von_yosukeyan (3718)の日記

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黒鉛チャンネル軽水炉

von_yosukeyan による 2004年04月29日 3時27分 の日記 (#215260)

この辺のスレッドから

原発事故というのは、主に構造・設計上の問題と整備・運転上の問題の二つに原因を求めることが出来る。しかし、大半の原発事故というのは、設計構造の問題が運転上の問題に大きな影響を与えることが少なくない。というのは、設計を行ったメーカーが運転員の教育や制御システムの設計まで行っているためで、原発事故の大半は「設計思想が問題」と言っても過言ではない

ソビエトの黒鉛チャンネル軽水炉(RBMK)は、日本やアメリカで一般的な沸騰水型軽水炉(BWR)や加圧水型軽水炉(PWR)とは似ても似つかない構造をしている。原子炉には圧力容器がなく、減速材として黒鉛、冷却材として軽水を使用している。BWRやPWRは基本的には燃料集合体全体が減速材兼冷却水に使っているが、黒鉛チャンネル炉は黒鉛のブロック(パイル)を組み合わせたチャンネルの中に、燃料棒と冷却水(軽水)を通した冷却管、それから制御棒が通る穴が開いている。(構造図参照

#構造が似ているものとして、旧動力炉核燃料開発事業団の新型転換炉ふげんの構造図を示す。ふげんは、減速材に重水、冷却材に軽水を使用している軽水炉

最大の利点は、圧力容器がないために運転中に燃料を交換できる点である。ソビエトの機械設計思想の根底には、高度な自動化とモジュール化にあるが、燃料棒そのものの交換も遠隔操作による燃料自動交換装置によって行うことが出来る。もうひとつは、冷却系がチャンネルごとに分断されているために、破損などの事態が発生した場合、問題の発生したチャンネルだけを閉鎖して、他の系統を動かすことが出来る点である

さらに、整備上の利点もある。炉は分厚い黒鉛パイルで囲まれている為に、遮蔽効果が高く運転中の減速チャンネルや燃料棒の交換が可能であり、重装備でなくても作業員が安全に作業できる。先日、ロシア国営放送RTRを見ていたら小学生が社会見学で、RBMK炉の上を歩いている映像が流れていたくらいだ。運転中だったかどうかは知らんが

そして、最大の利点は原子炉重量が軽い点である。一般的な金属製の圧力容器は、非常に重量が重くコンクリート構造物の重量も加われば水源の豊富な河畔に建設することが難しい。日本でも安定地盤地に建設される場合が多い(沖積層地盤である東京に発電用の大型PWP炉やBWR炉を建設することは不可能である)が、RBMKは圧力容器なく軽いので、脆弱地盤にも建設が可能である。これは、超重量物の輸送を専ら河川に頼っていたソビエトにとっては、内陸地に原発建設を行えるという点においても合理的な選択だった。現にチェルノブイリ発電基地は、プリピャチ川の河畔に建設されていることからもわかるだろう

逆に問題点としては、圧力容器がないために一旦事故が発生すると放射能を原子炉建屋内に封じ込めることが難しい。また、冷却チャンネルが細管なので、破損すると大規模な冷却材喪失リスクが高いなどの問題点があった。最大の問題は、冷却チャンネルの中で気泡が発生すると、原子炉が暴走する危険性がある点だ

4号炉事故はいくつかの偶然が重なって発生した。1986年4月25日から翌日26にかけて、チェルノブイリ発電基地4号炉はスクラム(緊急事態)発生時の原子炉タービンの慣性運転試験を行っていた。これは、ECCS(緊急炉心冷却装置)用ポンプの非常電源(ディーゼルエンジン)が起動するまでの間、ECCSポンプに発電用タービンを慣性運転による電力供給試験を実施するためだった。ECCS用のポンプの替わりに、原子炉に冷却水を供給する主循環ポンプをECCSポンプに見立てて実験を行った

#ECCSとは、冷却材喪失事故や原子炉暴走などの緊急事態が発生した場合に、循環系統(ループ)とは別に用意された貯水槽から大量の冷却水を、炉心に供給する安全装置であり西側の原子炉にはほぼ設置されている。チェルノブイリ4号炉は、設計の際西側(主に当時の西ドイツ)から、安全設計システムなどを大量に購入して設計された

原子炉は低出力状態で、ECCSはシステムが作動しないように切り離されていた。出力は安定していたが、主循環ポンプからの冷却水の流入が不安定となり、原子炉温度が急上昇。細管に気泡が生じ、制御棒を全挿入したために原子炉が暴走。わずか30秒ほどの間に原子炉が爆発した

#これは一般に思われているように、核爆発ではない。原子炉の温度と圧力が極めて高い状態となり、炉内で水蒸気爆発が発生し、上層構造物と燃料を吹き飛ばすほどの爆発が発生したと考えられている。また、黒鉛パイルが激しく燃焼したことが、被害を広げる要因のひとつとなった

後の放射性降下物の分析から、4号炉にはかなり純度の高いウラン燃料が使用されていたことが判明している。通常の原子炉は、天然ウランの純度をわずかばかり高めたものを使用しており、コールダーホール型炉(GCR)では天然ウランを使用している。純度の高いウランを使用することで、燃料交換頻度を減らすことができるが、こういった燃料の使用が設計上想定されていたかどうか、安全基準を満たした装荷であったかどうかは不明である

#(5/4)追記
チェルノブイリ事故以後、RBMK炉の新規開発はほとんど停止している。ソビエトで開発された原子炉は、RBMK炉の他にロシア型加圧水型軽水炉であるVVER炉がある。VVER炉は新規建設が継続されており、例えば最近ではチェコのテメリン原発1・2号炉もVVER炉で核燃料の供給はウェスティング・ハウス社が供給している(WHは、PWR炉の有力メーカー) しかし、90年代前半に旧東ドイツに建設されたVVER炉(VVER-1000)を分析した西側の技術者は、VVER炉にはECCSや原子炉圧力容器に各種の欠陥を発見しており、PWRと比較して安全性が劣ると結論付けている。ロシアは、VVER炉の改良を継続すると共に、中国やインドなどへの輸出に積極的である。ただ、すべてが劣っているとというわけではなく、高燃焼性燃料の使用による長期運転サイクルを実現しているという点や、最新の冶金工学の応用による、低腐食炉である

#長期運用サイクルの研究は、主に軍事用原子炉の分野で先行している。例えば、米国のセオドア・ルーズベルト級CCVの原子炉(GE製PWR/A1G WH製A4W)の燃料交換サイクルは10年で、軍用炉のため仕様は定かではないが、高濃縮で特殊形状の燃料集合体を使用していると考えられている。日本の商業炉では、安全性の観点から定期検査サイクルが法律によって定められており、通常の低濃縮ウランが使用されている

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