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異常プリオン毒性部分の構造を解明 22

ストーリー by yourCat
小さなモノリスの仕業 部門より

KAMUI曰く、"asahi.com の記事に依ると、岐阜大学医学部の桑田一夫助教授らが牛海綿状脳症 (BSE) やクロイツフェルト・ヤコブ病 (CJD) の病原体である異常プリオンの細部構造を解明し,12月 1日付の全米アカデミー紀要 (PNAS) 電子版で発表した (PNAS に掲載された研究の概要)。異常プリオンで神経毒性をもつと言われる部分の構造を核磁気共鳴 (NMR) で調べた結果,8本の原子の鎖が板状構造を作っている事が判明。この部分の構造が詳細に解れば毒性を抑える物質を設計したり探したりできるという。
これで安心して牛肉を食えま……え,違う?(^_^;"

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • プリオン→vCJD, BSEにいたるメカニズムについては、最近2つほど、大きな新知見が得られてます。

    その1
    Nature Science Update日本語版 [appliedbiosystems.co.jp]より。これまでBSEなどの疾患は、異常プリオンが蓄積して変異タンパク質の塊が生じることで、神経細胞死が誘導されて発症すると考えられていた。しかし、この凝集塊は神経細胞死の直接の原因ではないとする研究結果が報告されている。
    正常プリオンを持たないマウス(PrPノックアウトマウス)の脳に異常プリオンを投与したとき、異常プリオンの蓄積は見られたが脳の変成やマウス個体死は抑えられた。(Mallucci et al. Science Oct 31 2003: 871-874.)PubMed [nih.gov]
    この結果を受けて、神経細胞死は、正常プリオンが異常型に変化する「変換過程」で起きるもので、その後に見られる異常プリオンの凝集・蓄積は単なる症状の一つであるという説が唱えられている。アルツハイマーなど他の神経変成疾患にも同じことが言えるのかもしれない。

    その2
    Nature Science Upadte日本語版 [appliedbiosystems.co.jp]より。プリオンがタンパク質のみなのか、RNAやDNAなどの核酸を含むのかは、プリオン発見からの最大の論点であったが、現在ではタンパク質のみであるという説でほぼ合意されている。
    最近の研究では、宿主のRNAが少量の共存することで正常プリオンから異常プリオンへの構造変換が著しく促進されることが判明した。(Deleault et al. Nature 2003 Oct 16;425(6959):717-20.)PubMed [nih.gov]
    この反応は生体外(in vitro)でも起きることから、従来の「プリオン=タンパク質」説を否定するものではないが、生体でのプリオン病の発症過程を解明する上で重要な知見であり、またプリオンの診断にも有効だと考えられる。
    • Scienceの方の論文は細胞内のプリオンの局在性についての解析がなされて
      いないので結論まで採用していいかどうかは疑問だと思います.
      変異型を注入してそれが蓄積するのは分解されないのだから当然ですし,
      細胞死に至るメカニズムが分かっていないのでちょっと過程を端折りすぎ
      かな,とも.
      内因性の原因が必要というのは実験の示す通りですが.

      ただ,アルミニウムとアルツハイマーの関係のように,ある症状(の末期)
      の臓器に蓄積したからと言って原因とは限らない,というのは研究する者に
      とって心してかからなければならないところですね.

      Natureの方の論文は種特異性があるというのが驚きですね.
      短い配列の類似性なら他の種にもあるでしょうからリボザイムということに
      なるのでしょうか・・・
      実際にはスクレイピー型のプリオンの蓄積ではなく加熱による変成によって
      擬似的に変換を行っているので,RNAの構造の熱力学的性質とあわせてこの
      実験の妥当性については議論があるかもしれませんが.

      今回の研究は私も最初は今まで毒性の機構も明確でなかったのに,X線解析
      で判明した構造から毒性の原因を解明したのかと非常に驚きましたが,内容
      を読んでがっかり,という部分はありました.
      (研究ではなく報道にですが)
      --
      kaho
      親コメント
      • Scienceの方の論文は細胞内のプリオンの局在性についての解析がなされて
        いないので結論まで採用していいかどうかは疑問だと思います. 変異型を注入してそれが蓄積するのは分解されないのだから当然ですし,
        細胞死に至るメカニズムが分かっていないのでちょっと過程を端折りすぎ
        かな,とも.
        む。相変わらず鋭いですね。実を言うと僕も同じことを考えてました。
        正常プリオンの本来の機能はまだ判ってませんけど、その細胞局在については、おそらく細胞膜、それもラフト [riken.go.jp]に集積するのだろうと考えられてたはずです。プリオンはGPIアンカー蛋白ですから。
        一方、異常プリオンなど、神経変成疾患による神経細胞死については、小胞体関連細胞死 [watsonkun.com]の関与が唱えられてます。これは細胞内の小胞体の機能異常によるものです。小胞体は細胞内カルシウム調節や、分泌タンパク・膜タンパクの合成の場としての役割を持ってますが、細胞内カルシウム恒常性が破綻したり、タンパクの過剰な合成や異常なタンパク質合成、あるいはゴルジ体への輸送の阻害などによるミスフォールディング(おりたたみの異常な)タンパク質の小胞体への蓄積などによってアポトーシス(細胞の自殺)が誘導されます。
        実際、異常プリオンについても、小胞体関連アポトーシスを制御すると言われてるカスパーゼ-12が関与するという論文が、つい先日EMBO J.に載った [nih.gov]ばかりです。

        それで思ったのは、実は異常プリオンによる細胞死は、ラフト/カベオラを介したエンドサイトーシスで異常プリオンが細胞内に取り込まれること(もっと飛躍するなら小胞体内に蓄積すること)が大事で、正常プリオンがないとそのステップが働かないんじゃないか、ということだったりします。
        親コメント
        • あれ?caveolaeとendocytosis?と思って調べてみたら今年になってからcaveolaeもendocytosisを担っている [blackwell-synergy.com]という報告がいくつも出ているんですね。
          私は知識が古くてclathrin-coated vesicleとcaveolaeは構造だけでなくて機能も別物と考えていました。

          prionという新しい因子がこれまた最近流行のraftやcavelae-mediated endocytosisっていうのは何となくできすぎの気がしてしまいますが(失礼),なるほど・・・熱変性で模したPrPをPrP(-/-)のマウスに与えてみたら検証できる・・・のかな?

          私から「素晴らしい洞察+1」を贈呈させて下さい.何の得にもなりませんが(笑)
          --
          kaho
          親コメント
  • by habe (11732) on 2003年12月03日 9時25分 (#446678)
     正常な蛋白質と異常プリオンの関係については有機化学美術館 [accsnet.ne.jp]で分かり易く説明されています。
  • つまんない指摘 (スコア:2, 参考になる)

    by Anonymous Powered (12649) on 2003年12月03日 11時56分 (#446821) 日記
    > 8本の原子の鎖が板状構造を作っている事が判明。

    元ネタ読むと並行型βシート構造のことなので、原子の鎖ってかアミノ酸鎖ですね。
    (アミノ酸配列も、たしかに原子の鎖には違いないですが)

    PrPsc(スクレイピープリオンタンパク)がβシートリッチなことは前から知られてたし、
    今回のミソは、NMRで断片の構造を見て、それの高次構造をシミュレーションしたことみたいです。

    (私も現役離れて長いから誤認誤解誤読してるかも)
    • あ、「つまんない指摘」っていうのは、
      「原子の鎖」のとこへの無粋ツッコミのことです(汗

      sageといてくださいまし(汁
      親コメント
    • by SteppingWind (2654) on 2003年12月03日 18時33分 (#447095)

      > PrPsc(スクレイピープリオンタンパク)がβシートリッチなことは前から知られてたし

      スクレイピーで思い出したのですが, 羊のスクレイピーってBSE以上に一般的なプリオン病だと思うのですが(「動物のお医者さん」の中でも名前が出るくらい), ジンギスカンやラム料理が騒ぎに巻き込まれたことはなかったのは何ででしょうね?

      親コメント
      • 単純にいうならば、ウシの異常プリオンはヒトに伝達するけど、ヒツジの異常プリオンはヒトに移らないから、というお話。

        (ヒツジの)スクレイピーとvCJDその他のヒトのプリオン病の間には因果関係が認められないとされてます。羊の脳を食べる習慣のある地域とそうでない地域での発症率に差がないという疫学調査から言われてることだったと思いますが。それに対してBSEの方は英国で急増したvCJDとの因果関係から注目された、と。ただまぁ、そもそも英国のBSEのプリオンは、ヒツジのスクレイピーがウシに伝達して出来たもので、その過程でヒトへの伝達性を獲得したと考えられてますけどね。

        最近ではウシ以外でもシカのプリオン病(TSE)がヒトvCJDの原因になるんじゃないかと騒がれたりもしましたし、また本当にスクレイピーが無害かどうかについても、まだまだ両説入り乱れてますが。
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        • by T.Sawamoto (4142) on 2003年12月03日 19時26分 (#447129)
          そうするとウシ→ヒツジの方向に伝達して、ヒトにも移るスクレイピーが出てくるということも、可能性だけならありうるんでしょうか?
          親コメント
          • 可能性だけなら、突然に私の体内の正常プリオンが異常プリオン化してしまうことも
            あるわけですので、可能性のあるなしでは論じられないネタです。

            「ない」って言っちゃうと嘘になるけど、「ある」と言うと誤解を招く類の話なので。
            親コメント
            • by T.Sawamoto (4142) on 2003年12月04日 18時54分 (#448127)
              # ごめんなさい。これは踏み込んじゃいけない話題なのかな。

              つまり、BSEを発症した牛の肉骨粉が羊に与えられるようなことはあり得ない、あるいは与えられても羊に移る可能性は考慮する必要がないほど低い、ということなのでしょうか。
              親コメント
              • >つまり、BSEを発症した牛の肉骨粉が羊に与えられるようなことはあり得ない、あるいは与えられても羊に移る可能性は考慮する必要がないほど低い、ということなのでしょうか。

                後者は起こる可能性が高いと考えた方がいいかも。BSE(ウシの異常プリオン病)が他の動物に伝達するかどうかは、いろいろと研究されていて [shiga-med.ac.jp]、ヒツジについても、もともとスクレイピーにかかりやすいタイプのものでは、BSEを接種したときにさまざまな症状が現れるそうです。
                #ただしヒツジのBSEとウシのBSEの違い、ヒツジのスクレイピーとヒツジのBSEの違いについてはまだよくわかってない模様。

                だからこそ、そうならないように、前者の可能性を徹底してつぶしていくのが今後重要な課題なのだと思います。
                親コメント
    • by Anonymous Coward

      正直こっちの方にはうといのですが 某漫画で このプリオンをネタにしているのを読んで 『Protainaceous Infectious Particle 略してプリオンと呼ばれるものだ』という知識だけは持っている者です. どう略すとそうなるんでしょうとか疑問に思ったものですが…
      だもんで 思いっきり勘違いしてしまいました

  • by locate (5848) on 2003年12月03日 11時08分 (#446785) 日記
    >この部分の構造が詳細に解れば毒性を抑える物質を設計したり探したりできるという。

    構造を解明と書いておきながら、詳細な構造は未解明という。。。
    それだったらタイトルは
    「異常プリオン毒性部分のおおまかな構造を解明」
    にして欲しかった。
    期待して読んで、最後でがっかり。
    • タレコミのリンク先を読めばわかりますが、これはタレコミ文の引用ミスですね。

      asahi.comの記事では

      「感染性に関係する部分はまだわからないが、毒性部分の構造が分かれば、毒性を抑える物質を設計したり探し出したりすることができる」
      となっています。取り敢えず毒性部分の構造は分かったので…という話ですね。

      • >取り敢えず毒性部分の構造は分かったので…という話ですね。

        変異型が正常型と違う部分ということは知られていますがそれが毒性の
        原因となってる部分かどうかは不明です.
        そういうところがこのタレコミのコメント全体に現れているがっかり感
        なのではと思うのですが・・・
        --
        kaho
        親コメント
        • Re:じゃなくて (スコア:2, 参考になる)

          by gatekeeper (18246) on 2003年12月03日 13時55分 (#446917) 日記
          一応このペプチド部分が神経細胞のアポトーシスと、グリアの増殖・肥大を引き起こし、
          これがBSEとかクロイツフェルトヤコブ病と共通の特徴である
          的なことは概要に書いてありますね。
          全文は読んでませんが。
          だからといってこの部分がBSEとかCJDの原因だとはっきりと証明されてる
          わけではないと思いますが。

          こういった細かいことの積み重ねではないでしょうか。PNAS だし。
          (逆にでかい発見なら Nature とか Science に載ると思うし。)
          ま、さらに細かいことを突っ込めばNMRとか電子顕微鏡でそういう形態が
          観察されたからといって実際に生体内でもそういう形態
          をとっているとは限らないし。
          親コメント
          • Re:じゃなくて (スコア:2, 参考になる)

            by y_tambe (8218) on 2003年12月03日 15時27分 (#446984) ホームページ 日記
            いや実をいうと、この論文より前に、別のグループ(あのPrusinerも共著)が同じ方法論で異常プリオンの部分的な立体構造を明らかにしてるんですよ。
            正常プリオンの構造については、96年くらいにNMR使って部分的に(PrP121-321)明らかにしてたグループがいます(これはNature) [nih.gov]。完全長のNMRのデータは2000年にPNASにヒト、ウシその他のが立て続けに発表された、と。
            ただし異常プリオンは難溶性になるために、同じ(溶液中で解析する)NMRの手法では立体構造が決められなかった。それをsolid-state NMRという手法で部分構造を決めたのが2001年のPNAS [nih.gov]。ただし、このときはPrPScの89-143だから、毒性領域を含む55ペプチドくらいで行った、と。
            これに対して今回は同じsolid-state NMRで106-126という20ペプチド、より狭い領域について行い、さらに今回は8量体形成まで見た、というもののようです。だからまぁ、Nature,Scienceまでの新規性はないかと。
            プリオンについては昔っから、PNASのお家芸的な感じもありますから、まぁPNASに載るのは妥当かな、と思います。
            親コメント
  • by Anonymous Coward on 2003年12月03日 20時47分 (#447159)
    >これで安心して牛肉を食えま……え,違う?(^_^;

    私が昨日食べた牛肉は大丈夫なのか?

    グタグタ書き連ねてないで教えてくれ。

    #教えて君なのでAC
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