kaho (2741)の日記

○ ◎ ●

人工血管の利用のために

kaho による 2005年01月31日 16時26分 の日記 (#278700)

Nature Web Newsのガスを出すプラスチックで血栓を防ぐという記事.(原論文はここ

これまでにも心臓のバイパス手術などで人工血管は使用されてきたのだが,直径が6mm以上の太い血管に限られてきた.
これは人工血管が細いと血小板が凝固してすぐに詰まってしまうからだ.
このため細い人工血管の移植が必要になったケースでは血液凝固を押さえるための薬品が投与されていた.
しかしこれらの薬品は患者が外傷を負うとなかなか血が止まらなくなってしまうという問題がある.

血液凝固を押さえるために有望だとされ,動物実験も行われたもののひとつに一酸化窒素(NO)がある.NOというのは通常気体なのだが,水に溶けた状態で生体内でシグナル分子としても使われることがここ20年くらいで分かってきており,NOの効果の一つに血液凝固の抑制があることが知られているからだ.
NOを直接送り込むことはできない(まさか気体を直接は注射できない)から,分解過程でNOを生じるような,例えばdiazeniumdiolateを投与する実験が行われている.

Rice UniversityのチームがやったことはNOを出す物質を人工血管の素材に混ぜてしまうことで移植したその場所で血液凝固を抑制することだ.
これはコロンブスの卵的な発想だと思う.
方法としてはリシンを含む合成ペプチドを一晩NO溶液において,ポリウレタンを重合させる時に混ぜるというものでそれほど難しくない.
この素材でつくったフィルムを人の血液中において,血液の凝固がどれだけみられたかを測定した.

その結果ノーマルなポリウレタンと比較してはるかに血液凝固がおこらず,期待したような効果が得られたという実験だ.

これはまだin vitroの実験だし,実際にチューブ状にしたわけですらないのでまだ実用性についてはわからない(混ぜ物をしたことで脆くなっているかもしれないし).
しかし患者の体全体に対しては影響を抑えて局所的に働くこういったアイデアは優れていると思う.

---2/3追記
「in vivoの実験ではないし」と書くところを「in vivoの実験だし」と書き間違っていた.指摘があったのでin vivo->in vitroに修正.

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。

アレゲは一日にしてならず -- アレゲ研究家

処理中...