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JAXA

日本独自の有人宇宙計画の捲土重来はあるか? 2

タレコミ by SS1
SS1 曰く、

「「中国がやるから日本も負けられない」などの情緒的な議論だけでは、大きな予算を使う事業としては不十分であることは明らかです。・・・数年の間に準備して、ぜひとも捲土重来を期したい」
http://www.jaxa.jp/news_topics/column/20031001/p3_j.html
-- 的川コラムより。

毎日新聞に有人宇宙計画:日本も独自に 月探査も 政府が戦略転換へ

という記事があるなか,タイムリーなことに神田の学士会館で,JAXA東京シンポジウムがあったので,行ってきた。

行く前はもっとしょぼいものかと思っていたんだけれども,宇宙関連の有識者のほぼ全てが一堂に会するイベントとなった。このイベントは,後々の影響も大きそうなので,あとで,参加者リストをチェックしてみたい。

同シンポの第3部は,

「有人宇宙活動の未来」:松本 紘 (京大)、土井 隆雄 (JAXA宇宙飛行士)、的川 泰宣 (JAXA)

と,JAXAが新たにスタートする予定の「有人宇宙計画」について,直球でこの話題にぶち当たっており,けっこうな熱気のある公演となった。

私自身が「日本独自の有人宇宙構想の問題点」と題して,批判していたこともあり。とても興味深い内容になった。

1.宇宙環境の人文利用

こないだのISSミッションでやったばかりの最新の実験の利用報告。ひとつめは,宇宙で粘土細工を作るもの。もう一つ目が,宇宙空間で作った水滴でマーブリング(墨流し)を試すもの。こっちが爆笑であった。実験計画の企画者は,実施者のアストロノーツになるたけ自由にやらせてみたかったらしいのだけれど,きっちりとマニュアルどおりにやりたかっただろうアストロノーツは,実験の企画者を嘆かせる実験結果を実演して見せた。こういうところは,人文と理学工学の人間との言葉の通じなさを実感させるものがあった。

マーブリングとは,水の表面に各種のインクを流して,それの作るマーブル模様を紙に転写するんだけど,くだんのアストロノーツは,その模様を転写する前に「しっかりと,ドロドロにかきまぜて」るのね(笑)。で,解説する企画者もその画像を見た瞬間に「あー」とため息を漏らしてしまう。という。ベタなアホ実験となっていたのでありました。

人文系の実験といえど,現在の宇宙環境では,科学的な手順を用意しないとザンネンな結果になってしまうという例になってました。でも,おもしろかったけどね。

2.土井宇宙飛行士の提案する日本仕様の宇宙船

土井宇宙飛行士の話は,ISSでの実生活の話から。はじめにISSのロシアモジュール(ザーリャ?だっけ)とアメリカモジュール(スペースラボ?)の違いから。この二つのモジュールは,通常の建築物,あるいは構築物であれば,ありえないくらいの違いがある。ひとことでいえば,探査船に茶室があるような違和感がある。で,土居宇宙飛行士は同僚のアメリカ人に「違和感すごいよ」と愚痴ったんだそうな。そしたらくだんのアメリカ人から「ロシアのは潜水艦だからな」という返事をもらい目からウロコが落ちたんだそうな。

なんだかんだでアメリカモジュールは航空機の設計思想を元に作られたモジュールでロシアのは潜水艦などの海洋船舶の設計思想が背景にある,と,土居さんは思ったらしい。そういわれると,なるほど,そんなかんじなのね。

んで,日本がこれから有人宇宙船を作るなら,ロシア(船舶思想)とアメリカ(航空機思想)の設計思想の間にある,米露のいいとこどりしたものをつくるべきなんじゃないか。という提案でしめてた。あと,きぼうモジュールは,NASAの人間にもため息をつかせる,独特の「美しさ」があるよ。という話。この3つをあわせると,日本独自の有人宇宙船が出来るんじゃないかな,というのが土井宇宙飛行士の提案でした。ミリオタだったら,いろいろいわれてるけど国産戦闘機のF2って,説明の難しい日本的な美しさを具えていることを思い出すとわかりやすいと思う。目指すんならあれよね。という話(だったと思う)。

3.あまり進歩の無い,有人計画の実施理由。

JAXA的な理由の説明としては次の二点だった。
その1.1000年スパンでみれば,宇宙移民は必須で,そのための準備。(としての有人計画)。
その2.10年スパンでみれば,中国,インドなども有人計画を実施(あるいは準備)しており,それからの,有人宇宙クラブからハブ(仲間はずれ)にされたくなければ,日本も有人をやるべき。
という話。けっきょく,こういう夢物語やしょぼい目的意識を除くと,国民に響くしっかりした「大義名分」を作ることにJAXAは現在もできていないようだ。まだまだ「捲土重来」は難しいように思った。

3.JAXAにはテストパイロットは居ません。

同日に配布された資料(*1)の山折哲雄氏へのインタビュー(1999,p29)が面白かった,ここで山折氏のいう「日本にはテストパイロットがいない」という指摘。ここから10年経ってJAXAはイーグルパイロットをアストロノーツとして採用するに至ったわけだけど,テストパイロットらしきものを採用するに当たって,そのあたりどうなの? というのを最後に質問してみた。ええと,つまり,このシンポジウムの最後に質問してたのは私です。まぁ。おもいっきり笑われてたんですが。

この質問の回答者は,壇上の方(パネリスト)ではなく,会場の(たぶん偉いひと)からの,お答えだったんですが,「今回,元テストパイロットも採用しましたが,今回の採用宇宙飛行士(なんと,会場に来ていたりする!)は,テストパイロットとしてではなく,ミッションスペシャリスト,ペイロードスペシャリストとしての仕事をしていただくことになると思います。そしてテストパイロットが必要になったら,数年後に改めて採用することになると思います」との回答をいただいた。

で,日本的なことに質問時間が不足してたので,司会から「土井(宇宙飛行士)は,どうです?」と振ってもらえたんだけど,時間切れで解答の無いまま閉会となった。このあたりは,とっても重要なので意見をもらいたかったんですがね,私が(質問者として)指名すればよかったんだすが,そこまでは出来ず。このあたりは私の問題。

ただまあ,JAXA的な建前上の方針として,「テストパイロットは宇宙船を設計してから」という,方針のようなものは伺えたと思う。

東大浦研の『海中ロボット』に,(海洋)探査システムには,1.施策・立案者,2.製作者,3.利用者,4.運転者の4つの立場の関係者がいる。で,日本は,1,2だけあって,3,4は無かったり,無視したりするからダメなものが出来上がる。という話があるんだけども,JAXAは,もろにこの,4.を無視した構想を立案しているようである。

日本初の有人ロケット,といえば「秋水」から始まる。このときのテストパイロットはその欠陥ロケットを試乗した後,そのときの怪我で,結果を報告した後に命を落としている。現代的な視点で見れば,計画,立案時に,利用者,運転者の視点が不在だったことが,原因に見える。

しかし,JAXAは,こうした事例への反省も無しに,同じことを繰り返したいらしい。

そういうことであれば,彼らに,そういう権限や予算を割り振るべきではないと,私には思われた。

*1:宇宙高級研究開発機構特別資料,ISS・きぼうの人文社会科学的利用,ISSN 1349-113X, JAXA-SP-07-021,2008年3月,JAXA

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UNIXはシンプルである。必要なのはそのシンプルさを理解する素質だけである -- Dennis Ritchie

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