von_yosukeyan (3718)の日記

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北川・奥体制

von_yosukeyan による 2005年07月26日 21時03分 の日記 (#309567)

SMBCの有価証券残高報告書兼外貨預金移動明細は、毎年1月・4月・7月10月の年4回、四半期ごとに1つのレポートして送られてくるのだが、これに同封されているOnes next Letterというしょうもない冊子がある。大抵は読まずに捨てられているどうでもいい冊子なのだが、7月のレポートにはSMFG会長兼SMBC頭取の奥正之氏と、ソフィアバンク副代表の藤沢久美氏の対談記事が掲載されていた

Webにも同様の内容が掲載されているのだが、読んでみてちょっとひいてしまうような内容に思えた。脈略もなく海外! 海外!とやたらと海外の話が出てくるのは、奥氏が海外畑が長かったこともあるのだろうが、別のインタビュー記事で収益改善の柱に投資銀行業務(大和証券SMBC)と海外業務を挙げているほどで、海外業務の再興に対する奥氏の執着は相当に思える

SMBCは、年内にもトヨタが進出するロシアに駐在員事務所の開設を行い金融不況以来撤退を加速していた海外拠点の再強化を始める。ロシアへは、地銀のみちのく銀行が現地法人を開設してフルバンキングを提供しているが、トヨタの進出を契機にすでに現地駐在員事務所を有しているBTMが支店への昇格認可を得ている。海外業務においては、旧東銀を吸収しBIS自己資本比率規制でメガバンクの中では財務内容が比較的マシだったBTMが金融不況時においても海外業務を死守してきており、ポーランド東京三菱銀行の設置や中国業務の拡充など新拠点の開設にも積極的だった。一方のSMBCは、海外からは総撤退状態で、はやり海外部門を縮小していったみずほやUFJと比べても、新興市場である中国や南米での業務拡大もあまり積極的とは言えなかった

そう言った意味で、海外部門の再建は西川体制後の北川・奥新体制下での命題とも言えるのだが、さりとてSMFGが直面している諸問題に比べて至上命題というわけでもないし、最優先項目というわけでもない。BTMの海外部門の最拡充戦略は別としても、はやり海外部門の再建を急いでいるみずほコーポレート銀行が、香港拠点を撤退して新たにシンガポールにアジア営業部を設置する一方で、みずほ銀行が米ウェールズファーゴ、米ワコビア、米バンク・オブ・ニューヨークと相次いで戦略的提携を行うなど、景気回復と大手銀行の業績回復を背景に海外戦略を活発化させているという側面は確かにある。また、90年代半ばからの邦銀の経営悪化によって、格付けの上で唯一外銀とほぼ対等に営業が行えてきたBTMが、UFJとの経営統合によって海外戦略に狂いが出始めているという契機でもあるが、SMFGにその余裕があるのかというとかなり疑わしい

西川体制は、本来ならさくら銀行との合併を経て攻めの戦略への転換を期待されていたが、西川体制の崩壊の原因となった不良債権問題の最終解決や、公的資金の返済、自己資本比率問題、信託や証券との経営統合など多くの課題を残したまま不本意な形での新体制への移行となった。本来なら取相(取締役相談役)として次期体制の基盤確立まで院政を敷き、経営に対して一定の影響力を残すと思われていた体制委譲に関しても、顧問に退くなど影響力も限定的なのものとなる一方で、旧さくら銀行のホープといわれた北川氏が持株会社社長・銀行会長という名目上の地位に止まり、銀行は旧住友出身の奥氏が固めるなど、一種の人事のねじれが発生している

1兆1000億円に及ぶ公的資金残高の三年以内の解消計画や資本増強、それを裏付ける収益力の向上が当面の新体制の課題となるが、すでに収益性は現在のSMFGの体制から考えれば限界に達している。信託や証券、保険との経営統合もそれほど単純な話ではなく、金融危機時のような経営統合に対する切迫性が低い上に、三井トラスト・住友信託のそれぞれが独自の生き残り戦略に目処が付いている今、両者を吸収できる余地はほとんどないといっていい。また、大和証券グループ本社との経営統合も、統合が最善の形とは言え吸収されれば銀行店舗に全機能を奪われる危険の高い経営統合がそれほどすんなりいくとは思えない

そうなると、プロミスなどのリテール営業や中小企業融資などの法人営業を地道に強化するくらいしか残された道はないが、ここに来て業績が回復した金融機関が選ぶべき国際営業の強化を声高に叫ぶ、というのは眉をひそめざるを得ない。マネーセンターバンクの一角であるSMFGにその資格はないと言うつもりはないが、その時期にあるようには思えない

景気回復と金融機関自体の体力の回復で、金融危機は去ったという認識は一般化しつつある。しかし、海外では見解が分かれているようで、未だに邦銀に対する視線は冷たいものがある。バブル期に一斉に海外市場になだれ込み、バブル崩壊と共に潮をひくように退場していった邦銀に対し、国際市場で100年単位で展開している外銀と対等に戦えるかという点ですでに不利だが、邦銀の業績回復そのものにも未だ問題があると思われているのだ。例を挙げれば、5月に海外で発行した劣後債の利払いを停止したUFJHDに対して、一時経営破綻かという憶測が流れ市場が混乱する側面すらあった。それくらい、邦銀は信用されていないのだ

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計算機科学者とは、壊れていないものを修理する人々のことである

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