yasuoka (21275) の日記

2008 年 02 月 22 日
午後 03:03

中日新聞の書くQWERTY配列

今日付の中日新聞朝刊の『中日春秋』と、東京新聞朝刊の『筆洗』に、QWERTY配列に対するガセネタが載っていた、とあちこちから連絡があった。

QWERTYという言葉をご存じだろうか。手元にパソコンがあれば、キーボードの左上に並ぶアルファベットを見ていただきたい▼左から右へQ、W、E、R…となっていよう。このキー配列をそう呼ぶようだが、これが誕生したのはタイプライター時代の一八七三年。最も効率的に打てる並び方だから今なお生き残っているのか、と言えばそうではない▼当時はタイプライターが壊れやすかったから、わざわざタイピストの手を遅くするために考えられたのだという。ところが、それが大量生産され使う人が増える。他メーカーも続き、また使う人が増え…というふうに、定着してしまったものらしい▼『複雑系』(M・ワールドロップ著、田中三彦、遠山峻征訳)で、「収穫逓増」なる経済理論を説明する中で例示される話。

ざっと読んだ限り、どうやらワールドロップの『複雑系』(新潮社, 1996年6月)のp.41にある

クリストファー・スコールズという技師が、一八七三年、タイピストの手を遅くするために、このQWERTY配列を考案したのだ。当時のタイプライターは、タイピストがあまり速く打つと動かなくなったからだ。だがその後、レミントン・ソーイング・マシン・カンパニーがこのQWERTY配列のキーボードを大量生産した。それで多くのタイピストがそのシステムを学び、それで他のタイプライター会社もQWERTYキーボードをつくりはじめ、それでさらに多くのタイピストがそれを学び……というようになっていった。もてる者はさらに与えられる、すなわち収穫逓増。

を下敷きにしたコラムのようだ。戦略的思考とQWERTYなどでもさんざん書いてきたが、「タイピストの手を遅くするため」という説には全く根拠が無い。August DvorakRobert Parkinsonがバラ撒いたガセネタだ。というか、『複雑系』のこの部分を読んだだけでも、「スコールズ」だの「レミントン・ソーイング・マシン・カンパニー」だの間違いだらけで、かなりマユツバだってのはわかりそうなものだ。

それにしても、新聞の朝刊の1面で、このガセネタをバラ撒きまくったとなると、またあっちこっちに飛び火するなぁ…。せめて『キーボード配列 QWERTYの謎』が発売されてからにしてくれれば、よかったのに。

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吾輩はリファレンスである。名前はまだ無い -- perlの中の人

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