yasuoka (21275) の日記

2005 年 09 月 13 日
午後 04:20

人名用漢字別表の告示

円満字二郎の『人名用漢字の戦後史』(岩波新書(新赤版)957, 2005年7月)の以下の部分(pp.88-89)が気になったので、ちょっと調べてみた。

しかし、私としては、この前日、六月四日付『朝日新聞』に出ている、「人名用追加漢字決る」という見出しがつけられた、見出し込みで九行の小さな記事にとても興味を惹かれる。その全文を見よう。

国語審議会は先月十四日、当用漢字に追加して新たに人名漢字九十二字を決定、文部省、法務府などに建議したが、政府はこのほど同建議をそのまゝ採択し「人名用漢字別表」として官報に告示、先月二十五日にさかのぼって実施することになった。

先に述べたとおり、内閣訓令・告示による「人名用漢字別表」の公布と、戸籍法施行規則第六十条の改正とは、これに先立つ五月二五日に行われたことになっている。実際に『官報』を見ても、二五日付に掲載されている。しかし、この『朝日新聞』の記事によれば、それは六月四日までに決定され、二五日にさかのぼって実施されたものなのである。だとすれば、「人名用漢字別表」も戸籍法施行規則の改正も、そのときまでは最終的な決定がなされていなかったということになる。

国立公文書館所蔵の『公文類集・第七十六編・昭和二十六年・巻七十九・学事二止』には、人名用漢字別表に関する「閣甲第一一九号」がバインドされている。これによれば、人名用漢字別表の起案は昭和26年5月21日、閣議決定は昭和26年5月22日、公布は昭和26年5月25日となっている。京都大学法学部図書室所蔵の『官報第7310号』(昭和26年5月25日 金曜日)には、表紙(p.401)の右上に「昭和26.5.28」と判別できる受入印がある。この官報のp.402には、人名用漢字別表を含む「内閣告示第一号」が掲載されている。また、この官報のp.401には、戸籍法施行規則を改正する「法務府令第九十七号」が掲載されており、「この府令は、公布の日から施行する。」となっている。

すなわち、人名用漢字別表は昭和26年5月22日(火)に閣議決定され、それを掲載した官報は昭和26年5月28日(月)には京都に辿りついていたことになる。この官報には、即日施行の省令が他にも掲載されており、官報を全国に送付しておきながら、戸籍法施行規則の改正だけを延期するなど不可能だ。内閣告示も、官報に掲載された瞬間にその効力を発するのだから、掲載されてしまった内閣告示の延期などあり得ない。したがって、昭和26年6月4日(月)の『朝日新聞』第23451号の上記記事は、ニュースソースが明示されていないものの、少なくとも「さかのぼって」という部分が誤報だと考えられる。

もちろん、第10回国会衆議院議院運営委員会(委員長 小澤佐重喜)は、昭和26年6月5日(火)午後1時34分の時点で、11日前に告示された人名用漢字別表のことを知らなかった可能性は高い。しかしながらそれは、衆議院事務総長の大池眞と衆議院議院運営委員会のミスであり、前日の『朝日新聞』の誤報とは無関係だと考えられる。

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日々是ハック也 -- あるハードコアバイナリアン

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