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生物の複雑さは分子進化学で還元可能 9

ストーリー by yosuke
IDはいらない 部門より
本家記事より。オレゴン大のJoseph Thorntonらは、生物の複雑な分子システムの進化を自然選択で充分に説明できるとする実験結果を発表した(オレゴン大のニュース・リリース)。この結果は、論文はScienceの4/7号に掲載されている。
研究者らは、ホルモンの1種であるアルドステロンとそのレセプターに着目。分子進化学の手法を使い、4億5千万年前の祖先レセプターをよみがえらせた。そのレセプターは、実際にその時代からあるホルモンと結合することができるものであった。それだけでなく、進化によってアルドステロンが出現するよりはるか前の時代のレセプターであるにもかかわらず、アルドステロンによっても活性化することもわかった。しかも、このレセプターから現代のレセプターまでは、たった2回のアミノ酸の変異によって到達することができるとのこと。
これは、ホルモンとレセプターの様に密接な関係をもつものが、古くからある分子の類似の機能を利用することによって、共に進化することができた証拠といえる。つまり、分子レベルでは一見複雑で還元不可能にみえる生物のしくみも、現在の進化論の枠組で充分に説明可能であることになる。
なお、Scienceの同じ号に掲載されているKeck Graduate Institute of Applied Life SciencesのChristoph Adamiによる"Reducible Complexity"と題するコメントや、サイエンスライターのCarl Zimmerのブログの記事も参考になる。
この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • 補足 (スコア:5, 参考になる)

    by Anonymous Coward on 2006年04月11日 7時48分 (#918726)
    たれ込みの文章は簡潔でポイントも押さえてありますが、ちょっと端折りすぎかも。

    実のところアンドステロンのレセプター(MR)とコルチゾールのレセプター(GR)の話です。

    • 陸生脊椎動物のMRにはアンドステロンに応答し、
    • 魚類MRはDOCというアンドステロンに似たコルチコイドホルモンに応答します。
    • 魚類にはアンドステロンはありません。
    • MRはコルチゾールにも結合しますが、腎臓ではコルチゾールが分解されてしまうのであまり意味はないようです。
    • GRはコルチゾールに結合し、応答するホルモンです。アンドステロンには応答しません。

    GRとMRは450My前にさかのぼる共通の祖先レセプターをもち、それを再現してみるとアンドステロン、DOC、コルチコイドのいずれにも結合できた、というのがまず一つめの発見。脊椎動物の祖先においてこの祖先レセプターはもともとDOCに応答するホルモンとして働いていて、アンドステロンへの結合能はなくても良かったけど、アンドステロンが現れてアンドステロンのレセプターとして働くようになった、というMR進化のストーリーじゃないでしょうか。

    >しかも、このレセプターから現代のレセプターまでは、たった2回のアミノ酸の変異によって到達することができるとのこと。

    に関してはGRがなぜアンドステロン結合能を失ったか、について。
    二つの変異(L111QとS106P)が起きることで( アンドステロンにもコルチゾールにも結合する能力をもった)祖先系レセプターから(アンドステロンに応答しない、つーか、してもらったら困る)GRに変化するそうです。

    (S111Qが先に起きると、その時点で一旦リガンド結合能が失われてしまうのに対しS106P->S111Qの順で変異が起きるとDOC応答能を保ったままGRに変身できちゃうとのこと。だからS10Pが先に起きたんだ、という主張もあるようですが、これらの変異が起きる前に、遺伝子重複が起きているはずで、その一方に変異が起きることになるので、変異の順番は問題にならないように思います。)

    あと、タイトルの「還元」は「単純化」のほうが意味が通りやすいと思います。Scienceの解説のタイトルに従えば、複雑性をreducible(減少させられる)ってことで。まあ、生物の複雑性は意外に単純なメカニズムで獲得できるのよ、ってことでしょう。

    リガンドとレセプターの組み合わせはどちらかが先に登場してなければならないはずで、卵とニワトリの関係にも見えます。(そこにID論者に付け入っちゃう訳ですけど) そのジレンマがどのように解決できるのか、分子レベルできれいに説明しています。

    解説を読んだだけなので、間違いがあったらご指摘よろしく

    #IDはいらないそうなのでACで (違う)
    • Re:補足 (スコア:4, 参考になる)

      一応元論文読みましたのでコメントなど。

      タレ込みでも前提とされていて書かれていないようなので少しだけ背景から.
      反Darwinistがよく使う議論として「レセプターとリガンド,両方が同時に発生しな
      いと機能しないから漸進的進化はありえない」というものがあります.
      これまでにもandrogenレセプターとprogestinレセプターの例があり,Darwinist
      側からも反論はされていました.

      これらの例ではestrogenレセプター合成の中間物としてリガンドが存在しており、こ
      れらに対応するレセプターが後にestrogenレセプターから派生して新しいリガンドー
      レセプター関係が構築されました.

      今回の例はレセプターの方が先に進化して新たな関係を構築した例になります.
      つまりリガンドが先にあってレセプターが進化することも,レセプターが進化してリ
      ガンドが対応する場合も,どちらの漸進的進化もあるということです.

      「卵とニワトリ」の例でいうならば,creationistは「超越的存在によって同時に」
      と主張しているわけですが,Darwinistは自然の観察によって「卵からのときもある
      しニワトリからのときもある.これこれの証拠によって」,と示してみたわけです.

      >その一方に変異が起きることになるので、変異の順番は問題にならない

      S106P->L11Qの変異の順番というのはこの論文の発見の一つですね.
      順番は関係ないとのことですが,必ずしもそうではないと思います.
      L111Qが先に起きると生物学的に意味のない遺伝子になってしまうので偽遺伝子にで
      もなって現在まで残らないことも考えられます.そのため中間形態でも機能を有して
      いるということが意味のあることだと思います.

      >あと、タイトルの「還元」は「単純化」のほうが意味が通りやすいと思います。

      これはむしろID派がDarwinistを攻撃するときに使うreductionistという言葉に対応
      しているのでreductionを連想させる「還元」の方がよいかと.

      論文の中で面白いのはS106PとL111Qの両方が起きたのは硬骨魚類と四肢動物が分岐する
      前なのに対して硬骨魚類は無顎類(ヌタウナギなど)や軟骨魚類(サメなど)と同じく
      aldosteroneを持っていない(合成酵素がない)ことですね.
      特に祖先と機能が違わない変異タンパク質が1千万年以上も新しいリガンドのために待っ
      ていたのでしょうか.その間捨て去られなかった理由も興味深いです.
      --
      kaho
      親コメント
      • by Anonymous Coward
        進化では説明できないなんて言われてる複雑な自然も、共進化できれいに説明できることがある。
        そのぐらい興味深い概念なのに、一般大衆にあまり浸透していない概念なので寂しい。
        私が共進化を最初に知ったときは、目からウロコでした。

        例を出すと、ランの花びらの複雑な模様と、アゲハチョウの複雑な模様が実にピッタリ一致
        していて、蝶が花に止まると完全な保護色になり全く見分けられない、という自然界の驚異がある。

        では花と蝶は、どのように進化してこのようになったか?初めに花が現在のように複雑で、
        それに合わせるように蝶の単純な模様が進化したか?否。花びらがもし初めからこんなに複雑
        • 私のコメントの下につけられているのでちょっとだけ.

          >例えば、ヒトの女性は胸が大きいというのも、大きな胸の女性の遺伝子と、大きな胸を好む男性
          >の感覚が共進化したと見ることができると思います。どちらか一方だけだったらこの進化は起こらなかった
          >はずですから。

          このような表現はできるだけ避けるべきだと思います.
          種レベルの進化と文化的な変遷は全く科学的な文脈が違いますので.
          都合の悪いことに巨乳女性は出産可能性が高い [nih.gov](から男性が巨乳を好むのには生物としての理由がある)という論文もあって,否定することもできないのですが・・・

          それでも同程度の栄養状態にある女性の胸が歴史的に遺伝子の変化を伴って大きくなったという証拠はないはずですし,日本もかつては豊胸の女性を忌避する傾向にもあったのですから,文化や政治に(疑似)生物学的な説明を持ち込むのは慎重にすべきだと思います.
          --
          kaho
          親コメント
  • 進化論者、必死だな (スコア:3, おもしろおかしい)

    by Anonymous Coward on 2006年04月11日 7時26分 (#918720)
    アメリカでは進化論を学校で教えるな、みたいなキリスト教狂信者が最近
    勢力があるみたいだから(大統領もその一員)、
    対抗して科学者の方も進化論支持に必死になってるみたい。

    数日前も
    http://www.asahi.com/international/update/0406/001.html
    魚と両生類のミッシング・リンクが発見されたと大きくニュースになったけど、
    こんなの現在の肺魚とどこが違うの?という感じ。

    アメリカ人庶民が進化して科学的になるのは何年かかることやら。
  • by guchis (27687) on 2006年04月11日 22時17分 (#919385) 日記
    素人質問なんですが、 # 他力本願ですいません

    >分子進化学の手法を使い、4億5千万年前の祖先レセプターをよみがえらせた。

    こんなことできるんですか? (確かめる術があるんですか?)

    • Re:進化の実験? (スコア:1, 参考になる)

      by Anonymous Coward on 2006年04月12日 6時15分 (#919569)
      以下、個人的な理解。

      例えば、ゴリラとヒトのヘモグロビンを比較することを考えます。この2種のヘモグロビンは、アミノ酸が一つ置き換わっただけです。この2種の共通祖先は、どちらかのヘモグロビンを生成できるDNAを持っていたことがわかります。このとき、ゴリラのヘモグロビンからアミノ酸が一つだけ違うものを持つ種は存在して、ヒトとアミノ酸が一つだけ違うものが存在しないなら、この2種の共通祖先は、ゴリラと同じヘモグロビンを持っていたことになります。さらに、いろいろな種のヘモグロビンの相違とこれまでの古生物学的な知識を兼ね合わせると、アミノ酸置換のスピードがほぼ一定であることもわかるので、ゴリラとヒトのヘモグロビンの突然変異がいつごろ起きたのかもわかります。

      これをどんどんと近隣の種に拡げていきます。もちろん、いままでに存在した全ての種のDNAが現存しているわけではないので、あるところからはアミノ酸一つの置換ではなく、二つ、三つの置換が必要になってくることでしょう。しかし、データは大量にあるので、これらを統計的に確からしい形で間に別のDNAを挿んでつないでいくことが可能です。そのとき、これらの2種をつなぐ根となるDNAの形は、2種のものとは異なった形になります。これが、それらの共通祖先の持っていたDNAとなります。その共通祖先からの分岐がいつ起こったかも同様にしてわかります。

      この過程は、複数の共通祖先をつなぐ形で、さらに過去に遡っていくことができます。これによって、祖先のDNAをよみがえらせるわけです。

      定性的にはこんな感じの理解でいいと思います。定量的には、専門家じゃないし確かめたこともないので、”それを統計的に確からしいと言えるだけのデータ量があるんだなぁ”としか言いようがありません。まあ、確かめたいと思う人がいれば、それをするだけのデータは提供されます。手法は論文等で公開されてますしね。
      親コメント
  • by Anonymous Coward on 2006年04月11日 21時58分 (#919373)
    全くの素人考えですが、

    こういうことが実際に起きていることをかんがえると、そのうち、生物の進化(の極初期のものだけ)がコンピュータシミュレーションできるようになったりするんですかね。
    地球シミュレータで、遺伝子シミュレーションとかやってみるとおもしろいのかも。
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目玉の数さえ十分あれば、どんなバグも深刻ではない -- Eric Raymond

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