von_yosukeyan (3718)の日記

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ネット銀行二次参入組の勝算

von_yosukeyan による 2005年01月27日 3時49分 の日記 (#277912)

篁風日記あたりへのコメント

2004年期決算予想で、2000年以降新規参入したJNB、イーバンクのネット専業銀行が黒字化を達成したが、ここにきてヤフー、Livedoorの二社が新たにネット専業銀行に参入を表明した。97年頃から本格化した、インターネット上の決済ニーズを巡る各社の争いは、一旦は収束したと考えていいが、この二社の参入によって新たな段階を迎えたと言える

第一段階である97年ごろからの戦いでは、まず大手銀行がインターネットバンキング戦略を拡充する一方で、子銀行を設立する形での参入を考慮し、一方でベンチャーという形でイーバンクが米国のPaypalをモデルとして新規に参入した。大手銀行系列では、業界再編という波乱要素もあったが、三和、富士、さくらの三行が新銀行設立に動き出し、イーバンクはあさひ銀行と提携して決済業務に参入した。前者の場合は、決済業務を核としながら個人向けローンを主要な収益源に据えていたのに対して、後者は当初から決済業務そのものによって収益基盤を確立すると言う戦略上の違いがあった

99年の金融再編によって、この戦略から三和と富士の二行が実質的に脱落する。決済基盤をベースにリテール基盤確立を行うというのは、基本的に親銀行の業務と競合関係になるし、勘定系システムへの投資がかさむことから、新銀行へ参入しても損益分岐点はかなり高い水準であると考えられたからだ。従って、この二行は通帳などを不発行とし、決済手数料や金利などを安く押さえたネット専用支店として参入した。一方で、さくら銀行は富士通と提携してオープン系勘定系システムを使用したトランザクションコストを押さえた新銀行を設立することになる

一方で、決済基盤そのものを主要な収益源と考えたイーバンクは、さらに徹底したトランザクションコストの低い勘定系を開発して参入した。イーバンクは、インターネット上の決済口座を既存の銀行と同じ機能を実装する必要は必ずしも必要なく、むしろ既存の銀行口座とインターネット決済口座が共存する形(この点はPaypalも同じ)にすることで、単に既存の勘定系機能をメインフレームからオープン系に置き換えるという形ではなく、ネット上の決済機能に特化した勘定系を新たに構築するという戦略に出た

結果から考えると、これら三つの戦略はすべて失敗している。第一に、ネット支店という形で参入したUFJ(三和)、みずほ(富士)の二行は、単純に自行のネットバンキングサービスが競合相手となって、有力な決済手段になりえなかった。第二に、JNBも取引口座の増加に伴って勘定系システムや提携銀行に支払う手数料の問題から決済口座単体でのコスト水準はかなり厳しいものになったし、ローン口座の伸びも大きくはみられなかった。そして、三番目のイーバンクも唯一の収益基盤である法人決済収益の伸びが見込めず、結局は投資銀行業務を追加することによって黒字を達成したに過ぎない。即ち、ネット支店としたUFJ・みずほの二行以外のJNBとイーバンクは黒字化には成功しているとはいえ、当初の戦略どおりにはうまくいっていないといえる

そして、これらの事実から判明した問題点は、今後参入する二行にとっては重要な問題であると言える。第一に、参入には少なくとも200億円単位の資本投下と、最低でも4年から5年程度の赤字に耐えられる必要性があること。第二に、顧客基盤を確立するためには、すでに低価格で簡単な決済手段の提供、というのはすでに競争力がないこと。第三に、顧客基盤の拡大のためには、ネット上の決済ニーズにリンクしている必要性がある点である

すでに、参入二行の例から見ても明らかのように、収益モデルはどうあれ黒字化を達成するためには、最低でも80万口座レベルの顧客基盤が必要であるという点である。この口座数を獲得するためには、最低でも4年程度の赤字を覚悟しなければならないし、勘定系システムの開発と4年間の拡張投資などで、実質的には100億円程度、ローン事業を行う場合には貸し出しローンの全額を引当可能な資本金を用意することを考えると、さらに50億円が最低ラインであると考えられる

二番目の問題に関しては、すでに大手銀行のインターネットバンキングがリテール基盤拡充のために価格競争に入りつつある点と、ネット銀行の存在から考えれば、単にインターネット専業で決済業務を提供する、というだけでは競争力が存在しない。依然として、銀行顧客は銀行の手数料に対して強い不満をもっている。決済業務におけるコスト負担の適正化を図ったJNBの各種の値上げによって、すでにネット銀行顧客は既存の大手銀行における決済コストとそれほど変わらないと感じはじめており、決済業務そのものを収益の柱とすることは益々困難になりつつあると言えるだろう

三番目の問題に関しては、JNBとイーバンクが早期に多数の顧客基盤を確立しえた最大の理由が、ネット決済において最大級の市場規模であると考えられるヤフーオークションとの提携関係が勝敗を決したと考えてもいい。ショッピングモールとの決済を重視したBTM、UFJ、みずほの三行は、ネットオークションを軽視したために実質的に失敗したが、ショッピングモールとオークションサイトを抱える二社が、参入したからといって早期に有力な地位に上り詰める可能性は低い

即ち、限られた市場を奪い合っている中に単に参入するだけでは、市場は限られているし結局は体力勝負になってしまうという点である。参入によって、新たな市場を決済需要を形成し、なおかつ収益基盤は決済以外にも基盤を置かなければならないという点に関しては、二社の参入はかなり厳しい状況であると言えるだろう

では、両者に勝算があるのか? おそらく、既存の金融機関が達成できてない市場というのは確実に存在する。それは、消費者側の決済ニーズや金融ニーズではなく、出店者側の決済ニーズである

イーバンクはこの点に注目して市場参入したが、ネットモールと提携していない点がネックになっていて、市場拡大を思うようにできなかった。一方で、二社は(規模の圧倒的な差はともかく)ポータルサイトを中核としたネットモールとオークションサイトを抱えている。消費者にとって、低コストな決済手段はすでに存在していても、出店者側の決済事務コストはかなり高いままになっている

例えば、既存の代金回収スキームでは、コンビニ、クレジットカード、銀行決済などのバラバラのスキームを、パッケージ化して提供されているだけで、小売店が多用な決済チャネルを単一のチャネルから把握することは困難である。決済チャネルの多様化は、モール出店者にとっては、逆に複雑化している問題であり、モール運営を行っている二社によってはこれらの効率化は、本業との相乗効果も高い分野であると言える

さらに、小売店に対するファイナンス提供という点においても利点がある。実のところ、中小企業融資というのは全国的に展開してインバウントでリスク分散を行うのが一般的で、アウトバウントで展開している例は少ない。日本振興銀行などは、アウトバウント戦略であると思われるが、アウトバウント戦略で重要になる会計データと取引データからのトランザクション評価には一定のノウハウと人員が必要になる。この点から考えると、金融業にノウハウがあるとはいえ、二社が単独で参入するよりも既存の金融機関と提携して三有した場合のメリットは極めて高い

ところで、銀行業の認可可能性という観点から見ると、木村剛氏の存在はそれほど重要ではないと思う。銀行業免許の認可要件に関しては、未だ金融庁内部でも議論のある問題であるが、原則的に規制緩和方針に違いはなく、一定のプランと資本金があればある程度は認可は行われるはずだ。一方、時間的な問題に関しても、新銀行東京に対して金融庁が行った行政処分などを考えても、認可後の経営の適正化指導と言うのは十分可能であり、認可の時間を短縮するために他銀行を買収する、というのは金融行政上好ましい問題ではなく、両者が同等な条件を課せられるという方向に収束するのではないかと考える

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