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okkyの日記: 内海課長はわかるが、後藤隊長はわからん 8

日記 by okky

パトレイバーのマンガでは、内海課長はぎりぎりで逃げ切れずに捕まる。後藤隊長の勝利…

まぁ、「警察側が主役の漫画」だしね。内海課長が捕まらないとこの漫画終われないから。

でも。

私的には後藤隊長の感覚は本音を言うとよく判らない。

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内海課長の考え方はよく判る。

彼は趣味を全開にしているけれど、本質的には新しいものが好きだ。ハイパフォーマンスが好きで、ピーキーなチューニングとそれを自在に操るのが好きだ。
自分ができないなら、そういう事ができる人を育てるのが好きだ。

内海課長の基本指針は、開発とか研究とかをする人にとっての天国だ。こういう世界の人間は、自分が好きなことに、力の限り没入するのが好きだ。集中している最中に邪魔されるのが何よりも嫌いで、集中力が切れたときに好きなように休むのを邪魔されるのが2番目に嫌いだ。自分がやっていることを理解してもらうなどという行為は時間の無駄だ。俺が判ることが判らないなんて、バカなんじゃないの? そんな馬鹿がお金を持っている方が間違っている。それは資源の無駄遣いだ。俺が正しい使い方をしてやるから、どけ

優れた結果には、それに見合った報酬があってしかるべきだ。技術的に優れているものが、政治的に認められないなんてあってはいけない。その多額の報酬は何に使われるか? 次の自分が好きなことに決まってるじゃないか。

ゆうきまさみ先生の漫画にはマッドサイエンティストがいろいろ出てくる。出門凶三郎博士とか成原成行博士とか、下神戸良蔵とか死神博士とか…内海課長はある意味彼らと同族なのだ。自分で研究・開発しないだけで、メンタリティは一緒。

だから私は、内海課長はバドを育てたのだと思う。決して才能を生かしただけとか仕入れたとか、そういうものではない。ただ、価値観が普通の人と違う内海さんは
「自分がこうしたかった」
育ち方をバドに求めたのだと。それはある種の英才教育だし、英才教育ってのは偏ってるものだ。普通の人ならやりそうなことをしないで、普通の人がやらないことに時間を振り向けるのだから。

内海課長は趣味を全開にしている。事の善悪なんか趣味の前にはいかほどのものがあろう? いや、その趣味のせいで不幸になる人がいるというのであれば話は別だ。それは「利害」の「害」に相当する。世の中の善悪と言われているものの多くは利害とマップするし、ちゃんとマップしないものは「善だと思われているものが善ではなく、悪だと思われているものが悪ではない」のだ。利害で考えればそのような惑わされ方はしない。

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後藤隊長は判らない。

そもそも。あの人はなんで警察の「隊長」をやっているのかが判らない。
部下を育てるとかそういう観点そのものは判る。でも内海課長が言っているように、本質的に後藤隊長は「こちら側の人間」なのだ。「こちら側に来れば」圧倒的にその才能を生かせるし、収益も増える。育てるべき部下はどこにでもいる。別に警察にだけ才能が集結しているわけじゃない。

しかも、警察は(当人も言っているように)「守勢」の集団だ。なにか起こるのを待って出動する、手遅れからスタートする仕事だ。普通の企業のサポートなら、そもそも障害が起こる前に手を打つ、なんてことも考えられる(RAID6とか、Active/Standbyなどの考え方はそうやって出てきた訳で)。でも、警察はそういう手の打ち方はありえない。

  • 夜が暗いと強盗が出やすいからと言って、警察が街灯をつけたり管理することはできない。
  • 一定距離感覚で24時間営業のお店があると、痴漢に襲われそうな女性が逃げ込める、という理由で警察が24時間コンビニエンスストアーを運営することはできない。

後藤さんの感覚からすれば、絶対忸怩たる思いがどこかにあるはずだ。にもかかわらず、彼は自分の戦場を変えようとしない。で、挙句に安月給でハードワークをこなす羽目に陥っている。

その態度の根底にあるものは、明らかに利害を超えていなくちゃいけない。利己的な目的達成だけを考えるなら、どうあっても警察に居続けなくてはいけない、という結論に達するとは思えない。たとえそれが「正義の味方」だとしても、「正義の味方として最大のパフォーマンスを達成する」ために警察である必要性は、ない。

どう考えても趣味と言って良いレベルのものが背後にあって、彼は利害よりもそちらを優先している。大抵の場合、善悪と利害は合致する。極稀に発生するのは、「利だと思われているものが利ではなく、害だと思われているものが害ではない」のだ。善悪で考えればそのような惑わされ方はしない。そう信じているとしか思えない。

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ゆうきまさみ先生はこの二人を実に対称的に性格付している。お陰で内海課長を理解できると、後藤隊長もかなり理解できるのだが…どうしてもここで止まってしまう。

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研究とか開発とかにすえる上司は、内海課長タイプのほうが圧倒的に良い。ようするに「攻撃」型の活動には内海課長タイプが良いのだ。世の中の不便を粉砕するにせよ、世の中の悪を抹殺するにせよ、それが出来る人材を集め、モチベーションを与え、集中させ、最大の成果を引き出すことにかけて、内海課長は一流だ。ようするに他の全てを部下の視野から消すのが上手なのだ。政治的な取引とかそういう、開発とかにとって外乱でしかないようなものは、内海課長が全部引き受けてくれる。

守勢型の活動には後藤隊長タイプが良いのだろう。例えばサポートとか、障害対応とか、警備・警察。彼はあらゆる事態に備え、事態が本当に起こるまでは部下を適度にリラックスさせ、適度に緊張させる。外乱は後藤隊長によってコントロールされた上で部下に与えられる。これが緊張を生み、達成感を生み、その後のリラックスを生む。これらは、真の問題が発生するまでの訓練であり、同時にチューニングなのだ。

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とまぁ、ここまでは解っても。

自分的には内海課長タイプになりたいし、そうでありたい。
自分を鍛えあげて、いざという時に対処するのなんて真っ平御免だ。いざというときそのものを根こそぎ粉砕して、そもそもやってこようとすらできないようにする方が性にあっている。そもそも『「着想」が強みらしい』にも書いたように、私の強みは徹底して攻撃志向なのだ。

着想
適応性
自我
戦略性
指令性

こんな私が、後藤隊長のような腰を落ち着けた戦い方などできるわけもない。

障害対応においてすら、繰り返しを嫌い、少しづつでもいいからやるべき事をスクリプト化して、手を動かさなくても良くしようと考えるのに。常時監視して、データを収集し、正常時と異常時を統計的に区別して、故障の兆候を探す方法を考えようとして、全然データの蓄積がないことにショックを受けたり、それをどうにかしようとして喧嘩になったりするぐらいなのに。

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対称性から後藤隊長の戦略は解っても、なぜそんな風に生きられるのかはどうしても判らない。

だからパトレイバーは私にとってすごく面白い。

そして、それは多くのクリエイターの人たちにとってもそうなんじゃなかろうか、という気がする。劇場版であれ小説であれ、あれほどまでに後藤隊長にフォーカスが当たるのは…つまり内海課長を主役にしたサイドストーリーが乱立して主役を食ったりしないのは…結局、クリエイターの人たちもやはり攻撃型であり、内海課長の方が理解しやすく、それゆえに、後藤隊長の方が不思議で、魅力的な題材に見えるからなんじゃなかろうか、と。

この議論は、okky (2487)によって ログインユーザだけとして作成されたが、今となっては 新たにコメントを付けることはできません。
  • 他の場所でどれだけ「セイギノミカタ」できるのか考えてみればわかるよ。

    • 警察で「悪のふり」をするのと、民間でできる範囲の「正義の味方」、どちらがストレスが溜まらないんでしょうねぇ。あと、別に日本に拘る必要はないという条件を忘れていると思います。

      以上の事から、正義の味方をできる場所って結構あるとおもう。

      .

      私は「後藤隊長がそこにいる他にない」とは思わないのだけれど、「後藤隊長が『そこにいる他にない』と信じた」というのはその通りだと思います。なぜそう信じたのかって事ですね、結局。

      --
      fjの教祖様
      親コメント
      • 日本に拘る必要はないってのは違うと思います。
        後藤隊長の趣味はあくまで「正義が成されている状態を保持する事」であって、「自身が正義を成す事」ではありません。
        自身が正義を成すのであれば、それこそ内海課長と同様に海外だろうが企業だろうが裏社会だろうが何処でも可能ですが、後藤隊長はそうではありません。
        後藤隊長の趣味が満たされるには後藤隊長自身が「正義の成された結果」を正しく認識できる必要があり、それを外国で満たせるかと言うと無理じゃないかと。
        と言うか、後藤隊長の趣味が満たされた状態ってあの特車二課の緩い日常そのものじゃないかなぁ、と思うのですが。

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        • 後藤隊長の趣味が満たされるには後藤隊長自身が「正義の成された結果」を正しく認識できる必要があり、それを外国で満たせるかと言うと無理じゃないかと

          「無理だ」と思う理由はなぜ?

          少なくとも私の経験で言えば、日本であろうが外国であろうが、この辺りが「無理」だというほど世の中の正義は多様性はないし、一方でその微妙な差が問題になるほど世の中は正義で満ち溢れてはいません。ですので、「正義がなされた」事に関する認識の相違が問題になるほど、ギリギリの選択ばかりが続くような状態になるとは思えない。

          一方で。例えば言語とか風習に関して言えば…カミソリ後藤と言われるほどの人が、たかが外国語の一つや二つで困るとは思えない。見知らぬ地に行った場合の、現地や現場に溶け込むのに必要なレベルの言語習得に必要な時間は、普通の人でも6ヶ月程度ですので、後藤隊長クラスなら3ヶ月必要ないんじゃないかと。
          # 日本には「商社」という恐ろしい組織があってな、粗奴らが 1950年代後半から活躍してくれたお陰で、
          # この手の研究データは結構溜まっておるのじゃよ。

          最後に、インターポールとかいくらでも受け皿はありそうだ。

          .

          こう考えると、「無理じゃない」と思えるんですよね。

          --
          fjの教祖様
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          • 「無理だ」と思う理由はとりもなおさず、後藤隊長が「日本の警察官だから」としか言いようがありません。ここら辺、説明が難しいのですが。

            彼は警察組織内にそれなりの人脈があり、裏を返せば知り合いが一定数居る訳です。
            本編中でも「みんなで幸せになろうよ」と言っていたり部下のフォローを意外ときめ細かく行っている事から推察する限り、彼の趣味の対象には「みんな」が含まれており、その「みんな」と関係のない場所での活動が彼の趣味と合致するかと言えば、合致しない気がします。インターポールが具体的にどの様な活動を行っているか詳しく知らないため、もしかしたらインターポールであれば目的を果たせるのかも知れませんが。
            最初から後藤隊長が国際的な視野での活動を行っていたのなら、外国での活動も全く問題無かったと思いますが、彼はそれなりの年数を警察官として奉職しており、良くも悪くも「日本の警察官」としてのルーツが出来ています。それを切り離した活動が彼の趣味を満たせるかと言えば、無理じゃないかなぁ、と言うのが私の考えです。

            親コメント
      • 後藤隊長がどこに居たいか(「居なければならないか」ではなく)は、正義感や趣味だけで決まるものではないと思います。
        映画(特にパト2)で色濃く演出されていますが、後藤隊長もおやっさんも、「(イタリア的な文脈での)ファミリー」を強く意識させる部分があります。人のネットワークが強い部分も含めて、後藤隊長は「人の間にいるモノ」として描かれているのではないでしょうか。

        内海さんは、あくまで「機能を愛するモノ(の中に垣間見える『人間』像も含む)」として描かれているように思います。バドへの態度もそうですが、熊耳さんに対する屈折した感情も。

        # ああ、我慢してたのに読み返したくなってきた‥‥‥。愛蔵版大人買いしてしまおうか。

        親コメント
        • 人のネットワークが強い部分も含めて、後藤隊長は「人の間にいるモノ」として描かれているのではないでしょうか。

          それはその通りですが、一方において彼は 左遷 されているわけですよ。

          この場合の左遷というのは「それまでの人間と、仕事の上でのコミュニケーションがしにくい状態を作るために、今までの仕事場から遠く離れた場所に、全く違う種類の業務に、追いやられること」です。だって切れるんだもの、後藤さん。そのままの影響力を駆使されると困るんですよ、偉い人達は。だから、影響力を断つ必要があった。
          つまり、彼は特車二課にはほとんどネットワークを持っていなかった。一から作り直しているわけです。

          パトレイバーのストーリーが終わったあとに、後藤隊長に動けと言われたら動かないだろう、というのはおっしゃる通りで、説明がつきます。特車二課第二小隊は彼が作った、彼のホームグラウンドです。

          でも、パトレイバーのストーリーの前に彼があそこにいることを選んだ理由はなにか? という説明にはなっていないんですね、その着眼点は。

          --
          fjの教祖様
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      • いろいろなところで起こったツケの「最後の防波堤」となりうるから、なのかなとも感じます。

        その意味で完璧だった幌場の犯罪を未然に防いだ後藤隊長ってのは、エクセレントな作品だと思います。
        親コメント
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「科学者は100%安全だと保証できないものは動かしてはならない」、科学者「えっ」、プログラマ「えっ」

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