yasuoka (21275) の日記

2005 年 07 月 21 日
午後 12:20

ローマ字かな漢字変換

日本語入力についての追記にコメントしながら思ったのだが、後発の「ローマ字かな漢字変換」が、先発の「親指シフト」や「カナ漢字変換」をシェアの上で追い抜いたのは、実際どういうわけなのだろう。とりあえず私なりに、当時のワープロの仮名漢字変換について、整理してみることにした。
  • 1978年9月 東芝が『TOSWORD JW-10』を発表。JIS C 6233キーボードでカナを入力して漢字に変換。
  • 1980年5月 富士通が『OASYS 100』を発表。親指シフトキーボードでかなを入力して漢字に変換。
  • 1980年12月 キヤノンが『キヤノワード55』を発表。JIS C 6233キーボードでローマ字あるいはカナを入力して漢字に変換。
  • 1981年5月 日本電気が『文豪NWP-23N』を発表。JIS C 6233キーボードでカナを入力して漢字に変換。ただし、『NWP-20』シリーズで採用していた3300キーのペンタッチ式タブレットも接続可能。
  • 1981年12月 シャープが『書院WD-1000』を発表。156キーのペンタッチ式タブレットでかなを入力して漢字に変換。

これらワープロ大手5社の1982年度生産台数シェアは、富士通22%、東芝21%、日本電気16%、キヤノン10%、シャープ10%であり(日本経済新聞1983年3月25日)、合計すると「JIS C 6233キーボードでのカナ漢字変換」がトップシェア、「親指シフトキーボードでのかな漢字変換」が2番手、「ペンタッチ式タブレット」や「ローマ字かな漢字変換」はさらに下、ということになる。ところが、話はそう簡単ではない。

当時のワープロ各社は、自社のシェア拡大のために、より高機能・多機能なワープロをより安く売るという戦略を取っていた。仮名漢字変換も、より高機能・多機能となることが求められていたのである。そんな中、日本電気は1982年5月に発表した『文豪NWP-11N』においてローマ字かな漢字変換をサポート、東芝も1982年5月発表の『TOSWORD JW-7』においてローマ字かな漢字変換をサポートする。この時点で、JIS C 6233キーボードを採用している大手3社(東芝・日本電気・キヤノン)は、いずれもカナとローマ字の両方による漢字変換が可能となった。さらに、1982年12月にはシャープが『書院WD-2400』を発表、JIS C 6233キーボードからのカナ・ローマ字入力と、従来のペンタッチ式タブレットを併用した「3ウェイ入力」をサポートした。そして、富士通も1983年4月発表の『My OASYS 2』でローマ字かな漢字変換をサポートし、同時に従来のOASYSにもローマ字かな漢字変換機能を追加した。親指シフトキーボードは、「英字」キーを押すことでQWERTY配列の英字入力が可能だったが、この「英字」キーを3回連続で押してローマ字かな漢字変換に切り換える、という機能をハードウェアの変更なしに追加したのである。

このような動きを背景に、大学などの教育現場では、将来どのワープロを使うかわからない初心者に対しては、とりあえず「ローマ字かな漢字変換」を教えておこう、という考え方が現れた。当時のワープロは、やっと個人でも手が届く値段になってきていたものの、やはり各企業が業務用に設置するものだったから、どのワープロを使うハメになるか、就職してみないとわからなかった。「親指シフト」のシェアは相変わらず20%を超えていたから、「JIS C 6233キーボードでのカナ入力」を初心者に勧めるのはリスクがある。その点「QWERTY配列でのローマ字かな漢字変換」であれば、各社とも一応は対応している。また、コンピュータ・プログラミングを必要とする部署や、英文誌への論文投稿(原稿は当然、英文タイプライターで打つ)を考えるならば、とりあえずQWERTY配列を覚えておいて損はない、というのが当時の認識だった。

結局のところ、「JIS C 6233キーボードでのカナ入力」も「親指シフト」も独占的なシェアを得られなかったために、そのどちらとも両立しうる「QWERTY配列によるローマ字かな漢字変換」が推奨されるという、皮肉な結果になったのである。ただし、当時において既に「ワード・プロセッサはテン・キーで十分だ」(『日本文入力法の将来像』, 情報処理, Vol.23, No.6 (1982年6月), pp.574-586)という意見があったのは、特筆に値する。この意見が正しかったかどうかについては、今後の仮名漢字変換の主流の推移を見守る必要があるだろう。

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