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認知神経心理学に多大に貢献した「HM」、82歳で死去 36

ストーリー by reo
H.M.のM.はMnemonicのM.……ではなかった 部門より

capra 曰く、

記憶の研究に多大に貢献した記憶障害患者「H.M.」こと Henry Gustav Molaison 氏が今月 2 日、82 歳で人生の幕を閉じた(本家記事, NYTimes.com の記事)。
Molaison 氏はてんかんの治療として 27 歳に脳外科手術を受けてから重度の前向性健忘症となり、記憶を形成することができなくなってしまった。その後 55 年間、記憶障害患者「H.M.」として多くの研究に参加 (プライバシーに配慮され、本名ではなくイニシャルで呼ばれた)。記憶や学習、アイデンティティ形成や身体的器用さなどの解明に大きく貢献してきた。Molaison 氏は記憶障害を負った後も新しい運動スキルを習得することが出来、ハノイの塔を見たことがない (覚えていない) としながらも、この課題の解を学習し、ものの名前や顔、出来事などを記憶する陳述記憶と、運動スキル学習で使われる脳の仕組みの違いに関しても多くの発見をもたらしたという。
生きている間は多くの研究に引っ張りだこだったという Molaison 氏だが、死後も脳の精密な MRI スキャンが行われ、また今後の研究のため脳は保存されることになったそうだ。

こういった匿名で知られる患者の存在自体知らなかったのだが、K.C.氏という前向性健忘症の患者もいるようだ。

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  • by s02222 (20350) on 2008年12月09日 0時29分 (#1469822)
    バグから内部仕様が透かし見えるってのは、システム観察の基本なんですね。 ゲームやらを触っててバグを発見すると、そこからどういう風に設計されてるのかがちらっと分かったりとか。
    • by simon (1336) on 2008年12月09日 2時34分 (#1469857)
      >バグから内部仕様が透かし見えるってのは、システム観察の基本なんですね。

      動いているシステムの内部仕様を直接見てみる、という観察法もあります。
      1822年、カナダの猟師マーティン・アレックスは仕事仲間の流れ弾を腹に受けてしまい、縫合しても胴体に胃へと開いた穴が開いたままの状態になったのですが、これ幸いとウィリアム・ボーモント医師はその穴から消化途中の食物の様子を観察したり、胃液を取って成分を調べたり、気候や体調と消化の関係を調べたり、消化という未知のメカニズムにとても大きな数々の発見をしました。(アレックスはこの実験を相当嫌がっていたそうですが、それでもボーモント医師は「機嫌と消化作用の関連について」とかいう研究のネタにしたとか)

      またバグ由来の仕様観察といえば1951年に子宮ガンで亡くなったアメリカ人女性ヘンリエッタ・ラックスの細胞の例も挙げられるでしょう。
      それまで人類は実験室で人間由来の細胞を数週間以上培養することができませんでしたが、彼女のガン細胞を培養してみたところそれに初めて成功しました。HeLa細胞はきわめて活発に増殖する細胞で、その細胞は50年以上たった今でも世界中で培養されています。
      http://ja.wikipedia.org/wiki/HeLa%E7%B4%B0%E8%83%9E [wikipedia.org]

      とまあ、そのような偉業(まあ本人は嬉しいかどうかわかりませんが)の中の一人としてH.M.氏の名は医学史上に永遠に記され続けることになるでしょう。
      その貢献に敬意を表しつつ、どうか故人の魂の平安ならんことを。
      親コメント
  • by hokuto (16888) on 2008年12月09日 4時45分 (#1469875) ホームページ
    HM氏の科学への貢献の大きさに疑う余地は無いように見えますし、個人的に彼を賞賛し、また謝意を表することもやぶさかではありません。
    しかし、こういった事例を聞き及ぶたびに、思わずにはいられないことがあります。
    医学薬学といった、人間の内側を取り扱う学問にとって、倫理とはかくも巨大な足枷かな、と。

    極論すれば、HM氏と同じ症例を100人量産すれば、100倍とまではいかなくとも、いくらかは認知心理学の発展も促進されたでしょう。
    当時の医学水準では止むを得なかったとはいえ、当のHM氏自身も、そのようにして「作られた」症例であるのですから。
    けれど、そのような行為は、今や社会的に決して許容されはしないでしょう。
    そのような形で、倫理が形成されているからです。

    もちろん、僕は倫理を否定するわけではありません。
    莫大な金銭や資材を投じて巨大実験施設を建てまくることができないのは、得られるメリットに対してかかるコストが膨大だと、多くの人が判断したからです。
    倫理も同様に、ある種の社会的コストを決定する一要素として、多くの人に共有される認識です。
    その辺の人を捕まえて、脳みそを切り取って経過を観察しよう、という試みが多数の支持を受けないのは、
    そのような行為を認める倫理が、多くの人にとって過大なコストを強いるからです。
    まあ、大概の人は、ちょっとくらい認知神経心理学が発展するからといって、自分の脳みそが切り取られるかもしれないリスクは取らないでしょう。
    そういう意味では、僕もそのような多数の内の一人です。

    ですが、あくまでそれは天秤のバランスの上に成り立った境界線です。
    いつかバランスに変化が起これば、その境目の位置も変わります。
    誰かの脳みそを切り取ることが、さしたる批難も受けず気軽に行なえるような時代がくるかもしれないのです。
    そんな時代に生きる人々は、僕らのことをどう思うのでしょうか。
    たかだか100年前まで、欧州の最もリベラルな知識人ですら、有色人種を劣等人種と呼んでいたのと同様に。
    今の僕らも、人の脳みそを勝手に切っちゃいけないよ、と言っているのかもしれません。

    倫理とは、大勢の人々を縛るための、縛られる人々自身によって作られた、巨大な足枷です。
    しかし、その足枷には、人々をどこかに繋ぎとめるための鎖が嵌められていないように、僕には見えるのです。
    • Re:倫理という足枷 (スコア:2, すばらしい洞察)

      by Anonymous Coward on 2008年12月09日 8時20分 (#1469892)
      けっきょく、研究を進めるのは何のためなのか、ということじゃないですか?
      その目的自身を損なうようなやりかたで研究を進めても、意味がないですよね。

      たとえば地球環境を徹底的に破壊してみれば、人類がどれくらいの環境にまで
      適応できるかというデータが得られ、そういう意味では研究は進みます。
      でも、そうやって人類が滅びてしまえば、意味がないですよね。

      上記の例は極論ですが、心理学や医学は、個々の人々の幸福のためにある
      わけですから、たとえひとりであれ、ひとを故意に不幸にして、あるいは
      ひとの一生すべてを犠牲にして、実験データを得ることは目的に反するでしょう。
      その「ひとり」に、自分がなっていたかもしれないのですし。

      ところで、こういうところに相対主義を持ち出すのはどうかと思いますよ?
      今まであたりまえだと思われていたけれども特に根拠がないことについて、
      相対主義を持ち出すのならともかく、根拠があることについて疑いたい場合
      には、まずはその根拠について議論すべきではないでしょうか。
      親コメント
    • by mishima (737) on 2008年12月09日 9時09分 (#1469907) ホームページ 日記

      倫理とは、大勢の人々を縛るための、縛られる人々自身によって作られた、巨大な足枷です。
      しかし、その足枷には、人々をどこかに繋ぎとめるための鎖が嵌められていないように、僕には見えるのです。

      hokuto さんはは倫理を社会の中で位置づけようとしているように見えます。
      であれば、例えばルーマンの社会システム論の枠組みなどが思考のために有用なのではないでしょうか。
      社会システム論であれば、足かせの鎖はオートポイエーシス、別の見方をすれば持続可能性、という概念になるでしょう。
      それから例えば、倫理は「相手と自分の置換可能性に対する合意」をメディアとして流通させるサブシステムだ、と言えるのではないですかねwww

      # 思考を深めるためのポインタは示してみたつもりですよw
      --
      # mishimaは本田透先生を熱烈に応援しています
      親コメント
      • by Anonymous Coward
        >ルーマンの社会システム論

        アレを最後まで読んだ人って日本に何人くらい居るんだろうなぁ…
        大学で課題の一つとして出たけど、レポート出したのは
        結局自分と他二人だけだった。

        読むなら、気合を入れてかかりましょう。
    • by isi (4853) on 2008年12月09日 11時06分 (#1469950) 日記
      ヘルシンキ宣言 [wikipedia.org]
      かつて合法的に人々を切り刻んだ人々がいて、いまの倫理の形が形成されました。

      私も正直なところ、ある種の事件を防ぐためには犯人に対する大脳生理学的なアプローチが必要かもしれないと思うことがあります。
      しかし、今日に生きる私たちは今日の倫理に従うしかないし、その倫理は、まだまだ古びてなどいないようですね…
      親コメント
    • by NOBAX (21937) on 2008年12月09日 9時34分 (#1469915)
      それで戦争がおこると医学は発達するわけです。
      親コメント
    • Re:倫理という足枷 (スコア:1, すばらしい洞察)

      by Anonymous Coward on 2008年12月09日 10時30分 (#1469933)
      そりゃま、言いたい放題だよね。
      自分には、絶対に累は及ばない、と前提を置けば。
      親コメント
    • by Anonymous Coward
      言っていることがよく判らないが、まとめると、
      「倫理というのは流動的なものであって、自縄自縛に過ぎない」
      ということ?

      「だから、倫理の壁を破るべきだ」と続けたいのかそうでないのか、
      続きの意見が書いてないのが(消化不良的に)気持ち悪い。
      そこまで書いたなら最後まで書けばいいのに。
    • by Anonymous Coward
      なんかややこしいこと言ってますが「その辺の人を捕まえて、脳みそを切り取っ」たら
      倫理以前に傷害罪ですよ

      お金を見返りに、という人が現れたら倫理の問題になるでしょうけど
      ところでこの「記憶を形成できない」HM氏は研究に同意してたんですかね?
      社会生活が営めないから隔離して、ついでに実験材料にしたんならそれこそ倫理的に・・・
    • 何が言いたいのか、さっぱりわかりません。
      倫理によって研究内容が縛られるなんてのは当たり前の話で、今更目新しくもそれ自体が何の見解になることもありません。昨今では人間どころかアカゲザルやラット・マウスの取り扱いも大変になってるのですから。
      で、さらにそれを前提として何が言いたいかがさっぱりわかりません。
      「今の倫理は間違ってる」と言いたいのかなんなのか、何の問題提起にもなっておらず、批判を恐れてか具体的な記述を避けもってまわったような言い回しをし、内容のわけのわからなさに拍車をかけてます。
      今は違うけどそっち(脳神経系)の研究をやってた者として、何らかの見解や意見が見えるのならともかく、倫理との直面を含め研究の大変さをわかったふうな顔をして言葉遊びする態度は正直癇に障ります。
      • 要するに「HM氏の不幸によって得た成果を享受しているのが後ろめたい」というだけのことでは。

        「未熟」ってこういうことを言うんだな、と私に言われるとは大したものかも知れません。

        • by Anonymous Coward
          平たくいうと、食ってる肉の元の動物に後ろめたさを感じてるのと同根か。
    • by Anonymous Coward
      「僕」という単語が多く登場するので自分の立ち位置を確認しているのでしょうが
      話が発散してよく分からなくなっています。
      まずは、「僕」の中でまとめてみてはいかがでしょう。

      人間の尊厳が物理的なコストと並んで
      大きなコストになっている、ということを言っている様に思いますが、
      そのコストが、物理的なコストと同種だと言っているのか異種であると
      言っているのかちょっとよく分からないです。
    • by Anonymous Coward
      そんなご時世もあって、人間の臓器を完璧にシミュレートできれば、あんなこともこんなことも思いのままに実験が…と考えている人たちがいます。臓器とはいかなくてもまず、一細胞を完璧にシミュレートしてそれを積み上げて…という道筋のようです。
    • by Anonymous Coward
      うんうん、わかった。

      この文章を作ったスクリプトを見せてくれ。
  • 腎臓とか肺とかは1:1冗長が取られてるのに、脳やら心臓やらのクリティカルな部分が非冗長なのは不思議。
    神様だかスパゲティの化け物だか知らんけど、結構粗忽者だよね…
  • by Anonymous Coward on 2008年12月09日 0時55分 (#1469837)
    同級生がエロゲの声優をやってたショックより酷い物はある?
  • by Anonymous Coward on 2008年12月09日 2時02分 (#1469854)
    スラドJでよく見かけるA.C.とかいう匿名の患者はどういう種類の記憶障害なんでしょうかね?
  • by Anonymous Coward on 2008年12月09日 8時58分 (#1469902)
    > 「H.M.」こと Henry Gustav Molaison 氏

    誰がプライバシーに配慮してるって?
    • by Anonymous Coward
      hint:死人に口なし

      #犯罪被害者の報道とかヒドイよなぁ
      • by Anonymous Coward on 2008年12月09日 17時54分 (#1470199)
        氏名公開に対する家族の意向とかはどうなんでしょうね?

        #他枝にありましたが、被験者となることもおそらく家族の意向が反映されているでしょうけど
        親コメント
      • by Anonymous Coward
        死人に人権はないんだ。納得はいかないけどね。
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「科学者は100%安全だと保証できないものは動かしてはならない」、科学者「えっ」、プログラマ「えっ」

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