kaho (2741)の日記

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肺がんの大規模調査

kaho による 2004年12月28日 19時59分 の日記 (#272277)

Google News経由でChina view/Xinhua onlineのがんには遺伝的要因がというニュースを見て,どうして今頃ニュースになったのだろうと思い読んでみた.
この記事中で紹介されているのはアイスランド国民のゲノムデータベースの構築で知られるdeCODEの報告で,単一の癌ではなくて27種の癌についてそれぞれ遺伝による寄与を求めたというもので,27のうち16の癌では遺伝性が認められ,特に乳癌,前立腺癌,膀胱癌,腎臓癌,大腸癌,胃癌, そして肺癌で顕著な遺伝性が認められたということだった.

もうちょっと詳しい情報が内科と思ってdeCODEのサイトに行ったがこのニュースの元になっているような報告は見つけられなかった.
それだけだとつまらないので,NEWSにあった,肺癌の遺伝性に関する話の方を読みにJAMAのサイトに行ったらdeCODEの研究(肺癌の遺伝因子)と台湾の研究(タバコが肺癌の危険因子)が並んでいて,フリーで論文が読めたのでざっと読んでみた.

一般に,ある病気にかかりやすい家系があるからといってその病気が遺伝性のものかどうかは断言できない.
なぜなら遺伝子だけではなくて生活習慣も継承されるからだ.
例えば高血圧(循環器系疾患の主要な危険因子)にも家系性があるのだが,これはどちらかというと高血圧になりやすい食事が受け継がれているからではないかとも言われている.(高血圧の原因遺伝子を概算した研究では数百だともされ,とても「原因遺伝子」といえるものではなさそう)

肺癌研究でいうならば喫煙習慣が親から子へ真似されていくのであれば,一見原因遺伝子の遺伝のように見えてもそんなものはなく,本当の原因はタバコという環境因子であるのかもしれない.
これを調べる一番簡単で確実な調査は一卵性双生児と二卵性双生児で危険率が違うかを調べることなのだが,今回の報告ではより範囲を広げて配偶者,子供,兄弟,いとこ,甥姪/叔父叔母まで含めて喫煙習慣および肺癌発生のの相関を調べている.
正直この程度のことを言うためにそこまでしなくてもという気もしないではないが,deCODEの持っているデータがあるのであればこういうことも比較的簡単にできるというところだろうか.

その結果は予想通りなのではあるが,喫煙習慣と家族関係の相関よりも肺癌との相関の方が高く,遺伝的な要因が高いことを明らかにしている.
まあそれだけだとこれまでも分かっていたことの繰り返し的な意味合いもあるのだが,その結果の表で一カ所面白いと言うか不思議なのは夫婦間ではこの値が逆で,夫婦揃って肺癌になる確率よりも夫婦揃って喫煙者である確率の方が高くなっていること.
やはりこれは喫煙者は喫煙者を,非喫煙者は非喫煙者を伴侶として選ぶのだなあと.
これを逆に取って喫煙者同士で結婚すると肺癌になる確率が下がるとか解釈されたら恐ろしいことに(笑)

一方台湾の方の論文はタバコはメインテーマではなくて,台湾の水道水が砒素で汚染されていることにたいしての警告を発するものだった.
台湾の南西部と北東部の水道水は無機砒素で汚染されているらしく,それが公衆衛生上問題となっていることをしめしたもので,肺癌を対象にして喫煙による危険の増加もあるが,砒素への被曝は喫煙と相乗効果で肺癌のリスクを高めるという内容だ.

この地域では数百ug/Lもの砒素に汚染された水道水を飲んでいる地域もあるらしく,肺癌に限らず健康被害が出そうな量だ.
ちなみに日本の環境基準では水道水中の砒素は10ug/L以下となっているので砒素が危険因子となっているわけではない.

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弘法筆を選ばず、アレゲはキーボードを選ぶ -- アレゲ研究家

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