muji (9607)の日記

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七月大歌舞伎 「NINAGAWA十二夜」

muji による 2005年07月23日 23時44分 の日記 (#309129)

これから風呂入るので予約エントリ。
夜の部開演は16:30であった。

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蜷川演出らしくミラーを多用した幻想的な舞台。
桜吹雪が舞い散る中でチェンバロ演奏をバックにとつくにの言葉で歌う子供達。
そこへ花道から登場する、信二郎扮する大篠左大臣と従者(松也)。2階より上の席なら普段は見ることの出来ない、鳥屋口の幕が開けられてから役者が進み出る一部始終が舞台のミラーに映って、様子が手に取るように判るのが面白い。
左大臣宅の庭という設定で、最初は歌に聴き入る風だった信二郎が、織笛姫(時蔵)に恋い焦がれる切ない想いを抑え切れず演奏を止めさせて、切々と胸の内を独白し始めたその時、

例の震度5強ですよ奥様(誰?

何せ現歌舞伎座、戦災で焼けてから復興されたのが1951年1月。観客層の年齢なぞまるで考えられていない、およそバリアフリーという単語とは縁遠い建造物である。そりゃあ都度補修はしてるかもしれんが、今日の地震程度の揺れがあと2、3回立て続けに来たらマジヤバいんじゃないかと。
それくらいみしみしいってたし、証明に照らされて微細な埃が舞い落ちてくるのがはっきり見えたし。どっかヒビ入っててもおかしくなかっただろう。
当然客席はP波でざわつき、S波で悲鳴も上がる程。
こちとら2階で観てたんで3階席も心配だし自分の足下=1階席も気になるところ。

そんな状況下でも微動だにせず長丁場の独白をやってのけた信二郎。
期せずして沸き上がる拍手!
大向こうも思わず「萬屋っ!!」

……いや、ここは拍手もらうところでも声かかるところでも何でもないんだけど orz
まあ気持ちは判る。

そりゃ役者としては当然のことをしたまでかもしれないが、従前の信二郎なら動揺を隠し切れなかったかもしれず。つか先月のとちりの如く後々まで引きずった可能性もあるな。
そういう点では明らかに成長した、と思う。やはり1か月間主役をつとめたのが大きな糧になっているのだろう。例え台詞を間違ったとしても(くどい(w)。いや勿論何をどう間違えたかは本人が一番よく判っている訳で、それを消化して自分の血肉とするだけの技量がようやく備わってきた、と。
遅いっちゃあそれまでだが、元々主役格ではない、アクのない二枚目役が本領な信二郎のこと、今までは主役を与えられても自分自身でどこか"自分は主役たるアクがないから"と枠を作っていたところがあったんだろう。その辺がここ1、2年で吹っ切れたのだとしたら、今後が実に楽しみではないか。

話は一気にオーラスに飛ぶが、琵琶姫となった菊之助を伴って階から舞台中央へと進み出る信二郎、表情が信二郎の本領そのものだった。あれだけ気品のある穏やかな微笑みをたたえられる二枚目役は今の歌舞伎界にはそうはいまい。主役じゃなくても構わない、文字通りの「二枚目」役者として希有な存在になってもらいたい。

……って信二郎ほめ過ぎ(爆(ぉ
いや、一応主役は三役早変わり(主膳之助、琵琶姫、獅子丸)をつとめた菊之助なんだろうが、真の主役は亀治郎(麻阿)とみた(w)。噂通りの芸達者。声は女形としてはちょっといただけないが、補って余りある存在感。本人コメントで「麻阿=マライアはもっと年配の方が演じることが多いようです」とあったが、なるほどそういわれてみれば絡む相手は左團次(洞院鐘道)がメインだったりするので、となると亀治郎、年齢以上の大活躍ということになる。例え自分にライトが当たっていなくても舞台の端でちょこちょこ小芝居を打ってたし、またそれがツボを捉えた細かい芸だったりする。ふーむ、同年代の役者勢ではピカイチだな。
左團次といえば、本人コメントで台詞の多さに泣きが入っていたが(w)、マジたくさんしゃべっていた。左團次にあるまじき台詞の量だよこりゃ。やれば出来るぢゃん、と次の舞台から台詞増やされたりして(ぉ
松緑(安藤英竹)も見事な阿呆だった。彼の真面目な舞台振りにはいつ観ても好感が持てる。親父があんな死に方をして祖母と母との綱引きの道具にされて、なんてなごたごたに巻き込まれたにも関わらず役者としてこんなにまっすぐ育つとは思ってもいなかった(ぉ)。しかもいつの間にか妻子持ちだし(w)くれぐれも飲み過ぎないようにしてくれよな、と祈らずにはいられない。や、既に飲みっ振りは親父のそれにそっくりだが orz

ああ、息子に負けじと二役早変わり(丸尾坊太夫、捨助)をつとめた菊五郎を忘れちゃいかんですな(ぉ)狂言回し役に徹していても力量溢れる演技は安心して観ていられた。流石現歌舞伎界での最年少人間国宝ですな。

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