の大部分を通じてMorgan Creekに帰属している私のCD "Breaking Silence" では録音のすべてを自身で支払ったので、録音費は(Morgan Creekには)計上されていないのです。それは全世界で10万枚売れましたが、印税についてはわからないままになっています。
―― 解説と字幕と追加シーンがある2時間のDVDが、10ドル足らずで売られているというのは不思議だとは思いませんか? そんなに安いオーディオCDはほとんどないのに。
Janis: 私はそれを不思議だとは思いません。けしからんと思いますよ。
2) ラジオ局の整理統合
gorillaによる
―― あなたが音楽ビジネスの世界に入ってきたとき、ラジオ局は多種多様でした。しかしここ2,3年でこの多様性は消えてしまいました。これについてコメントはありますか?
Janis: ひょっとして、我々から選択の余地を奪い、ひどい音楽で埋めつくされたプレイリストで我々をおかしくさせようという、巨大な国際的陰謀によるものかしら? もしかすると、その陰謀にはレコード会社だけでなくて(100万の好みが違う人々に100万のアーティストによる100万タイトルのCDを売るよりも、1人のアーティストによる1タイトルのCDを100万枚売るほうがはるかに安上がりだから、利益を得ることになる)、ラジオ局(私たちが多様で素晴らしい音楽をどんなに必要としているかよりも強い情熱を、新しい冷蔵庫/新人を発掘するために行くカンクンへの旅/フリーランチ/オフィスに置くワイドスクリーン・テレビといったものに注いでいるのかも)、さらにはBackstreet Boysのオンエア3000回によって引き起こされるとんでもない精神障害を利用して我々を薬漬けにしようとしている、製薬会社も加担しているのかしら?
冗談は抜きにして、もはやレコード会社にとって、多様性は提供できるものではなくなっている――少なくとも、重要とされていないのです。Newsweek(2002年7月15日)のSteven Levyの記事を引用している、Linux Journalに投稿されたこの記事を見てみましょうか。Levyはこう述べています――
どうしてまたレコード・レーベルはこのような強硬路線をとっているのか? 私の推測ではこれは、彼らがとっているインターネットに適応できないビジネス・モデルへの保護に他ならない。彼らの利益は超大作アーティストから来ている。業界がより多様性を持つ生態系へ移行すれば、独立系レーベルやアーティストは成功を収めるだろう――次のBritneyを定着させようと「安い客」をかき集めるのを妨げられるレーベルは損害を被ることになる。後ろにRIAAがいる経済学者の証言「ウェブラジオについて劇的に刷新された政府の料金表は『市場整理統合をもたらすものだから、必然性があり望ましい』」というのは動かぬ証拠だ。
要するにそういうことなのです。「市場整理統合」は、彼らがプロモートしなければならないアーティストを少なくし、彼らに課せられる最大経費を低くすることを意味します。プレイリストを小さくすると、「視聴者が自身の判断で少ない選択肢から何か買ってくれる」という可能性が大きくなります――見つかるのはそこにあるものだけ、ですものね。
3) 年季契約の隷属
zapfieによる
―― あるインタビューのなかであなたは、音楽業界での契約を年季契約の隷属になぞらえるべきだ、と言及されていました(決められた枚数のアルバムを製作しなければならないが、作られたものが条件に合うかどうかの最終的な決定権はレーベルにある)。多くのアーティストがこの契約期間を進んで受け入れるのは、どうしてだと思いますか? より公平な契約を促進するためには、何ができるのでしょうか?
Janis: ああ、あなたは二重の問題に触れています。一つめは、レコード会社が全てのカードを持っているということです――あなたが有名になりたいと思ったら、あなたは主流ルートをたどらなければなりません。大成功を収めたい場合も、あなたは主流ルートをたどらなければなりません。世界的な成功を収めたい場合もやはり、あなたは主流ルートをたどらなければなりません。そして、レーベル取引なしでミリオンセラーCDを出す「インターネットとライブショウのみの」アーティストが現れるまで、メジャーレーベルは主流ルートを利用できる唯一のものにしておくでしょう。Grateful Deadの数字を引き合いに出さないでね――彼らは例外、桁外れだもの。
二つめは、最近は誰もが有名になりたがって、どこまでいっても満足しないということです。こんな例はどうでしょうか――'20年代の中頃、(冷凍室なしの)小さな冷蔵庫と(小さなオーブン付きの)ガスコンロがやって来て、私の祖父母は興奮したそうです。そのころ家には1台のテレビがありました。私の両親は、いつかは冷凍室付きのより大きな冷蔵庫,4つのバーナーがあるコンロと3つの棚があるオーブン,食器洗い機,トースター,ミキサーなどを、と考えていました。家のテレビは2台になっていました。私の世代はそれらに加えて、電子レンジ,自動コーヒーメーカー,フードプロセッサー,リビングと寝室とキッチンそれぞれにテレビを、というようになっていました。次の世代はそれらに加えて、エスプレッソマシーン,製パン機などが欲しいと思うでしょう。テレビの数は部屋の数を超えてしまうかも。
名声にも同じことがいえます。私の祖父母の時代、有名人といえば犯罪者か政治家くらいしかいませんでした。地域を越えて名声をとどろかせたアーティストは本当に珍しかったのです。古典芸術のアーティストでさえ、世界的な名声を得ることはほとんどできませんでした。現在はアーティストの誰もが、より有名であるように強調して見せるテレビや雑誌を利用することで、もっともっと有名になれると考えています。そして彼らはとことんまで得ようとします。
私はそのことを(この手記での考察を)、私がもはや二十代や三十代でないことからくる恩恵の一つと考えています。私は、自分がもうヒット作を作ることはできないということを痛感しています。そういう私に対して、そういう目的の投資をしようとするレーベルはありません。(余談ですが、かのCarlos Santanaはアルバム製作に75万ドル,プロモーションに150万ドルを費やしたといいます。これは大変な金額ですよね。彼がもともと「現役引退していた」ことをClive Davisが躍起になって証明しなければ、そこまで必要としなかったでしょうけど。)
これは本当なんです。私もその結論に納得できるようになるまでには何年もかかりました。しかし一旦納得すると、私の人生を見つめなおして大きな幸せを感じることができました。10年前の私はまだブラス・リングを追い求めていて、16枚目のプラチナ・レコードにはならないかと待ち焦がれていました。現在私は、望むところで演奏することができ、望むものをレコーディングすることができ、そして愛することで生計を立てていることに深い喜びを感じています。わかっています、こういうのはひどく楽天的だ、反吐が出るほどに、というのですね。でも、そういうものなのです。
4) RIAAのない世界
ahknightによる
―― RIAAは有害だ。これは紛れもない現実だ。アーティストの見地から教えて欲しいんだけど、こいつが「どうあるべきか」を知りたい。レーベルと契約すれば奴らは製作を手伝ってくれるけど、その後で使用人を呼び出して音楽を盗んでしまうだろう。一体全体、どう関わるべきなんだろう? それを防ぐのに現在障害となっているものはなんだろう? 我々がアーティストのためにこれを是正する、社会としてとれる方法について、何か思い当たるものはあるかな? アーティストを助けるために、我々には何ができるだろう?
Janis: やれやれ... なんてたいへんな質問かしら! 残念ながら、私には答えられないですね。双方にとって公平な契約がなされるようにあるべきでしょう。レコード会社が初期コストの矢面に立つことは疑いようがないし、利益を上げるに値するというのも明らかですからね。問題は――金額にしてどれだけなのか、それは最終的に誰の財布から出てくるのか、ということ。
あなたたちが一方的にRIAAを有害とみなすことができるか、私はそれを疑問に思います。覚えておいて、彼らもメディア複合企業体の支援なしでは存在できないのですよ。Hilaryが手綱を取るようになってからというもの、彼らがずっとずっと積極的に(おせっかいに? 欲ばりに?)なっていることについては私も同意するけども、しかしそれは突き詰めてみると、頂点から始まっていることなのです。そしてその頂点にいるのは、すべてのお金を握っている消費者なのです。
どう関わるべきなんだろう? ええと、私たちは皆良き友であるべきで、握手を交わすべきで、約束は守るべき。そんなところから始めればいいかしらね。まじめな話、私にはわからない。私にわかるのは、レコード会社が大きくなりすぎているということ。おそらくアメリカ合衆国に残っているメジャーレーベルはたったの5つで、そのうち4つまでが他の国の人々によって所有されています。わたしは考えるのは、不在地主の支配には多くの問題があるいうこと。ドイツや日本やアルファ・ケンタウリの人々は、合衆国にいる消費者やアーティストがどう感じているか、ご存知かしら?
もう一つの問題は弁護士です。彼らに報酬を支払われるのは、できるだけ長期間安上がりにアーティストを拘束する目的でです。そして、'70年代に音楽が「成長産業」になったという事実。'50年代や'60年代にも関わってくる商売人は多くいましたが、彼らも概して、音楽が好きだという理由から音楽業界に入ってきました。確かに、彼らはほとんどの場合アーティストを糞のように扱いましたが、少なくとも彼らは共に働くことを楽しんでいました。'76年か'77年頃にはレコード会社に入っているハーバード・ビジネス・スクール卒業生の姿が見られるようになり、これともう一つ破滅の前兆がありました。役員によるコカイン使用です。それは彼らがお互いにいがみ合うのに係わる時間を浪費させました。こうしてあの、ばからしいアーティスト契約料が始まったのです。みんな聞いたことがあるでしょう、Mariah Careyとかのアーティストがレコード会社との契約を解除され、莫大な金額を支払った――態度を変えて、別の会社から莫大な金額を受け取るためだけに?! なんとくだらない。
あなたたちに何ができるか、に関して。政治的になって、投票することから始めてください。このことについて取り組まねばならない問題が、あなたたちの代表の得票とどう関わるかを調べてください。ライブミュージックをサポートして、そしてその会場でCDを買ってください――少なくとも、そうすることで間違いなくお金の一部がアーティストに還元されるはずです!
5) RIAAはどう変わったか?
tinrobotによる
―― 詮索好きでごめんなさい。あなたはアーティストとして音楽ビジネスに(オホン)年にもわたって関わっておられますよね。あなたが最初のレコード契約をしてときから、RIAAはどのようの変わりましたか?
Janis: 技術的な話から。RIAAは「RIAAカーブ(フォノグラフ再生システムのパフォーマンスを最適化するための周波数レスポンス仕様)を開発するための技術者をメンバー会社から召集することで、レコードの技術的標準化を促進する」という目的で1952年に結成されました。言い換えると彼らは、誰もが再生できるフォーマットについて、すべての会社でレコーディング技術が最適に使われるのを確実とするために結成された、ということになります。1958年に彼らは、RCA/Victorが「ゴールド・レコード」(これはGlen Miller Orchestraに贈られました)を作ったのに倣うことして、その最初のものはPerry Comoに授与されました。私が子供のころは、このゴールド・レコードを認定する(certifying)、というのが彼らの仕事のすべてでした――ところで、そのプロセスにおける裏取引(back-door dealings)について多くの噂が飛び交っていますが、ここではほとんど耳にしませんね。インターネットではよく聞く話なんですが。
Hilary Rosenの登場で、RIAAは「問題」の全く新しい範囲の気にするようになり、知的所有権の擁護者/アーティストの権利の擁護者/レコード会社の権利の擁護者(いずれか一つを選択せよ)としての顔をあらわすようになりました。そしてそれが現在の彼らです――彼らが選択する何かしらの権利の擁護者としての顔は、主流レコード業界のために重要なのです。残念なことに、まるで被告側弁護士のようですが、彼らはクライアントが有罪かどうか問うことは決してありません――彼らはクライアントに可能な限り最高の成果を与えようとするだけなのです。
大きな変化の一つはRIAAがコントロールするものの量と、そのコントロールを行使する方法です。たとえば、私が誰かへのプレゼントとして私のゴールド/プラチナ・アルバムから一つ選び、それを1枚ナッシュビルで買うためには、それらを製造しているRIAAによって「認可された」ある店にまで行かなければなりません。信じてもらえないかもしれませんが、その店はナッシュビルある唯一の店で、そのうえ彼らは通常数ヶ月待たせたりするのです(言うまでもなく、新譜はしばしば間違われて注文しなおす破目になります。あるときには私の名前を間違って綴りもしました)。私が額縁店を営む友人に、なぜ彼女がRIAAアカウントを得ようとしないのかを尋ねると、彼女はそれについて調べて、例の店が応募しなければならなかったことを聞きだしました。例の店が相談した人物は、店が「タイプ」ではないと判断して認可は下りないだろうといい、彼は店に、その特権のためには年間5千ドルが必要であること、それと同時に、店側が決められた最低限の注文を達成しなければならないことを警告したというのです。さらに店側は毎年再認可を受けなければなりません。言い換えると、レモネードに一番たくさん砂糖を入れる人は誰であれ、結局レモネード・スタンドを持つようになるということです。
もう一つの大きな変化は、関係するお金です。私は15歳のときに初めてグラミー賞にノミネートされ、Arlo Guthrieと共に授賞式へ行きましたが、そこでは業界人の誰もが「あーあ、もう少しだけラジオの受信地域が広ければ...」などとぼやいていました。1枚のゴールド・レコードは、5万ドルに相当する売上の単位でした。それはずっとずっと小規模のビジネスで、したがって賭けも非常に少なかったのです。現在のレコード業界は、映画業界でいうと'60年代初期にあたり、莫大な利益を上げています。証人Rosenのサラリーは7桁以上で、ここには臨時収入は含まれておりません。彼女が同意できないことについてロビー活動を行わないというのは、不自然ではないですかね!
6) この先どうすんの?
mshompheによる
―― 「我々にはにはいまだ、音楽をダウンロード/リッピング/保存する全般的な行為が禁じられている」という主張はおかしいと思う。みんながまだCDとかなんとかを買っているのは、今の技術では即座に完全な高品質のコピーを作れるようにはなってないからだもの。こうしてみると、いまどきのファイル共有ってのも昔ながらのテープ共有とたいして変わない。個人的には、それはアーティストのためにもなると思う。
それはともかく、先のことについて考えてみよう。完全なCD並みの品質のアルバムを一瞬で転送できて、CDに焼くのも一瞬(CDでなくても、その頃の技術で使えるものでいいんだけど)、技術がそこまでいってしまったとき。Janis Ianの新譜だ、ライナーノーツも全部ひっくるめてクリック一発でコピー。そうなったらやっぱり、困ったりする? それとも、アーティストは作品をもっと一般的なところに置いとくことで、作品の複製を認めるのが普通になったりするのかな?
Janis: これまた多くの問題を含んでいますね! ちょっと待ってください... ええ、アーティストにとって悩みの種だろうと思いますよ。まあアーティストというものは常に何かしらについて悩んでいるべきで、それこそが作品の肥やしになるとは思いますけどね。
ここで疑問です。仮に、完全なCD並みの品質のアルバムを素早く簡単に転送することができて、すべてのアートワークを複製することができて、どうにかCDに収めることができるとしても、果たしてレーベルは、空のCDという器に収まるちょうどいいサイズのものを出そうとするだろうか、などなど。さて、そうなったとしたらおそらく、人々は自身のCDをオンラインで販売し始めるでしょう。そしておそらく、すべてのビジネス・パラダイムはオンライン流通へと移行するでしょう。これに関することですが、オンライン製作は距離を数クリックに縮めました――私は次のアルバムを製作中で、それをPro-Toolsを使ってリアルタイムにやることもできるのですが、現在LAに滞在してエンジニアと共に作業しています。(オンライン製作に)することもできるのですが、ちょっと面白味に欠けるんです。
かつて追記記事で述べたように、私は「音楽業界はCDで、より多くより豊かなコンテンツを提供せざるを得なくなってきている」と考えています。おそらくDVDがすべてのCDに取って替わり、そこでは音楽だけでなくインタビュー,コンサート・シーン,ゲーム,ありとあらゆるものが提供されるでしょう。それが何を意味するのか、私にはわかりません。
個人的な意見ですが、あなたたちがファイル共有を止めることができない、ということは重々承知しています。ですからこそ、より良い代替案をあなたたち自身が模索すべきなのです。
7) RIAAの反応
sdjunkyによる
―― 「ビジネス」について書かれたあなたのオンライン記事に対する、RIAAや各レーベルの反応はどういったものでしょう? また、あなたはそれをあからさまに発言したことで(法的あるいはその他の)脅威を受けたりしましたか?
Janis: 衝撃的な内容に唖然とする沈黙? 苦虫を噛み潰したような沈黙? 深い怒りに満ちた沈黙? Hilaryは非常に聡明な女性です。才能あふれる、あるいは経験豊富な政治家といえるかもしれません。彼女からは素敵な電子メールを受け取りましたが、そこで彼女は、私が述べた幾つかのことには同意できないけれども、私の書き方は賞賛に値する、といってくれました。
レーベルについていうと、数多くの役員,秘書,いろいろな立場の人たちから、私の発言に同意するけども、仕事にさしさわりがあるので匿名にしておいて欲しい、というのを聞きました。
その他に思いがけない副産物が一つだけありました。私はNARM総会でのパネリストとして予定されていたのですが、「ビッグ・ファイブ」のうちの一つが「彼女を呼ぶなら総会には参加しない」といった、というものです。
しかし先の回答で述べたように、私は大レーベルとの契約を取りつけようとは思っていませんし、ヒット作を作ることにもこだわっていませんし、私には失うものなどないと考えています。ですから私は気にも留めないし、人々が私の音楽を聴いてくれさえすれば充分なんです。
8) 複製権はアーティストの手元に置いておける? それでやっていける?
reallocateによる
―― アーティストが自身の素材に複製権(Copyright)を保持しておくことは、どれくらい実務的に、あるいは一般的になっているのでしょうか? そうすることによる金銭的インセンティブはありますか? レコーディングされた素材の複製権を保持しておきたいという希望は、「主流」レーベルとの契約の可能性に何らかの影響を及ぼしますか?
Janis: これはレコード・マスターについてでしょうか、それとも出版権について? この両者はまったく異なるものです。そしてこの議論を進める上で「作者が複製権を所有しない場合でも、作者は収入の50%を得る」ということを覚えておいてください。半分を出版者が、残りの半分を作者が得ます。この作者の割当を売ることは、(少なくとも法律上は)作者自身にもできません。
私は、私の曲の約半分について複製権を所有しています。私は21歳のときに、自身の目録を買い戻さなければなりませんでしたが、そのことは時間が経つにつれて、かなり価値があることだと判りました。私は、私のレコードの約半分について複製権を所有していますが、それは私のもとに長年有能な弁護士(Ina Meibach)がいてくれたからこそなし得たことで、それは私が、自身の契約に含まれない「純粋にファンのための」レコードも製作してきた、という理由によるものです。
残念ながら(アーティストが複製権を所有しておくことは)一般的ではありませんが、残念でない場合もあります! あなたが駆け出しのソングライターであると想像してみてください――日銭を稼がない限り、あなたにはお金がありません。ここで、「3年間だけあなたの複製権を所有させてもらえるなら、その期間あなたを支援する」と申し出る者がいるとします。それだけでなく、彼らはあなたの曲を市場に出し、他のアーティストがそれをレコーディングするように働きかけてくれます! 個人的には、これはまったく公平な取引であると思います。3年後にあなたはこの取引を解除することもできますし、うまくいけばいくらかの成功を手にしているかもしれません。これであなたは作曲を軌道に乗せることができるでしょう。
レコードに関しては少し異なり、それには彼らがあなたを拘束する期間が関わってきます。ほとんどの発行契約(publishing contracts)は1年から5年をひと区切りとして、各々の終わりには任意選択が設けられます(相互の場合もあるし、発行者(publisher)のみに与えられる場合もある)。レコード契約は常に、素材の生産とリリースについて結ばれます。彼らにその気がない限り、7枚のレコード製作という契約を結ぶことや、5年,7年,はたまた10年という期間を確保する方法はありません。
この両方の事例に関して、買い手は素材を永久に「所有します」。しかしソングライターについていうならば、買い手が私の収入を半分より多く所有することは決してありません。レコードについては、それが行われます。
(アーティストが複製権を所有しておくことは)実務的でしょうか? これは状況によります。もし私がそうするとしたらどういうことになるでしょうか。「全世界という範囲に対して素材の全てを追跡して確実に印税を得る、などといったことを行う」ビジネスマネージャーを抱えるのに充分なだけ稼がねばなりませんね。私自身もまた、財務状況をチェックできるだけの知識と経験がなければなりませんし、ある国で過少報告されているとか曲が行方不明になっているとかいったことに気づかなければならないでしょう。しかし、そうなるにはかなりの時間がかかります。
(アーティストが複製権を所有しておくことは)大レーベルとの契約に影響を及ぼすでしょうか? ええ、間違いなく。あなたが既に巨大な成功をおさめているわけでない限り、あなたが自身のマスター・レコードを所有してレーベルとの契約を取り交わす、といったことは不可能です。そしてほとんどの場合、あなたは出版の少なくとも50%を諦めねばならないでしょう。そういったことはすべて、あなたが契約しようとするレーベルのためのインセンティブなのです。
9) FBIが監視している?
small_dickによる
―― あなたのサイトには、あなたがFBIの捜査対象であったことを示す文章がいくつかあります。それについてもう少し詳しく教えてもらえますか? それは、人種を越えた関係について歌われているあなたの初期の作品( "Society's Child" , 1966)か何かに関係していたのでしょうか?
Janis: いいえ。実のところ、私の作品が関係していないと知って少しムッとしたぐらいです! そのファイルは私が生まれる1年前に始まっていたのですが、それは私の父(そのころ養鶏業を営んでいた)がサウス・ジャージーで開かれた卵の価格に関する会合に出かけた、というのがきっかけなんです。さらにまずいことに母が、公民権会議(Civil Rights Congress)の投票権に関する会合に出席したりもしました。そのうえ彼らには、自ら「多文化的で人種を越えた」と謳ったサマーキャンプを開くという厚かましさもありました。それが主な理由です。
あなたが納めた税金は、ちゃんと使われていますよ...
10) アーティストに対するレコード会社の現在の役割って?
Just Jeffによる
―― ほんの数年前まで、録音された音楽を広く流通させるには高価な設備と多額の資金が必要でした。大手のレコード会社のみがそれをなし得ました。アーティストには、大レコード会社と契約して彼らの人生を明け渡すより選択の余地がありませんでした。
現在、録音された音楽を流通させるコストは無いも同然になっています。それでもまだ録音された音楽の価格は高いままです。現在レコード会社がアーティストに対して提供しているものとは何でしょうか? レコード会社がアーティストに対してできることで、アーティスト自身の力ではできないものは何かあるでしょうか? アーティストたちも、このことについて自覚し始めているのではないでしょうか?
Janis: たくさんあります。本当ですよ。
まずは製造と流通から。Joe ShmoはRadioheadと同じ製造/流通業者に頼っています。ここで両者のレコードが同じ週に「リリース」されるとします。Radioheadは200万枚発注し、1ヵ月で売り切れ――彼ら曰く、今すぐにもっとよこせ! Joeは5,000枚発注し、1ヵ月で売り切れ――彼曰く、今すぐにもっとよこせ!
どちらが先に追加のレコードを手にすると思いますか? どちらのレコードが先にレコード店に届くと思いますか?
ほらね。流通コストは無いも同然ではありませんし、それは見通せるかぎりの将来においても変わらないでしょう。まずはこの国の全てのレコード店,オンライン会社,その他について考えてみてください。そして、それらすべてにあなたのレコードが行き渡るようにするのはどういうことか、想像してみてください――あなたが演奏するすべての都市についてですよ。ではそれを全世界に適用してみましょう。これは想像するだけでも恐ろしいことですよね。あなた自身が流通業者と契約する? なるほど。アメリカに大手流通業者が2つ3つしかないことは例外としても、(3万5千枚あるいはそれ以上、のように)あなたが確実な売上げを保証できなければ、彼らには敬遠されるでしょう。それは貨物保管と輸送の割に合わないのです。もし彼らが扱ったとしても、レコードがレコード店に行き渡ったかをあなた自身が確認しないといけないのですよ!
それに加えて、50州のラジオ局――お望みならば掛けることの20ヶ国――にもレコードが届くのを確認しなければなりませんね。
このように、先行コストを払うことに加えて、彼らが提供できるものは多いのです。私の視点から見てみますか? Windham Hillレーベルは私の任意選択を受け入れてくれました。2年後彼らは、私がレーベルを離れるかどうか訊いてきたのですが、彼らは私が次のレコードを作っても余るぐらいの「出発祝い」を支払ってくれました。そこで私は思ったものです。よし、作って保有して流通契約して、と全部自分こなしてやる――私がそれをよく検討するまでしか続きませんでしたけどね。
現在私は、ライセンス契約を取り交わそうとしていて、3つか4つの小規模レーベルとの間で交渉中です――この契約は、流通,プロモーション,パブリシティ,そういった一切を5年間に渡ってレーベル側が扱う、というものです。満足できる印税を手にし、国外での権利に問題がないようにし、国内での権利を5年間に渡って保有するといったことに、まったく煩わされないですむのです!
レコード会社がアーティストに対して提供できることで、アーティスト自身の力で得るのはほとんど不可能なものが、二つあります――役得と巨大な名声です。私は西側の国々のほとんどすべてでレコード売上1位になりましたし、日本でも同じくなのですが、言わせていただければ――それは本当に痛快な出来事でした。ホテルがただで使わせてくれる素晴らしいスイートや、飛行機のファーストクラスに据え付けてあるマッサージ機、プロモーターからの感謝のロレックス、そういったものは忘れてくださいな。2万5千人が集まった夜に、演奏を始めるときの気分を想像してみてください。
そもそもアメリカ人のほとんどが訪れることのできない国を見てまわれることを想像してみてください! 私は日本を訪れることができました。驚くべき歴史を持ち、印税が正しく機能している唯一の国です。私は普通に考えればけっして会えない人々と会うことができました。王族,小説家,ピュリッツァー賞の受賞者,会いたいと夢見ていたアーティストといった人々です。オランダでは、3万5千人の人々が私にあわせて歌ってくれるのを見ることができました。そういった名声からくる役得のたぐいは現在、(好むと好まざるとに関わらず)後ろにレーベルがいることのみによって達成できるのです。
Made In USA (スコア:2, すばらしい洞察)
ドイツや日本はアルファケンタウリなみに遠い存在なのでしょうか。(泣)
日本のデスクトップの9割以上は、アメリカの人々に所有された会社のOSとCPUが地主です。
なんかあったら外国人、というのは日米共通の思考パターンなのかも。
沖縄人じゃないけれどAC
レコード会社なんて (スコア:0)
という(ここでは)よく聞く意見の方々の反応に期待。
Re:レコード会社なんて (スコア:2, 参考になる)
搾取されるのを承知で、有名になるためにそれを受け入れるアーティストがいてもおかしくないし、現にそういうアーティストはいくらでもいるので、無意味ってことはないでしょう。
フランク・ザッパはメジャーレコード会社がことごとく数字をごまかしていることを証明し、訴訟に勝利して賠償金をぶんどり、業界全体が信用ならないということで最終的に自分でレコード会社を作って奥さんに経営させてましたよね。やろうと思えばできるわけだから、メジャーレコード会社に頼らずに活動すれば良いと思う。結局、ジャニス・イアンはメリット・デメリットをはかりにかけて、メジャーレコード会社に搾取されることを選択したってことだよね。文句をいう権利は彼女にもあるけれど、迫力不足って印象はぬぐえないかな。
Grateful Deadが別格だという話は同感だけど、彼らも自主レーベルの経営に苦しんだり、メジャーレコード会社の圧力に苦しんだりして、ビジネス的な成功という意味では80年代以降になってからだってことを忘れてないかなあ。
メジャーレコード会社のプロモーションに頼らずに成功しているバンドとしてはPhish [phish.com]がありますよね。ライブをやればスタジアムを満杯にできるし、野外イベントで9万人とか動員できる彼らにシングルヒットは一曲もなかったりします。
ジャニスの指摘はおおむね納得ですが、ここに挙げたほかにも細部にうかつな発言があって、一度売れたミュージシャンの本音としては貴重だと思いますが、ちょっと期待はずれって感じです。
...芸というものは一生勉強だと思っています...
Re:レコード会社なんて (スコア:1)
そういう論点で私が思い出したのは小林雅一の連載でした。具体的にはこれ、「第6回 音楽は誰の物?プリンスの挑戦」 [hotwired.co.jp]。はっきりと内容を憶えていなかったんだけど、読み返してみるとこのインタビューと重なる部分も多いですね。インタビュー形式よりも問題がわかりやすいかも、と思うので未読の方はそちらもご覧になってはいかがかな。
で、ここまで挙げられた例がZappa, G-Dead, Prince, Elton, Bowie, そんでもってJanisと、どいともこいつも相当な実績を持つ大物で、その知名度を活かして自主流通に弾みをつけるということなんだろうけど、「彼ら大物が大手流通に頼っていた頃の実績」と同程度の成功は難しい、ということだろうと思います。コスト面ではメジャーレーベルとははなから競争にならない、そこにいたる経緯によってはメジャーレーベルからの風当たりも厳しいかもしれない... まあ、当り前といえば当り前の話なんですが、成功例は少ない。
そこで気になるのは、そういう現状にもかかわらず挑戦する者が後を絶たないのはなぜなんだ、ということです。「隷属」「搾取」なんて言葉も、(金の問題というのもなくはないだろうけど)製造/発行/流通/販促といったもののほとんどの決定権がレーベル側にあって、皆深いいらだちを感じている、一旦Janisのいう「主流ルートをたどる」やりかたに入ってしまうと、発言したり行動に移すのは相当の大物でないと難しい...のではないかとも想像しています。
私は、メジャーレーベルのやり方を「搾取」というよりは「いよいよ切羽詰ってきている表れ」と見ています。
Zappaなりなんなりが昔からやってきたように、言いようによっては大昔から「搾取」だろうし、その度合いは昔の方が大きかったかもしれない、全体に占める「アーティストの権利(利益)」が少ないから「搾取」ではなくて、CDだとかなんとかには「アーティストの権利(利益)」以外の要素がいっぱいくっついている... そう見たほうがあっているような気がします。
で、インタビューにもあるようにメジャーレーベルは「ラジオの整理統合」「コピー・コントロール」「リッチ・コンテンツCD」、そういったものに積極的ですよね。
これは「現在宣伝などに大規模に投資し大規模に回収する、需要と供給を人為的に拡大する傾向が強まっており、(海賊問題の少ない地域では)開拓できるものは開拓し尽くしたが、いまだに市場規模を拡大しないとやっていけない、人為的に規模を拡大しすぎたため売上のわずかな減少が命取りになるかもしれない」、そういったことへの対処だと考えています。
(これはMicrosoftについても同様だと思っているんですが、どうなんでしょうね。分割論なんぞ出さなくても、MS自ら真剣に規模縮小について考慮しないとそのうちえらいことになるんじゃないかな、と思っているのですが)
そのあたりについてもっと突っ込んでくれるとかあればなあ、このインタビューではちょっと食い足らんかな、とは思いました。でもまあ、単に「搾取」とかいう言葉を持ち出して善悪を判定するよりも、もっといろいろ目を向けてくれ、と読み取ることができて面白かったです。
もう一つ、いろいろ試した末に「もうミリオンセラーはいらない、(自身の知名度などを考慮に入れれば)小規模レーベルがちょうどいい」というところに落ち着きそうだという話は興味深いです。ここでもメジャーレーベルの存在を前提にしていてまだ苦しいけれど、脱メジャーを目指す、という一点においてね。
余談気味ですが、このあたりの問題についてiTunes Music Store [srad.jp]に注目しています。あれだけの規模で、(伝聞よると)内容も充実している、出だしも好調ということですから、今後のサービス拡大によってはアーティストや独立系レーベルによる流通にとっても追い風になる、現在の流通が抱える問題に風穴を開けるものになる...そんな期待感をもっています。
# このコメント、今回紹介役だからもんだから多少ひいき目になってるかな... いや、かなりなってるね。はは。
Re:レコード会社なんて (スコア:1)
紹介された記事を読んでみましたが、
これは必ずしも事実ではないですよね。契約にもよるのでしょうが、実質的にはレコード会社はレコーディング費用や販促費用を一時的にアーティストに貸すだけです。Janis Ianも指摘しているとおり、アーティストの収入はCD1枚について幾らみたいな単純計算にはなっていません。CDの売上から、レコーディング費用や販促費用を差し引いて、それからやっとアーティストの報酬が出始めるのです。
ボ・ガンボスの「どんと」が生前、ぼやいていた話で、ちょっと今ソースが見当たらないので正確な文章は書けませんが、こんなことを書いていました。「自分たちはライブハウスでライブをやっててそこそこ喰えていたんだ。そこにレコード会社のスカウトがやってきて、メジャーデビューしないかと言ってきた。で、デビューしたんだけど、なんかヘンなんだ。アルバムをレコーディングしたら、プロモーションのためにツアーを組まれるんだ、全国津々浦々にけっこう大きなハコで。俺たちは万人受けするバンドじゃないから、地方では客が入らない。で、ツアーを続ければ続けるほど、赤字になるんだが、その赤字を誰が払うかというと俺たちのレコードの売上からなんだ。飯を食うためにライブをしようとしても契約のためにできない。メジャーデビューしたことによって、俺たちはヒモになってしまったんだ。これじゃ続けてても仕方がないってことになって、やめちゃったんだけどね」
たしか、大槻ケンジがこの文章を週刊アスキーだったかに引用していたのを読んだので、ここでも読んだことがある人がいるかも知れない。
しかし、Grateful Deadはトップ10ヒットは87年のTouch of Greyまで待たなければいけなかったわけで、メジャーレーベルのおかげで有名になれたとは言えないと思うんです。彼らは地道なライブ活動と熱心なファンのボランティアによって最終的に経済的な成功を勝ち得たわけで、メジャーレーベルはむしろ搾取しただけだったように思います。Phishの場合も、いまどきプロモーションビデオも作らずに大きくなったわけでどいともこいつも相当な実績を持つ大物で、その知名度を活かして自主流通に弾みをつけるの範疇には入らないと思いますけれど。
...芸というものは一生勉強だと思っています...
Re:レコード会社なんて (スコア:1)
マスターの複製権はほとんどの場合レーベルが死守していて他への影響が大きいから「隷属」のようにいわれることもわかるけど、レーベルにしてみれば、安易に複製権を与えていたら生産管理もままならずとんでもないコスト増になりかねない。今のところ判断できずにいるので割愛。で、印税契約と搾取についてなんですけど...
Circliveさんには釈迦に説法かもしれないけど、今後誰か知らん人が読むかな、と一応書いときます。あの記事で取り上げられているPrinceは、デビュー当時からマスター製作直前までのほとんどの作業を自分でこなしていましたし、デビュー前には多くのレーベルの争奪戦があったものの、後のAristaとの契約時と同じように「それをすることを認めた」Warnerが声をかけるまで契約を拒否していて、その状況で作られた作品で優れたレコーディング・アーティスト/ソングライターとして注目された人物です。
彼もレーベルのサポートをあまり受けずにレコード製作をしてきた、名声を得てきたといえます。しかしまったくレーベルのサポートがなければ"Purple Rain"前後のバカ売れはなかったでしょうし、バカ売れしなければ"Parade"のような作品は大失敗になっていたか、内容の妥協を強いられたか、そもそも発表できなかったかと思います。G-Deadの場合はレーベルが後からやって来て収穫されただけかもしれないけど、Princeの場合はレーベルをうまく利用してきた人なんですよね。
The Policeの初期のアルバムのプロデューサー/エンジニアの、Nigel Grayという人物は医者が本業の録音マニア、メンバーもそれまで充分にレコーディングの経験があったわけで、そうして作った自主制作アルバムをMiles CopelandがA&Mに売り込んでます。同様の方法をとる者は多いでしょうし、Hotwiredの記事にあるようなレーベルの主張は、必ずしも事実に則しているわけじゃないでしょう。
しかし、ほとんどのアーティストは(当然だけど)PrinceやG-Deadのようにできない。それだけの音楽的才能やレコード製作の経験を備える、うまくファンを獲得してコミュニティを形成するまでになる...そこまで期待するのは現実的ではないし、いうまでもなくそこにレーベルの存在価値がある。「それが正しいかどうかは別にして、少なくともレコード会社はそう考えている(Hotwiredの記事より)」のも当然だと思います。
ボ・ガンボスの事例は...お気の毒に、としかいえない。どのような契約なのか慎重に検討して、それでも搾取といえるような状況になったのを説明しているのなら別だけど、あれでは悔恨の言葉としか思えないもの。レーベルもボ・ガンボスも確たる見込みもなくやってしまった、うまくいかなかった...という昔々からある失敗の話で、損失補填を一方的に負わされる契約を受け入れてしまった失敗の話でしょう。逆に、レーベルがあの調子でアーティストを使い捨てて繰り返しても、リスクは大きいし効率が悪すぎます。
「そこそこ喰えていた、そこにスカウトがやってきて、メジャーデビューしないかと言ってきた」「メジャーデビューしたことによって、俺たちはヒモになってしまった」、その失敗を後進に伝えるのは重要だけど、「レーベルに関わると強いられる搾取」が原因のようにいっていては(注:どんと氏、あるいはCircliveさんの意図がそうであるかどうかはわからない)教訓は得られない。
で、ボ・ガンボスの(搾取の話じゃなくて)ツアー失敗の話として聞くと、なんだか「レーベルとアーティストが、『リスナーは無尽蔵にいる』と、お互いをごまかしあって延々とやってきた」ことの表れのように思えるんです。Zappaは筋を通そうとしたけど、アーティスト自身が言わないだけで...同じ穴の狢はいるんじゃないの、と思います。
Jaco Pastoriusのアルバム"Word of Mouth"(Warner)の場合、WarnerはJacoと契約するため要求されるままに大金を突っ込み大損、Jacoは"WoM"の不振で人生の転落に拍車をかけ、素晴らしいアルバム"WoM"だけが残ったという感じで... 個人的には「搾取」という表現には違和感を覚えるし、また極端な例で恐縮なんですが、レーベルは「搾取する」かもしれないけど「たかられる」ことも多いんじゃないか、と思うんですけどね。
Re:レコード会社なんて (スコア:1)
うーん……ないとは言えないと思うけれど。
ある程度実績のあるアーティストであれば「たかる」ことも可能かも知れませんが、たかりっぱなしで他のレーベルに移ることはできないわけで。
たとえば、Grateful Deadは最初Warnerと契約したんです。西海岸の音楽シーンでJefferson Airplain(彼らはシングルヒットを出した)に次ぐバンドだったため、多額の契約金を支払い、レコーディングやプロモーションも大掛かりなものにしてくれちゃいました。結果は泣かず飛ばずで、Deadは借金に苦しむことになります。72年のヨーロッパ・ツアーの成功でようやく借金を返し終わり、独立して自主レーベルを創設することになるんです(自主レーベルの命もそう長くなかったわけですが)。
マライア・キャリーのレーベル移籍劇ってのは、要するに前作の失敗のために赤字として残ったプロモーション費用を払いたくないので移籍金で埋め合わせをしようとしたってパターンですよね。だから「たかり」っぱなしってのはJacoのケースみたいに、そこでアーティスト生命を絶たれちゃうケースに限定されていると思うわけです。
ボ・ガンボスのケースに関して言えば、彼らは新人アーティストだったわけですよ。プロモーション・ツアーの規模にしたって「いや、俺たちにはこのくらいのツアーが妥当だ」とか主張できるような経験なんかないわけで。プロモーション・ツアーの規模の決定の際に、意思決定に必要なだけの資料が提示されていたかどうか、かなり疑問です。当時はましてバンド・ブームでしたから「このくらいはあたりまえだよ」という雰囲気があったんじゃないですか(で、実際には契約上は絶対にレコード会社が損しないように出来ているという、ね)。
アーティストがレコード会社を食い物にしたケースは、そうさなあ、Lou ReedがRCAから「Metal Machine Music」を出したときはそうかも知れない。でも、そのツケを払ったのはLou本人ですよね。Terence Trent D'Arbyの2枚目とかもそうかなあ。でもやっぱり本人がツケを払っているような...
...芸というものは一生勉強だと思っています...
Re:レコード会社なんて (スコア:0)
搾取されにいくアーティストが現れるでしょうか。
自分はその選択をしたというだけで、既にカリスマ性を感じないんだけど。
たばこ業界のつぎは音楽業界かな・・・。
Re:レコード会社なんて (スコア:1)
制作、宣伝、流通などは専門のスタッフを雇うにせよ外注するにせよ
金がかかるわけで、そのあたりはジャニス本人も「天秤」にかけた
訳でしょう。ミュージシャンと話しをしていると彼らが良く口に
するのは、そういった余計な事に煩わされたくないっていうんですね。
俺たちは音楽のことだけを考えて生きていきたいんだ、と。
そういった思考を取る人がいる限りスタッフのリソースと制作費を
持っているレコード会社に頼るミュージシャンがいるのは当たり前。
そういったリソースを使って成り上がってから自分の会社を興して
スタッフを雇い入れて自分の環境を整える例は多いですけどね。
仕事をしているうちに目覚めてくるようなものかな?
最近だとメジャーに頼らずにセールスをあげた例としてはモンゴル800が
成功例だと思うけど、みんなができる訳じゃないですから。
彼らは今後どういう道を歩んでいくのか見守りたいですね。
--- Lcs(http://lcs.myminicity.com/ [myminicity.com])
その一人だけど (スコア:1)
自分にとっちゃ無意味な存在だけど、その存在そのものまで否定する気はない。
利用したい人だけで勝手にやってなさいってな感じで。
ついでに。
日本の著作権法においては、レコード会社が単独でアーティストを搾取するのは無理。
著作権ごと買い取るなら別だけど、隣接権程度では"著作者の権利に影響を及ぼすものと解釈してはならない"という制限に引っかかる。
だからJASRACとツルんでいるわけで。
--
Ath'r'onならfloatあたりに自信が持てます
Re:その一人だけど (スコア:0)
Re:その一人だけど (スコア:1)
頒布目的での複製権だけを預ける程度のものですんで。
出版義務を怠ったら剥奪できるし、初版から3年経てば作者(厳密には、原複製権者)自らが使うぶんにはある程度融通が利くようになるし、搾取までは行きようがないっしょ。
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Ath'r'onならfloatあたりに自信が持てます
Re:その一人だけど (スコア:0)
アップフロントなんかはどうだろう。まあ ZETIMA が単独で
ではないのでおっしゃっていることは正しいのかもしれない
けど、言葉だけの問題のような気もする。形式上分社化して
いるけど、各社長はグループ内の役員で当番制だし、実態は
搾取といってもいいような気もする。
つーかね (スコア:0)
「日本は印税がちゃんと機能している」というあたりについて、日本のミュージシャンに
インタビューした方がいいんじゃないのか?
彼女がちゃんとした情報を得ているのかどうか、わからないわけだし。
#これが平沢進氏とかに頼むと、別な意味で盛り上がったりしてね。:-)
Re:つーかね (スコア:2, 興味深い)
ここは驚きましたね。追加インタビューできるなら、アメリカの音楽業界では本当にそういう評判なのか聞いてみたい。いや、本当にそうなのかもしれないので、日本のミュージシャンインタビュー賛成。
#昔、永六輔氏が、「公称○万枚」と宣伝するなら、その数字で印税くれ
#と言ったという話を思い出しました。
Re:つーかね (スコア:1)
ここは驚きましたね。うへ、最後の最後にどえらいこと書いてくれてるなあ、と思いました。あ、そういう意味じゃないか。
「他の国と比較して印税率が適正とかいうことではなくて、単に海賊盤文化がはびこっていなくて、一番よく回収できている」くらいの話かな、と思ったんですけどね。もちろん推測ですけど。レンタルなんかが問題になったりはしましたけど、結局回収する方向で落ち着いていますし、国際レコード産業連盟の調査 [ifpi.org]
の表の、"Less than 10%"の中でも上位に来そうな気がします(主観)。
しかし「レンタルとかを統計上うまく処理しているだけ」ともとれるし、「外面を気にして内に厳しい」だけじゃないのかな、とも思いました。実際、どうなんでしょうね?
ついでで申しわけないのですが、#307367のAC氏のご指摘の通りtypoが入っています。編集者の方、ご面倒でなければ訂正お願いします。ごめんなさい。
Re:レコード会社なんて (スコア:0)
なんてよく聞こえてきますか?勝手に言葉の間を抜いて釣り餌にしてませんか?それとも時々勝手に記憶が書き換わったりしますか?
まともな RIAJ や業界バッシングの場合、レコード会社や RIAJ は必要という認識の元で、ただ彼らには任せておけないという要旨で意見が流れます。少しオーバーな例え方をすると泥棒に経理を任せてはおけない、というところでしょうか。保守的とか既得権益や利益に固執するあまりアーティストやリスナーに不誠実であるとか、まぁ流れない水は腐る物ですよ。
それに建設的意見
typoの指摘 (スコア:0)
の質問部分にて.
「あなたが最初のレコード契約をしてときから、RIAAはどのようの変わりまし
たか?」は「…契約をしたときから、…どのように変わり…」でしょうか.
回答の第2パラグラフ.
「RIAAは「問題」の全く新しい範囲の気にするようになり、」は「…範囲を気
にする」でしょうか.
"10) アーティストに対するレコード会社の現在の役割って?"
の回答6パラグラフ目.
「と全部自分こなしてやる」は「…全部自分でこなしてやる」でしょうか?
インタビューきぼんぬ (スコア:0)
#マジでそう見えたのよ
Re:インタビューきぼんぬ (スコア:0)
おまえのものはオレのもの、オレのものはオレ様のもの(w
Re:インタビューきぼんぬ (スコア:0)
けしからん! (スコア:0)
どちらの意味かによって、全然言ってる事が違ってくるんだが。
本家/.のコメント見ても、その辺どっちの意味なのかわかんないし。
あるいは (スコア:1)
という意味かもしれないよ
DVDがダンピングしやがるせいでCDが売れなくてけしからんという意味じゃなくて、DVDがダンピングするせいで映画産業が衰退することを危惧しているのかも
Re:けしからん! (スコア:0)