kaho (2741)の日記

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水だけで洗濯を

kaho による 2005年01月25日 12時41分 の日記 (#277572)

Nature Web Newsの脱気した水は石けんなしで油をおとすという記事.

直感に反する内容だったので論文も目を通してみた.
論文によると,水の中でもコロイド状になれば疎水性の粒子が安定して存在できることは知られていたが,これまで油を取り除くためには界面活性剤が必要とされてきた.
これは極性のない分子とは水分子が作用しにくいことによるものだが,以前の彼らの研究で溶解している窒素や酸素をとりのぞけば油滴やテフロン粒子を懸濁させられることがわかった.これは気体分子自体が疎水性であるため,疎水性分子が水中にあると表面にあつまり,水中に広がることを阻止するからだという.

今回より定量的に脱気した水が疎水性物質を懸濁できる性質を測定し,更に洗剤を使わない洗濯方法まで論文中で提案していた.

当然と言えば当然だが,彼らの脱気方法は念の入ったもので,水を液体窒素で凍らせ,その氷を0.01mbarの真空中で脱気し,これを5回繰り返している.
この操作によって通常溶けている99.999%の空気が取り除かれた.
この脱気水に普通水に溶けたり懸濁したりしない物質を混ぜてその効果を測定したところ,ほぼ完全に疎水性のperfluorohexaneを懸濁させることができ,それらは時間を経過しても分離しなかった.
論文中に示されている,試験管に脱気水をとperfluorohexaneを入れてシェイクした比較図はちょっと驚きだ.

ただ脱気したことによる効果は万能ではなく,dodecaneでは蒸留水との差も大きくないし,時間が経つと分離して同じようなレベルになってしまう.
また,もともと疎水性の溶媒と比較したら比較にならない.

ニュースでは省略されているが,そこで筆者らが主張する「洗剤なしの洗濯」というのは最初に疎水性の溶媒で脂分を溶かし出して,その溶媒を脱気した水で落とすというものだ.
現在の脱気方法はコストがかかりすぎるが疎水性の半透膜を通せば工業的に簡単にできるのでは?としている.
でも有機溶媒を使うとしたらドライクリーニングと変わらないという気持ちにもなるし,洗剤の環境負荷といってもこのやり方の実用性というのはうーんとうなってしまう.

脱気すると言うと私は電気泳動のアクリルアミドゲルをつくるときにやっていたことを思い出すが,そうすることでそんなに性質が変わるなど思いもよらなかった.
このクリーニングが実用的かどうかは別としても,とても面白い話だ.

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犯人は巨人ファンでA型で眼鏡をかけている -- あるハッカー

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