von_yosukeyan (3718)の日記

少し古い話になるが、MTFG系ネット証券のMeネット証券と、UFJ・伊藤忠系のネット証券のカブドットコム証券が合併を発表した

UFJ系といっても、カブドットコムの母体は旧伊藤忠系の日本オンライン証券で、UFJ系のイーウィング証券を吸収合併した関係から、UFJ色は薄く筆頭株主は伊藤忠商事である

一方で、Meネット証券はBTMがカナダ四大銀行の一つであるトロント・ドミニオンと提携し、トロント・ドミニオンのディスカウントブローカー部門であるTDウォーターハウスのトレーディングノウハウを合弁で持って来た東京三菱TDウォーターハウス証券が起源である

日本オンライン証券は、創設時から独自のWindows系売買システムを採用するなど、「株ヲタとPCヲタが大学サークルのノリで作ったベンチャー」と陰口を叩かれたりしたが、独自の取引システムが評価されイーウィングとの合併によるUFJグループとの相乗効果もあって、ネット証券協議会(NSA)の一角を占めるまでに成長した。一方のTMTDWは、東京三菱銀行が親密証券の日興證券グループの経営危機を放置したために三菱グループから離反し、証券系のノウハウを全面的にTDWに依存する形でのスタートとなった。システム的にも、バックオフィス系システムは大和総研のSONARを、フロントシステムもTDWと大和総研が提供するパッケージを使用するなど、でっち上げ感が強く、口座開設数は早々に低迷した

2002年、TDWが出資比率を引き下げ、新たに旧野村系の準大手証券である国際証券を買収して鳴り物入りでMTFG傘下に入った三菱証券の直接参加に入ったのを機に、日本では知名度の低いTDウォーターハウスと三菱の名を外し、Meネット証券に社名変更を行ったものの、やはり口座数は7月現在で8万と、カブドットコム証券の26万と比べれば大きく水をあけられている。開業以来の累損も巨額で、BTMとの間の証券仲介や、フロント系システムへの投資によるトレーディング環境の改善などの努力も空しく吸収合併という形になった

90年代後半の証券自由化によって、東京三菱TDウォーターハウスに限らず、シュワプ東京海上証券(廃業)やDLJディレクト・SFG証券(現楽天証券)、イートレード証券など外資系ディスカウントブローカーと提携してネット証券に参入した会社は多かった。DLJの場合もイートレードの場合も、格安の手数料と取引環境の充実といったユーザーサイドにたった巨額のシステム開発を投じたのに対し、金融業からの参入だったシュワプとTMTDWは、外国株取引を重視し日本株取引や信用取引に対して冷淡だったことが明暗を分けた。また、金融自由化によって銀行や保険業からディスカウントブローカー(低価格な手数料での証券業態)へ参入し、先行者利益と本業との相乗利益を得ようとしたシュワプとTMTDWに対し、本業との相乗を重視せずブローカー業務に徹したという点でも差は大きい

そして、最大の差と言えるのがシステム投資である。従来の店舗営業型の証券会社の最大のコスト要因は人件費であるが、ネットというリモートチャネルに徹して、チャネルである証券フロントシステムに多額の投資を行ってきたネット証券だけが生き残っているという点も見逃してはならない。そして、事に証券分野では失敗の多いMTFGが、証券戦略を巡って機動的なM&Aや、チャネル・インフラ投資を怠ってきたことも、金融機関系のネット証券参入の失敗の原因と言ってもいい

また、SMBCによるDLJ Direct SFG証券売却にも見られるように、大手銀行はネット証券戦略をかなり見直している。すでに大手銀行は、傘下に準大手レベルの店舗型のリテール証券会社を抱えている。例えば、MHFG系のみずほインベスターズ証券と新光証券、SMFG系のSMBCフレンド証券、MTFG系の三菱証券、UFJ系のUFJつばさ証券などである。ネット証券は、NSA加盟4社(イートレード、松井、楽天、カブドットコム)と、NSA非加盟のマネックスビーンズの5社でほぼ飽和状態であり、新たに多額の投資を行っても早々シェアの奪還は難しい状態にある。一方で、昨年の銀行による証券仲介業参入の規制緩和もあってか、銀行傘下のリテール証券と銀行とが連携を強化する一方で、ネット証券と銀行との連携は余り強くない

ネット証券は手数料と、ネット取引の手軽さを売りにするディスカウントブローカーであるが、銀行の提供する証券仲介は原則的に、銀行店舗における資産運用手段の多様化にある。これまでも、銀行は投資信託や投資性保険の販売を開始するなど、商品幅を広げてきたが、これに株や外債などが加わる、という位置付けに過ぎない

店舗型証券の斜陽化が叫ばれて久しいが、米国の大手ディスカウントブローカの大半が、電話やネットのみをチャネルとする「ネット専業」ではなくなってきている。ネットバブル崩壊後の2002年頃から、米国のディスカウントブローカーは店舗の設置や買収を進めて総合証券化の道を歩んだり、銀行業務に参入するなど手数料依存体質からの脱却を図っている。むしろ、本来の意味でのディスカウントブローカーは、大手ではなく中小の仲介業者が中心で、アッパーミドル層の資産管理ビジネスを強化している

そう言った意味で、大手銀行の証券仲介業はネット証券とはセグメントの異なる中高年から退職者などの資産運用市場が主要なターゲットであり、元々それほど市場がそれほど大きくないネット証券分野は相乗効果に期待できないと考えている。

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アレゲは一日にしてならず -- アレゲ研究家

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