yasuoka (21275) の日記

2005 年 09 月 11 日
午後 10:14

JIS Z 8903-1969 機械彫刻用標準書体(当用漢字)

まずは、1993年7月17日に三井アーバンホテル銀座でおこなわれた座談会『いま、常用漢字を見直す―漢字のイメージと漢和辞典』(三省堂ぶっくれっと, No.105 (1993年9月), pp.14-41; No.106 (1993年11月), pp.10-37)から、抜粋しよう。

林四郎 当用漢字の字体というものは、私は概して言えば成功していると思います。
林大 概して言えば、だと思いますね。
松岡榮志 これが大事なところなんです。いま先生がどういうふうにうなずかれるか、反論されるかと思ったんですが、「概して言えば」とおっしゃるから……。
林大 だってまだ足りないのもありますよ。もっと簡単になってよかったようなものが。
松岡榮志 ええ、あります。
林大 それから、もう少し工夫したほうがよかったようなものがあるわけですよ。あの当時忘れられちゃったので言えば、選挙の選の字ね。あれは頭の部分を「ツ」にすればよかったんですよ。あれはあとで議論しましょうと言っていたけれど、忘れちゃったんです(笑)。

当用漢字字体表では「忘れちゃった」頭の部分が「ツ」の選だが、林大は、これをJIS Z 8903-1969で実現している。JIS Z 8903-1969は、当用漢字字体表をJIS化して機械彫刻に適用したものだが、1850字中57字に関しては当用漢字字体表よりさらに大胆な簡略化が加えられていた。頭の部分が「ツ」の選は、この57字のうちの1字である。しかも、JIS Z 8903-1969の規格票には

漢字表に掲げられた漢字以外の漢字の書体は,この規格の範囲外である。しかしながら,それらの漢字を彫刻する場合にも,それらの漢字が,へん・つくり・かんむり・あしなどと同じ形の構成部分をもっているものについては,この規格におけるそれらの形を準用することが望ましい。

という「解説」があるので、巽を部分字体として持つ漢字に対しては、頭の部分を「ツ」にするのが望ましい、ということになる。

JIS C 6226の原案策定委員会で、林大を含む多数の委員は、規格票の印刷に、JIS Z 8903-1969の「等線体」を使いたがった。しかし、第2水準漢字まで字母が揃わず、結局、石井明朝体を使って、JIS C 6226-1978の規格票を印刷している。一方、JIS C 6234の原案策定委員会では、林大の参加した文字パターン分科会が、まずJIS Z 8903-1969を検討の対象としている。しかし、JIS C 6234-1983では、頭の部分が「ツ」の選はさすがに採用されず、巽や撰において頭の部分が「己己」とされるにとどまった。

JIS Z 8903は1984年3月に改正され、上で述べた57字のうち56字が附属書2に格下げとなった。57字のうち、常用漢字表に採用されたのは灯だけだったから、まあ仕方のない措置だろう。しかし、附属書2に格下げされたとはいえ、頭の部分が「ツ」の選が、現在もJIS Z 8903に規定されているというのは、まぎれもない事実だ。これを基に、頭の部分が「ツ」の選を、JTC1/SC2/WG2/IRGに提案するのは、実はアリなんじゃないだろうか、と思ってみたりもするのである。

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