phasonの日記: 濡れ性を透過するグラフェンコーティング 2
"Wetting transparency of graphene"
J. Rafiee et al., Nature Mater., in press (2012).
グラフェンはその薄さゆえに透明性が高く,その一方で薄い割には高伝導性であるため様々な素材への透明電極としてのコーティングが検討されている.コーティングとして使うと言うことは基材とは異なる表面特性が出てくるわけで,そこに注目した研究も多い.今回の論文の著者らは,「表面にグラフェンをコーティングしたら,どの程度疎水性になるのだろう?」という疑問を持ち研究を行った(グラフェンが無限層積み重なったグラファイトは疎水性である).そうすると思わぬ結果が出た,というのが今回の報告である.
実験は単純で,単層のグラフェンを作り,それをSi(親水性),ガラス(親水性),Cu(疎水性),金(疎水性)の基板の上にのせ水滴を滴下,接触角を測定する,というものである.
(接触角は水滴の外縁部と基板の成す角であり,親水性基板のように水滴が薄く広がるような状況では接触角はほぼゼロ,水が完璧に弾かれて球形の水滴になるような理想的な疎水性の場合は180度になる)
その結果であるが,例えば無コートSiでは32.6度だった接触角が1層コートでは33.2度,同じく77.4度だった金では78.8度,85.9度だった銅は86.2度,20.2度だったガラスは48.1度になっている.つまり,ガラスの場合はそこそこ増加しているが,それ以外ではグラフェンコートの有無にかかわらずほとんど同じ値になっており,まるで親水性/疎水性がグラフェン層をすり抜けて上の水に到達しているかのようであった.著者らはこれをwetting transparency(濡れ性透過)と呼んでいる.
この挙動をもう少し詳しく調べるために,Cuおよびガラスに関しては乗せる層数を1から10層までの間で変化させ,その際の挙動を追跡している.その結果,Cuの場合は3層あたりまではほぼCu単体の表面と同じ程度の接触角であったのが,4層あたりから急増し,6-9層あたりでほぼ飽和値の90度前後に落ち着く.ガラスの場合は,前述の通り単層乗せるだけで48度ぐらいになり,1-2層で54度と微増,それ以上の領域でほぼ90度に落ち着く.つまり,グラフェンの層数が2-3層ぐらいまでは基板の濡れ性が透過し,それ以上ではグラファイト的な疎水性が表に現れる,という事のようだ.
親水性/疎水性の効果は,(一部の水素結合のような水と結合を作る表面を除き)基板と水分子とのファンデルワールス力によって決まってくる.確かに考えてみれば,ファンデルワールス力は双極子や表面の分極による電磁気的な相互作用であるから多少は遠くまで及ぶ事が出来る.従ってグラフェンのように非常に薄いコーティングであれば,コーティング層を透過して基板と上に乗った水分子との相互作用がほとんど変わらない,というのはあり得る話である.
(そういう意味では,水素結合も起こるガラス表面では単層グラフェンを乗せただけである程度の変化が起こることも頷ける)
一応著者らの主張として,「銅はヒートシンクなどの放熱材料としてよく使われるが,表面が錆びやすくそうすると熱抵抗が高くなる.グラフェンで表面をコートすると酸化は防げるが,濡れ性が変わると放熱特性が変わる可能性があった.今回の実験から,1-3層程度のコーティングなら表面の濡れ特性をほとんど変えずに酸化を防止できると考えられる」的なことも書いてあるが…….
ヒートパイプ内部とかならともかく,少なくとも外気にさらしっぱなしのヒートシンクなどではそんなに濡れ性による熱輸送特性の差は無いような気がするのだが,どうなのだろうか?
外気に・・・ (スコア:1)
外気にさらすと結露しちゃうんで、表面が腐食するとか。
#永遠に熱を放出してれば結露しない?
Re:外気に・・・ (スコア:1)
そういう腐食対策にグラフェンでコーティング,ってところまでは分かるんですが,「グラフェンがのっかることで親水性/疎水性が変わると冷却効率に変化がある(かも)」って言うところが良く理解できないんですよね.
空気中の水分子が表面にくっつくかくっつかないかでそんなに冷却効率が変わるとも思えないですし……
上のような主張の後にreferenceが二つ貼り付けてあるんですが,それらの論文を読んでもあまり関係してそうなことは書いて無くて,いまいち謎です.