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日記

phasonの日記: 視覚トリックを駆使するオオニワシドリ

日記 by phason

"Illusions Promote Mating Success in Great Bowerbirds"
L.A. Kelley and J.A. Endler, Science, 335, 335-338 (2012).

オーストラリアとニュージーランドにのみ生息するBowerbird(ニワシドリ:庭師鳥)という鳥がいる.彼らは繁殖期に非常に立派な構造物を作ったり,他の鳥類の鳴き声(最近ではチェーンソーやらクラクションやらといった人工音も)の模倣を行ったり,様々な飾り付けでメスの気を惹くと言った興味深い繁殖行動をとることから,性淘汰のモデル系として数多くの研究が行われている.

そんなニワシドリ類の大部分は,繁殖期になるとその名前の由来ともなったbowerと呼ばれる構造物を作る.どのようなものかというと,枯れ枝を集めて作った左右の壁からなる細道の先にちょっとした広場があるような構造であり,その広場部分には様々なカラフルな飾り付けを行ったり,雄が求愛のダンスを踊ったりする.実際の構造は例えば
http://www.nhk.or.jp/darwin/program/program133.html

の写真のようなものだ.なお勘違いされることもあるが,これは巣ではなくあくまでも求愛のためだけの場所である.まあ見合い会場のようなものだ.広場部分でアピールをしている雄を雌が小道の向こう側から観察し,お眼鏡にかなえばカップル成立,改めて別の場所に巣を作りそこで子育てを行う.
さてこのbowerの広場部分,床面には拾ってきた様々なサイズの石を敷き詰めてあるのだが,敷いてある石のサイズが入り口側から徐々に大きくなることが知られている.上のNHKのサイトの写真で言えば左から2番目,上から2列目の写真がそれに当たる(奥側が入り口).
今回の論文で報告されているのは,この「手前が小さく奥が大きい」というサイズ傾斜を持った石の配置がどのような効果を持っているのか?という研究である.

著者らはオオニワシドリの多数のbowerを調べ,そこでのサイズ傾斜と成婚率(という訳で良いのかな……)との関連を調べた.その結果,メスが入り口から見た時の横方向のサイズ(水平方向のサイズ)に関してはそれほど大きくは影響しないが,縦方向のサイズ,つまり見た時の奥行き&高さ方向の合わさったものに関しては,サイズ傾斜が大きいほど成婚率が高い,という相関が見られた.やはり,奥に大きな石を敷き詰めた方が成婚率が高いわけだ.
またより詳しく調べるために「見た目のサイズのばらつき」も比較している.遠近法からわかる通り,同じサイズのものを並べれば当然手前にあるものほど大きく見える.一方,奥に大きな石を,手前に小さな石を配置すると,この距離による見え方の差が部分的にキャンセルされ,(うまく配置すれば)近くの石も遠くの石も見かけのサイズが同じにすることも出来る.その「見た目の均一」からのズレ(標準偏差)を算出して比較したわけだ.その結果,縦方向に関しては非常に強い相関が見出され,「見かけの石のサイズ」が均一であればあるほど成婚率が顕著に高くなる,という事が明らかにされた.一方横方向のサイズに関しては,ばらつきが大きい方が成婚率は高いようである.好まれるのが実際にどういう見た目か,というのは,Supporting Online MaterialsのMovie2などを見ていただきたい.例として出されているのは一番上が実際にニワシドリが構築する奥が大きな石のパターン,真ん中が同じサイズの石を並べた場合,下段が実際とは逆に並べた場合の見え方だ.

さて,では何故このような配置が好まれるのだろうか?我々はニワシドリではないので実際のところはわからないものの,著者らは7つの可能性を挙げている.

1. 「いかに均一に見える石の配置を作成できるか?」が雄選びの基準になっている(なぜそういう基準が生まれたのかは置いておく).

2. 雌の気を惹くためのディスプレイオブジェクト(ニワシドリ類が配置する,カラフルな飾り)が目立つようになる.均一な背景は,手前の見せたいオブジェクトを邪魔しない背景となるため.

3. 建築物の奥行きを実際よりも広く見せるために通路の奥を狭くする手法があるが(これにより,実際よりも奥行きがあるように見える),その逆である.奥側に大きな石を配置すると奥行きが狭く見え,bowerの奥の広場が実際よりも狭く感じられる.これは逆にそこに置かれたディスプレイオブジェクトを大きく見せるため,その効果が上がる.

4. 手前に小さな石を置いた方が,ディスプレイオブジェクトを相対的に大きく見せる事が出来る(見せたいものを小さな物体の中に置くとより大きく見えるエビングハウス錯視).

5. 雌がbowerの小道を通りディスプレイオブジェクトに近づく際の視点変化を考えると,最初は水平に近い視線であるから奥の大きな石が背景にあったのに,近づくと見下ろすような位置関係=背景が小さな石に切り替わることになり,相対的なディスプレイオブジェクトの見た目のサイズ変化が加速される.これがディスプレイオブジェクトをいっそう目立たせる.

6. 雌が小道を通ってくる際,視点の移動による運動視差により奥行きに関する正しい情報を得ることが出来る.ところが一方,石のサイズから脳が推定する奥行き(立体感)は,奥ほど大きな石が置かれているという配置により実際よりも奥行きが短縮されている情報である.このため雌が近づいてくる際には両方の情報に齟齬が生じ,興味を惹く役に立つ.
(人間が妙な錯視を見てなんだかもやもやするのと似たようなものだろうか?)

7. 同様に,運動視差により得られるディスプレイオブジェクトの実際のサイズに関する情報と,周囲との比較により得られる情報の齟齬が興味を惹く役に立っている.

進化により生み出された奇妙な行動というのはなかなか面白いものである.

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アレゲはアレゲ以上のなにものでもなさげ -- アレゲ研究家

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