von_yosukeyan (3718)の日記

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金融デパートの崩壊

von_yosukeyan による 2004年05月25日 20時50分 の日記 (#221744)

UFJホールディングスが、傘下のUFJ信託銀行の売却を決定した。三和・東海・東洋信託の三行統合から二年目にしての離脱であり、同時に商業銀行・信託銀行・投資銀行を併せ持った総合金融グループは、傘下にみずほ信託銀行を抱えるみずほフィナンシャルグループと、同じく三菱信託銀行を抱える三菱東京フィナンシャルグループのみとなる

#正確に言うと、三井住友銀行(SMBC)は信託兼営法に基づく信託兼営行であるが、信託銀行三業(信託銀行業務、証券代行業務、資産管理業務)を満たしていなし、実際にこれらの業務は三井トラストホールディングスおよび住友信託銀行に委託している

UFJ信託の離脱によって、UFJグループ自体の収益力を危ぶむ声がある。実際に、一部の報道では「総合金融グループの看板を下ろした」とまで報道されてはいた。しかし、実際にそうなのだろうか?

今回のUFJ信託売却のスキームを見ると、平成16年度中にUFJ信託を住友信託銀行にいったん売却する。うち、銀行勘定などは住友信託銀行と統合されるが、資産管理業務や証券代行業務などの業務は、新たに住友信託が持ち株会社にぶら下がる形で設立する新信託銀行に移管される。この新信託銀行に対し、UFJホールディングスは優先株を引き受ける形で関与し、住友信託本体とも信託業に関する包括的な提携を行う

よって、営業面では現状とはほとんど変わらなくなる。強いてあげれば、UFJ銀行の間でのキャッシュカード提携がどうなるのか不透明であることと、UFJ銀行に移管予定だったUFJ信託の銀行勘定が住友信託に移行されるくらいである。住友信託側からすれば、市場全体が縮小均衡しつつある年金受託業務を拡大することでスケールメリットを追求でき、また親密なSMFGやりそなHDに加えUFJHDとの間でも提携できたこと。また、規模や営業基盤の面で三菱信託に劣っている面を補強できることなどが挙げられる。一方で、都市銀行のシステムに比べて一段と複雑で時間のかかる商品やシステム統合という難題を抱え込むことにもなる

#もうひとついえるのは、旧東洋信託銀行の証券代行部門は野村證券の証券代行部門が前身であるため、史上最強の投資銀行である野村證券とのパイプができる、というのもありそうなんだけどどうなんかね?

一方で、傘下に信託銀行を抱えているMHFG・TMFGの両グループは傘下に信託銀行を抱えることで統合効果を出しているといえるのだろうか

まず、三菱信託銀行(MTBC)を見てみると同じ三菱系の誼で、東京三菱銀行(BTM)と金融グループを結成し、旧川崎財閥系(現三菱グループ)の日本信託銀行を吸収合併したのもの、BTMとの路線対立が激化しグループシナジーを発揮できていない。最も典型的なのは、共に顧客に占める富裕層比率が高いにも関わらず、投資信託や変額保険販売ではSMBCやCMTBに後塵を拝しており、手数料収益比率がUFJに劣り、BTMとMTBCの間でほとんど交流がない。度々MTBCがみずほコーポレート銀行に秋風を送っていたのは、そういったMTBC側の不満がある。さすがに、三菱系金融グループの体質とも言える意思決定に遅さに業を煮やし、MTBCの企画部門をBTMおよび持ち株会社側に統合する計画だが、両者の対立は激化しているとも言われる

みずほ信託銀行の場合はさらに悲惨で、97年以降組織いじりに終始し、組織は大混乱状態である。まず、97年に旧安田信託銀行の経営危機に対し、同じ旧安田財閥に属する富士銀行が救済を表明。信託銀行部門を除いた業務を、富士銀行子銀行の富士信託銀行に移管し、さらに98年には第一勧業銀行の信託子銀行の第一勧業信託銀行と経営統合し第一勧業富士信託銀行となった。一方、収益源を失った安田信託銀行は、株価が暴落し一時50額面で39円にまで売り込まれた

99年みずほフィナンシャルグループ構想が発表され、01年には第一勧業富士信託銀行と興銀信託銀行が合併しみずほ信託銀行に。一方、02年には安田信託銀行が行名変更しみずほアセット信託銀行となった。しかし、アセット部門と信託銀行部門をわざわざ分ける必要性がなくなったことから、03年にはみずほアセット信託銀行とみずほ信託銀行は合併し、現在のみずほ信託銀行となった。これは、実質的には97年に富士銀行が資本注入する前の安田信託銀行の形に戻ったことを意味する

こういったように、総合金融グループ化によって効果を発揮できている金融グループというのは今のところ見当たらない。実際には、巨大な金融持ち株会社の下で商業銀行、信託銀行、投資銀行を統合したところで、経営資源を徒に分散させているだけで、資本の無駄遣いでもあり、グループ全体の意思決定速度を遅くさせてさえいる。結局は、総合金融グループ化は単に規模だけが大きいだけで、個々の業態では競争力のないという過去の財閥と同じ問題点を抱えていると言える

UFJ信託の分離が、UFJ銀行本体への経営資源の集中としての効果として現れるかどうかはまだ不明だが、99年7月に始まる金融デパート的な巨大総合金融機関モデルは、すでに崩壊していると言えるだろう

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