kaho (2741) の日記

2004 年 10 月 26 日
午後 03:43

進化の証人カモノハシ

MIYU_neeさんのコメントに触発され,Nature Web Newsのカモノハシの性染色体は10本という記事で興味を引かれて論文を読んでみた.

性の決定は哺乳類がオスが非ペアのY染色体をもつXX/XY型,鳥類がメスに非ペアなW染色体があるZZ/ZW型であり,これまではそれぞれ独立に進化したものと考えられてきた.(参考:雄と雌が決まる仕組み
XY型ではY染色体にSryという生殖器を形成するための遺伝子があることが性分化を決定しているとされ,ZW型ではDMRT1という転写因子がZ染色体にないことが性を決定している(オスになるためには2コピー必要)と言われている.

これまでカモノハシの性染色体については定説がなかったらしく,8から10本の性染色体と報告されてきた.
今回著者らはカモノハシの繊維芽細胞から染色体に特異的なラベルを作成してはっきりと分かる形でカモノハシの染色体を標識した.
するとオスの細胞の中にはメスの細胞にない4種類の染色体(+1種類のごく小さい染色体)があり,ペアのない,メスにもある5種類の染色体が観察された.
これらはラベルの結果から明らかに異なる染色体であり,カモノハシの性決定システムがX5:Y5とでも言うべき10本の性染色体によって決められるものであった.

これだけだとカモノハシの性染色体数を数えただけになってしまうのだが,面白いのはZW型で性決定をしているとされているDMRT1がどこにあるかを決めたところ,X染色体の中で最も短いX5染色体にあったというところだ.
ZW型の生物ではZ染色体にDMRT1がありオスでのみ2コピー,XY型の生物では常染色体に移っているので全ての個体で2コピー存在するとされてきた.しかしカモノハシではDMRT1は性染色体にある.
「性染色体にDMRT1がある」ということをとってみれば鳥類と同じだが,DMRT1が2コピーある方がメスになるという仕組みは鳥類とは逆(哺乳類とも)になってしまう.
従ってDMRT1説の否定に走ることもできなくもないのだが(どうせ機能もちゃんとわかっていないし),そういう過激で非生産的(=他人から反発されること必至)な主張をするのではなくて,著者らは性染色体にDMRT1があったから,これが原始的なシステムで本来はXY型もZW型も同じ起源だったのでは?という仮説を提案している.

正直に言えばニュースを見たときにはもっと決定的なXY型とZW型の統合モデルがあるのかと思っていただけに残念だ.
しかしこの仮説は検討する余地があるし,ZW型での性決定システムについてまだやり残したことがあると勇気づける結果でもある.実際「性決定システムの研究をしたい」というとこれまで「もう分かってるから無駄」的な雰囲気がなきにしもあらずだっただけに,こういった成果を突きつけることができるのは心強く思う人もいるだろう.

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