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長期的な見通しやビジョンはあえて持たないようにしてる -- Linus Torvalds
とは言っても… (スコア:5, 参考になる)
宿主側の応答に関わる遺伝子の変化に対処しようというのは、要するに「対症療法」なのであって、それは、これまでにもあったような解熱鎮痛剤の投与とかと、あまり変わらないのです。「風邪を治す薬」、つまり根治療法的な「風邪の特効薬」として期待されてきたのは、風邪の原因となるウイルスの増殖を抑制したり、積極的に排除するような薬だったりする。
この点、今回の研究成果は、ライノウイルスの増殖自体をどうこうしようというようなものではないので、そういういわゆる「風邪の特効薬」というものにはなりません。また仮にライノウイルスの増殖を抑制するような薬が出来たとしても、それが他の風邪ウイルス…例えばアデノウイルスとか、に有効とは限らない…と言うより、風邪ウイルスの増殖メカニズムは種類ごとにばらばらなので、「抗ライノウイルス薬」が出来たとしても、風邪ウイルス全般に有効な「風邪の特効薬」にはならないということだったりする。
そういう意味では、タミフルなんかは「抗インフルエンザ薬」を堂々と名乗れるものだったわけですが、それでも基本的には、ウイルス感染症の場合に「直接、治療効果のある」薬というのは、ある意味「存在しない」、というのが現状でして。
積極的にウイルスだけを選択的に殺したり排除するものというのは皆無と言っていいし、いくつかある抗ウイルス薬によってウイルスの増殖を抑制することが出来る、というのが関の山です。つまり、とりあえずウイルスがもうそれ以上体内で増えないようにしておいて、後は宿主の免疫力によって排除されるのを待つ、というのが、現在の抗ウイルス療法の現状だったりする。
もちろんこれとは別に、感染症によっては適切な対症療法が必要になってくるものもあるわけですが、従前は、例えば発熱などの風邪の諸症状は、「ウイルスに対抗する宿主の(正常な)防御応答」だから、出来るだけ邪魔しない(=解熱剤などを投薬しない)方がいい、という考え方もあり、現在もそういう考え方の人もいます。しかし、新型インフルエンザで問題になったサイトカイン・ストームなどのように、病原体によって免疫系が撹乱された結果、過剰な免疫応答を示すという事例も広く知られるようになり、そういった免疫応答が宿主にとって負担になるようなケースであれば、むしろそれを適切に抑えてやるということも重要だと言えます。そういう意味では、今回の研究成果は、風邪のときの応答がどういうメカニズムで起きるのか、それが宿主にどういう影響を与えるのか、という糸口を与えるものとして、将来的に役に立つものだと言えるでしょう。
Re:とは言っても… (スコア:2, 興味深い)
Re:とは言っても… (スコア:4, 参考になる)
逆転写酵素阻害剤も、宿主のゲノムDNAからレトロウイルスのゲノムを取り去ったり、既に感染している細胞を殺したりするような作用を持っているわけではないのです。新たにレトロウイルスが別の細胞のゲノム内に侵入して、体内で増殖するのを抑制する薬です。
この点で言えば、抗ヘルペスウイルス薬であるアシクロビルなんかも同様です。あれもウイルスの増殖に依存して効く薬なので、そもそも増殖していない状態のウイルスを排除できるというわけではない。現在までに実用化されている薬剤は、基本的にどれも増殖抑制を以て「抗ウイルス作用」と位置づけている、ということなんです。いわゆる「抗生物質」というか、抗細菌性化学療法薬で言うところの、静菌的作用をするものはあっても、殺菌的作用をするものがない、というと判りやすいかなぁ。
まぁここらへんは専門家によっても捉え方がわかれるところでして、大学の講義くらいのレベルでは、ここまで厳密な言い方をしないことも多いと思いますけどね。
Re:とは言っても… (スコア:2, 参考になる)
私は今回の論文は,多少の拡大解釈をすれば「風邪を治す薬」に話を持って行ってもいいと思っています.
マイクロアレイでの解析自体はちょっと甘いな,という感じのするものですし,それだけでは単なる記述
に過ぎないのですが,この論文のポイントはこの結果得られたCig5 (viperin)がライノウイルスの増殖に
関与しているかもしれないという仮説をたて,viperinのsiRNAを使ってviperinの発現を抑制したとき,
ウイルスの増殖が有意に高くなったというFig.4に集約されると思います.
この結果から推測されるのは,viperinの活性を助けたりあるいはviperinが少ないために感染した患者に
対してはそのものを与えることにより,ライノウイルスの増殖を抑えることが可能かもしれないという
ことです.そうであればインフルエンザにおけるタミフルのように「抗ライノウイルス薬」につながって
いくといってもそう間違いではないと思います.
kaho
Re:とは言っても… (スコア:2, 参考になる)
#以下、判る人にしか判らない内容になっちゃうと思いますが。
viperinに関しては、これはどっちかというともう少し広い意味での感染防御システムに関わるタンパク質だ、という印象を持ってます。基本的にインターフェロンで誘導されるし、ライノウイルス以外でもサイトメガロウイルスやVSVほか、さまざまなウイルス感染により誘導され、それぞれのウイルス感染に防御的に働くし、TLRの下流でも動く、という感じなので。いわゆる「細胞の抗ウイルス応答」の代表である、インターフェロン応答のどこかに効いてくるんでしょうけど、個人的には小胞体に出てるというのが興味深かったりする。
#実は今メインに扱ってる遺伝子(元は癌抑制遺伝子として見つけたもの)が、同じように小胞体に局在してウイルス増殖を抑制するもんで。
まぁぶっちゃけていうと、こういった経路に作用する薬は、どっちかと言うとインターフェロン療法として話がまとめられちゃうものであって、個別の「抗ウイルス『薬』」と言うのには、ちょっと違和感があるなぁ、という。
もっとも、インターフェロン応答も、古くから知られていてメジャーな論文ががんがん出てる割には、細かい部分で判ってないところも多いし、最近では(以前から言われてたような)タンパク合成全体をとりあえず抑制する、というよりも複雑に、ある程度選択的に遺伝子の発現抑制が行われているようだ、というのが判ってきてます(この点でも、小胞体ストレス応答:UPRは上がるけど、全体の翻訳は抑制される、というのと通じる部分がありそうです)。
そういう意味では、これらのシグナル伝達経路がより詳細に解明されることによって、従来のインターフェロン療法から一歩進んだ、ウイルス選択的な治療法の開発につながるかもしれません。そういう方向に進んでいったら、それを「抗ウイルス薬」と呼んでも違和感がなくなるかな、というところですね。
Re:とは言っても… (スコア:1)
仰ることは大変よく分かります.viperinについては私は全く無知であったこともあり,参考になりました.
ライノウイルス以外の抗ウイルス作用があることは論文中も引用文献を示して紹介しており,ライノウイルスを
特に標的とした治療法ということにはならないと思います.
siRNA実験で示されたのは,ライノウイルスにおいてviperinが感染の結果として発現したのではなく,
感染の防御のために発現したのだということで,まあウイルスのアセンブリに必要なタンパク質を押さえる
というviperinの機能からすれば当然かもしれませんが,ex vivoで観察ができたのは意味があるだろうな,
ということで.
釈迦に説法ですがインターフェロン治療は患者に様々な負担を強いるものなので,たまたまviperinの機能が
弱いためにこの種のウイルスに抵抗が弱い人がいた場合は,それを補助することで負担の少ない治療薬的に
使えるかもしれないな,という感想を持って元コメントを書きました.
y_tambeさんとは違って私は細胞内でのタンパク質の動態などを直接観察する術を持たないので
(この辺りがdry labの隔靴掻痒なところで),ERでのアセンブリ/修飾/フォールディングによって
説明がつけられてしまうと,とてもうらやましいな,という気がします(笑)
kaho