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10155 story

Ubuntu LinuxのMark Shuttleworth@本家 10

ストーリー by Oliver
宇宙で見えたもの 部門より

airhead 曰く、 "今回はMark Shuttleworthへのインタビューをお送りします。彼が手がけるDebianベースのUbuntu Linuxは6ヶ月毎の定期リリースを目標の一つに掲げており、この回答も最新版となるHoary Hedgehogのリリースにあわせて掲載されました。インタビュー後半は、オープンソースプロジェクトへの支援、彼の母国南アフリカにおけるオープンソース推進運動や教育振興、彼を一躍有名にした宇宙旅行といった多方面にわたる彼の活動を受けて、様々な話題に触れたものになっています。原文翻訳付記とあわせてどうぞ。"

Ubuntuのターゲットは…?
by ewanrg (446949)

Ubuntuのターゲットとして、あなたがどんなユーザー/顧客を考えているのかに興味があります。使いやすさ、そして「価格」から察するに、Microsoftにこだわらない、あるいは目的を達するためにMicrosoftに払えるほど金銭的余裕のない、そんな顧客をターゲットにしようとしていると思えるんですが。

それと関連してちょっと気になるのは、なぜUbuntuはデスクトップにGnomeを選んだのか、ということです。(私のHP Kayakのような)古めのマシンにおいて、Ubuntuはもたつきつつも動作しますが、マシンを調べた結果次第でXFCEやIceWMといったデスクトップを選択してGnomeのと同様のテーマを用いるようなオプションさえあれば、補修/リサイクルされるマシンが真の輝きを取り戻すのに役立つんじゃないかと思います。

同様に、ソフトウェアの選択においても同じようにチューンされることがあっても良さそうに思えます。私としても新しめのマシンではOpen Officeを使いたい一方で、より低仕様のマシンに提供されるより控えめなオフィスソフトの選定というのは、理にかなった選択肢のように思えます。

これについてのあなたのお考えをお聞かせ願いたいのですが…

Mark Shuttleworth:

Ubuntuプロジェクトを一言で言い表わすなら、家庭、オフィス、データセンターにいるすべての人のためのフリーで高品質のOSを作る、ということになるんだ。そこで僕たちはデスクトップアプリの組み合わせについて、ローエンドのハードウェアへの最適化よりも機能性および互換性の観点から最良となるよう取り組んできた。で、一枚のインストールCDからGnomeデスクトップにFirefox、OpenOffice、マルチメディアのためのGstreamerなどといった、よく知られている本命と目されるものを得られるようにしているんだ。ISOに収められているその他の本命にはThunderbird、さらには誰もが知ってるサーバアプリ(Apache、Sambaなど)といったものがあり、それらはすべてインストール中にネットワークに行く必要なしに入手可能となっている。

その他の、known universeにあるものの大部分はネットワークアーカイブで入手可能だし、それがDebianにもあるものならapt-getできる。また、.debパッケージが存在する他の独立リポジトリの多くを僕たちのネットワークリポジトリにまとめてあるから、ほとんどなんでも容易に見つけてインストールすることができる。なんでもとはいっても、君を監獄行きにするようなものはないけどね。

本命選びは難しいものだけど、Thom Mayのブログに書かれていたように、避けて通れることじゃないんだ。オープンソース界での作業が生みだす好結果の一つとして、人々が自ら手を加えて彼ら自身が本命と思うものを選び、現在も作業が進められているKubuntu(デフォルトでインストールされるデスクトップをKDEにしたUbuntu)があるよ。KDE 3.4を採用のものが4月6日にリリースされる予定で、同日僕たちもGnome 2.10採用のUbuntuをリリースするから、その日は大いに盛り上がるだろうね。

XFCE-buntuというものがあればぜひ見てみたいし、その作業に興味があったら irc.freenode.net の #ubuntu-devel または #kubuntu を訪ねてほしい。LTSPや組み込み環境にチューンされた別フレーバーのUbuntuもぜひ見てみたい。UbuntuにEnlightenment E17を載せることを話しあっていた人たちもいたし、僕たちの次のリリース時にはそれらフレーバーが現実化して、Ubuntuコミュニティに参加するのを見られるかもしれないね。Ubuntuはいかなる意味においても完全にフリーで、それはこれからも変わらない。それは誰もが発展させたり革新を加えたりすることのできる、完全なプレイグラウンドなんだ。

なにか特別な事情でもあるのか?
by Fished (574624)

この質問はいろんな形で話題になっていることなんですが、どうしてもお訊きしたい。UbuntuがDebianツリーへのコントリビュートにも活用されるようになっていないのには、なにか特別な事情でもあるのですか? あなたにはあなたなりの言い分があるんでしょうが――パッケージングの主導権を握ることなのか、より頻繁なリリースか、何でしょう? いつかUbunutuがDebianに取って代わることを目論んでいるのでしょうか、それとも(Fedora/Redhatのような位置付けの)よりオープンなDebianとのブランドにしようとしているんでしょうか?

もう一つ、あなたの資産状況についてわかっていてもどうにも判断がつかないのですが、Ubuntuは金儲けを意図したものでしょうか、それともコミュニティへの贈与物と見なされているものなんでしょうか?

(近々Athlon 64のシステムが届く予定なんですが、まずUbuntuを試そうと思っています。とりあえずはとても良さそうに思えるんで。)

MS: ええと、君が質問してくれてから時間が経っているけど、その後きみのUbuntu amd64システムの調子はどうかな? Hoary Hedgehogがリリースされたら(今月だよ)アップデートもお忘れなく :-)

UbuntuがDebianに取って替わることはない。皆がUbuntuを気に入ってくれてるとすれば、それはあの優れたエンジニアリングに基づいて作られているからなんだ。Debian/sidはフリーソフトウェアの世界にとって最高の財産だしね。Sidがいつも手を焼かせるやんちゃな性格だとしても。

Ubuntuチームは6ヶ月ごとにSidを取ってきて、セキュア、テスト済み、サポート付きのものをリリースしている。願わくば、そのプロセスで作られたパッチ (継続的に http://people.ubuntu.com/~scott/patches/ で公開しているけど、Scottひとりで全部のパッチを作ってるわけじゃないよ:-) の多くがDebianメンテナに採用され、Ubuntuの成果としてSidが向上すれば、と思う。相互的関係になるよう意図しているわけだしね。

そのうえで皆が、前述の定期的で予測できるリリースを利用してKubuntuやGuadaLinexのような素晴らしいことをやってくれれば、と思う。

長期的には、Debianとは異なる優先度・スケジュールに基づいて独自の道を進むことで取り組むことになる分野があるだろうと思う。HoaryにおいてのX.org、Gnome 2.10、あともしかしたらOpenOffice.org2のようにね。僕たちがフリーの(自由な)リビジョン管理システムBazaarおよびbaz-ngに出資しているのもそういった理由からで、これによって上位もしくは他ディストロとのコード共有を円滑に、整った体裁で行えるようにしたいと考えているんだ。

Debianパッケージ
by renelicious (450403)

どっかで読んだけど、君らは素のDebianを使う替わりに、利用するすべてのDebianパッケージの独自バージョンをリビルドしてるんだって? これではUbuntuは一般的なDebian aptリポジトリを利用できないということになる。これは本当かな? もしそうなら、その背景にある理由は何だろう? それと、今後この方針の変更を検討するつもりはあるかな?

MS: そう、僕たちはすべてのDebianパッケージ、さらにはapt-get.orgにあるその他多くのソースからの.debパッケージをインポートしている。だからUbuntuシステムの /etc/apt/sources.list ファイルで「universe」および「multiverse」リポジトリを有効にすれば直ちに、Sidにあるものすべて、そしてその他多くのdebフォーマットのものを一発で見つけることができる。

こうすることで、使う人がバックポートやパッケージを探すのに費やす時間を減らすことができるし、リリース時にそれらが実際にソースからビルドされているのを保証できる。またこれによって、僕たちが時間を作れればの話だけど、16,000あるパッケージすべてについてライブラリバージョン依存関係の整合性を取ることができる。

僕たちのコアチームが注意を向けていてるのはサーバおよびコア・デスクトップアプリなので(「主に」だけど)、universeおよびmultiverseに含まれるものはすべてMasters of the Universe(内輪ネタだ)という別働チームが管理している。このチームのKDEへの取り組みがKDEを中心に押し上げ、4月に予定されている僕たちの次のリリース、Kubuntuの誕生という成果を生みだした。さらに多くのパッケージをuniverseあるいはmultiverseに入れてみたいと思っている人がいたら、#ubuntu-motuに参加してほしい。

変更
by Daengbo (523424)

先日あなたのディストロをインストールして、そのグラフィックの細部まで行き届いた配慮に感心しました。gdmログイン画面、デフォルトテーマ、デスクトップに選ばれている壁紙、どれも非常に素晴らしい。

一つだけ目立ったのは、デスクトップアイコンを廃して必須のゴミ箱アイコンをパネルアプレットに移すという選択をしたことです。この選択をしたのはなぜでしょうか?

MS: そりゃ僕がSABDFLだからです――乙女座だってのも関係あるかな? 物事をシンプルにして当り前に使えるものに、というUbuntu哲学に照らし合わせても、正しい選択に思えるしね。自分のデスクトップを思うがままに散らかすのはユーザーの自由であって、僕たちが代行していいことじゃない :-)

昨年のOxfordカンファレンスでたいした議論にならなかった、なんていうわけじゃないけど… 4月下旬にシドニー・コミュニティカンファレンスがあって、そこで10月のリリースとなるBreezy Badgerについてのロードマップを説明する予定なんだけど、そこで同じような議題を扱うことになるんじゃないかな。

デスクトップを効果的に、すごく扱いやすいものにすることは、興味の尽きない話題だよね。もしこの件に関して深い思い入れを持っている人がいたら、シドニー他のUbuntuカンファレンスに来て議論に参加してほしい。

企業での利用
by TheFlu (213162)

私はここ数年Red Hat/Fedoraユーザーだったんだが、最新のパッケージ(Gnome 2.8やEvolution 2.0)がデフォルトで収録されていることもあってUbuntuを試してみることにした。いうまでもなくプレリリース版の仕上がりに大いに感銘を受けて、職場の私のワークステーションと家のLinuxマシンでUbuntuに切り替えた。

とはいうものの、現在のUbuntuの内容における「企業向け」ツールの欠如にはがっかりした。現在うちの会社にあるすべてのクライアントマシンがFedoraを動かしていて、それらはkickstartを使って書かれたカスタムインストール・スクリプトによるものだから、死んだマシンがあってもカスタムインストールCDをサッと取り出して、5分か10分後にはまっさらのマシンでネットワークに復帰できる。Ubuntuのインストールルーチンにkickstart風の機能やNISサポートを採用するような計画はあるかな? もしそうなら、すぐにでも社内全部をUbuntuに切り替えようと思うんだが。そういった機能の追加は他の会社でも歓迎されるはずだ。

MS: Colin Watsonの功績のおかげで、4月6日リリースのHoary Hedgehogはkickstartをサポートする予定だよ。NISについてはなんとも言えないけど、もし僕たちが簡潔に手際よく組み入れられそうなものなら、Ubuntu wikiのどこかに仕様をまとめてBoF企画ページからリンクしておいてもらえないだろうか――そうしてもらえれば、Breezy Badgerでの実装について議論することになるだろう。

Ubuntuは企業環境でも能力を発揮するはずだ。僕たちがCodeWeaversのようなプロプライエタリのツールを含めることはないけど、それだって誰かがそれらツールを含めたUbuntu派生物を作るまでの、時間の問題に過ぎないよ。

人気のない作業でどうやってサポートを得てる?
by cheros (223479)

やあMark、他の(F)OSSプロジェクトと同じく、君はほぼ全般にわたってボランティアに依存してるよね。人気のプロジェクトならそれでいいけど、効果を発揮するには、そう、管理者や経理をこなす裏方も必要だ。Firefoxが提供するような華やかさとかストリート受けとかの類いに与る見込みがなくても、彼らは縁の下の力持ちとして仕事をこなさなきゃならない。

俗受けしないプロジェクトでサポートを得る秘訣を何か見つけたかい? よかったら教えてよ。

MS: いい打開策があればいいんだけどなあ。俗受けしないプロジェクトにも才能ある人を引張ってこれたら、オープンソースがこの世界に貢献できることはいくらでもあるだろうに。

例えば、僕がSchoolToolに資金援助してもう2年になるけど、コミュニティが形作られたって思えるようになったのも、つい最近のことなんだ。打開策は、取り組む対象となるような実稼動するコアプロダクトが最初から存在することがオープンソースの成否を決める、ということになるかと思う――ツールが既に広範囲で実稼動してないとコミュニティを維持するのはかなり難しいしね。

構想段階からその地点まで持っていくには、たった一人でも作り上げるだけのスキルと情熱と活力と時間を持った個人、あるいは慈善ないし商業的利益を目的とした資金援助、そのいずれかが必要だ。

そういえば、オープンソースの行政情報管理システムというのもあればいいなって思ってるんだけど――世界中どの地方自治体も同じ課題を抱えているし、同じツールを使ってそれを自由に共有すべきだしね。そうなればキンシャサもパリも、オープンソースの恩恵に与ることになるだろう。でもね、余暇を使って下水管理システムをハックするように他の誰かの意欲を奮い立たせるなんて、そんな簡単な話じゃないよね。

こんなアイデアはどう?
by xutopia (469129)

私はディストロからディストロへと、そのとき使ってるものより良いものを見つけたらすぐに乗り換えてしまう性格なんです。最新のGnomeとカーネルってことで、(Dropline Gnomeの)SlackwareからUbuntuに移ってきたところです。私の兄弟はUbuntuを気に入って、Windowsから乗り換え作業をしています。えーと、Windowsのセキュリティに若干お気に召さないところもあるようです。彼はいま一切合財をバックアップしてるんですが、ファイルなど全部を転送するのはどうにも退屈です。このプロセスをさっさと終わらせるアイデアを思いついたんで、ご意見いただければと思います。

WindowsとかLinuxとかのインストール状況をチェックして、ユーザー/ファイルを移行して、Ubuntuにシステムを「コンバート」しちゃうようなUbuntuインストールCDなんてものは可能でしょうか? Windowsな世界でこいつを達成するのにはいくつか障害があるのはわかりますが、あるディストロから次へについては実現可能だと思います。このアイデアをどう思いますか?

よろしくお願いします。

MS: それはいい考えだ! 僕のおばあちゃんのNTFSパーティーションをリサイズしてUbuntu用のext3パーティーションを作るような場合を考えてみてもGnu Partedは信頼のおけるところまで来ているし、あとは彼女のデータをできるだけ多く、新しいLinuxパーティーションに馴染むように移せばいいんだ。

手を伸ばすだけで取れるところにぶら下がってる果物はたくさんあるよね。たとえばデスクトップ背景、フォント、ホームディレクトリなどの移行できるものを使えば、できる限り彼女の作業環境を残して、慣れ親しんだままにしておける。

うまくいくといいね!

すべてフリーで、どんな事業プランを?
by HoserHead (599)

Canonicalは、どのような収益プランを持っているのですか? フリーという言葉のどちらの意味においても、Ubuntuは全面的かつ完全にフリーです。少なくとも、フリーソフトウェアに対しての「サービスで開発費を稼ぐ」という事業プランは、ドットコム・バブルの崩壊とともに時代遅れになってしまったように思えます。そうはならないという、あなたの会社ならではのものがあるのでしょうか?

MS: 君の言うとおり、「サービスで開発費を稼ぐ」モデルが単一アプリケーションに対して効果をあげる可能性は低い。とはいえ、一通り揃えたディストリビューションでは少し事情が異なる。そのユーザー数は潜在的に、ウェブサーバやデータベースアプリのユーザー数よりもずっとずっと大きいからね。

CanonicalはUbuntuのサポートを提供するけど、それにも増して重要なのはUbuntuサポートを提供する企業を僕たちがサポートするということで、その狙いは、フリーソフトウェアで協調する人々の生態系を作り上げることなんだ。この生態系の萌芽はUbuntuサービスプロバイダのページにあるとおりで、僕はこれがWartyの登場以降と同じく成長し続けてくれるよう願っている。

存続性の一環としてコストを低く保つことがあるから、リソースを開発とサポートに集中させて、マーケティングとかオフィスでの浪費とかに取られないようにしている。無駄なものを見つけると僕がケチくさいことを言うって、皆こぼしてるよ(実をいうとCanonical社員は教典主義 (canonical) に属していないんだ :-)

僕は、このディストロプロジェクトが存続することを切に願っている。なにしろ、このチームくらい頑張ってくれる有能な人たちと働けることはこれまで一度もなかったし、見返りを受け、日々加えている価値が人々に認められていると知るにふさわしい働きを彼らはしているしね。たとえその通りにいかないにしても、Thawte創業の助力として重要な役割を演じたオープンソース界への恩返しと考えれば、それは光栄なことだと思うけども。で、慈善事業という結果に終わるかもしれないけど、商業的に成り立つことを願っているんだ。いずれにせよ、もう一度宇宙に行くとか、第二案に考えていたカッコイイ飛行機/ボート/女の子たちとお近づきになるとかよりも、まだ安上がりだしね。

Markへの質問
by Recovery1 (217499)

あなたが発起人となったオープンソースキャンペーンに対しての、企業や個人の反応はどのようなものだったのかお訊きしたく思います。キャンペーンに勢いをつけた成功事例、あるいは逆にその勢いを削いだ失敗事例として、印象に残っているものはありますか?

南アフリカからアクセスしている人もおられるかと思うので、slashdotterの皆さんにもお訊きしたい。彼のオープンソース推進活動は、あちらのコンピュータコミュニティにどれだけ浸透しているのでしょうか?

私自身も最近、所属するコミュニティでオープンソースを推進するような立場になったので、これについてお聞かせいただきたく思います。

MS: Shuttleworth財団がHP、CSIR、Canonicalとともに資金提供して行ったGo Open Sourceキャンペーンは、南アフリカ国内から大きな反響を得ている。オープンソース革命を一般的なコンピュータユーザーにオープンソースへの興味を抱かせることと捉えるなら、その最前線に南アフリカを加える一助になったんじゃないかと思うよ。

おそらく他の国々でもGo Open Sourceキャンペーンと同様のものが行われるだろう――僕たちがまとめたTV番組、あるいはFreedom LeagueやFreedom Toasterなどの構想の採用に意欲をみせるかもしれないし、9月のSoftware Freedom Dayではもっと大きな契約をすることになるかもしれない。

またしても僕はケープタウンの街中で何度も何度も呼び止められるようになったけど、今度は「無重力状態ってどんな感じ?」って訊かれるんじゃなくて、皆オープンソースについて知りたがってる。どう答えるかって? どっちも「開放」さ :-)

それだけの価値があった?
by jmichaelg (148257)

質問は二つだ:

1) 「その価値があったか?」と訊いても君の本音とは関係なく肯定的な答えが返ってくるだろうし、こう質問を変えよう。あの旅行を2千万ドルの価値あるものにした、フライト中の出来事は何だろう?

2) もう一度宇宙に行けるとしたら、いくら払う?

MS: 宇宙や宇宙飛行がどれだけ君を惹き付けているものかはわからないけど、僕にとっては常に、大いに魅了し想像を掻き立てる分野だった。たとえ君が霊魂の再生を信じているとしても、今ある人生を精一杯生きることには意味があると認めざるを得ないだろうし、僕にとってそれは、自分にできる最も大きくて、最も恐ろしく、最も大胆なプロジェクトに立ち向かうことを意味している。

宇宙はつまり、そういうものだったんだ。

今でも憶えているけど、素晴らしい夕日のなか初めてロシアに降り立ったとき、軌道に行くためとはいえ、官僚機構や物理学と戦ってまでしてロシア軍の基地で何ヶ月も過ごしてたがる人がいるものか、という疑問が浮かんだんだ。贅沢が保証されてる人生を取りあげて危険のなかに置くことは馬鹿げたことに思えた。しかし同時に、実現のための努力を実際にしなければ、軌道打ち上げのパワーを体感し、宇宙に浮かぶ地球のこの上ない美しさを目にし、再突入カプセルの激しさを経験するのはどんな事なのか、解らないまま一生を過ごすことになるだろうということは解っていた。

振り返ってみると、僕は信じられないくらいツイていた。ロシアでの過酷な一年で僕は、あてにならない折衝もあって、忍耐と戦略について多くのことを教えられた。訓練による身体的負荷、会話と任務に必要なロシア語を学ばねばならなかったこと、それからもちろん宇宙飛行士としての仕事、どれをとっても僕のようなギークが滅多に経験できないことばかりだった。あれほど怖気づかせ、あれほど最終的に報いのあるプロジェクトは他に想像できない。僕が星の街に滞在している間、そこにはそれぞれのミッションに備えるロシアの飛行士やNASA/ESAの飛行士が大勢いて、彼らと知り合えたのも得がたい経験だった。そこにいなければ僕は永遠に彼らの人生を羨望の対象としていたことだろう。彼らは定期的に任務に復帰するし、いまでも彼らのことを羨望のまなざしで見ているんだけども :-) 僕が最後のソユーズTMに間に合ったのも幸運だった。というのも、次世代ソユーズのTMAは操縦席以外の乗員の手を全くといっていいほど必要としない。TMでの飛行は、乗組員と作業する機会が増えることと同時に、フライト中に担う責務が増える可能性を意味していた。

実際のフライトそのものは結構な代物で、亜軌道フライトが商品として定着したら申込者が後を絶たないに違いない。宇宙からの地球の眺めは息をのませ、その後の人生を変えるだけのものがある。保証してもいいが、宇宙での3分間は、他人や世界に向き合うときの観点に変化を及ぼすだろう。で、軌道での10日間を想像してごらんよ。ちっぽけなソユーズでの最初の数日間は太陽に対する姿勢を維持してぐるぐる回りっぱなしだから、無重力のなか、ゆっくりと回る乾燥機に押し込められるという愉快な体験ができる。危険であると同時に穏やかさに満ちている環境での生活や作業への順応はどういうことなのか、想像してごらん。科学実験と定時地球観察との合間に、VoIP接続を使って親友に軌道からの電話をかけることを想像してみてよ。10日間のフライトだったけど、あっという間に過ぎていった。

ゾッとするような話をさせてもらうと、ソユーズでの再突入はとにかく、たまったもんじゃない。大気圏に突入するときの速度はマッハ25にも達する。宇宙船の周りに生じる灼熱が宇宙の闇を暗赤色に染めるんだ。ソユーズは姿勢制御能力を失った死んだ船となった場合でも再突入態勢を正しく保つよう設計されているため、君が乗っていたら、熱シールドが確実に打撃を受け止めるように機体が揺れ動くのを感じられるだろう。そして、自分の乗ってる宇宙船が崩れて周囲で燃え上がり、猛火の中にいる間は重力が次第に増していって持ち帰ろうと胸に仕舞っていた予備のハードディスクに押しつぶされそうになり、熱負荷をシールド全体に均一に分散させようとソユーズがコマのように回転するのがわかるだろう。外側にあるボルトなんかの金属部品が熔けて窓を横切って流れていき、沸騰して黒いシミをつくるのが見えるんだ。完全に自分のコントロールの範囲外の信じがたい力の誇示といった感じで、自分が花火大会の真ん中に放り込まれたアリみたいに思えてくる。自分の生死は機体を組み立てた人たちに完全に委ねられていて、機体がバラバラになりだしても自分に出来ることなんて一つもないんだ。そんな乗り物が他にあるかい。

もう一度宇宙に行けるとしたらいくら払うかって? 第一に、以前やったことを繰り返すだけというのはしたくない。別の機体で飛ぶとか、ソユーズでの別の責務に就くとか、新しい目標に取り組んでみたいんだ。そしてできれば、別のミッションプロファイルに取り組みたい――というのは、Expediaで予約できるような類の旅行にしようって意味じゃないよ。何事にもいえることだけど、プロジェクトはできる限り妥当な費用になるよう交渉するし、Burt Rutanになるか、RosAviaKosmosおよびEnergiaになるかはわからないけど、とにかく最適な人たちと手を組むつもりだ。

2千万ドルは妥当な値段だろうか? 自分に買えるのが何であって、替わりの選択肢が何であるか次第だね。

宇宙を目指すか地球を直すか?
by gspr (602968)

一人の宇宙飛行士として、あなたは我々の惑星の外に広がる宇宙の神秘に惹きつけられてきたに違いありません。しかし一方で、一人の南アフリカ人として、あなたの故郷の大陸が直面している問題にも関心を向けてきたに違いありません(まったく認識不足で、欧米的に聞こえると理解してはいますが、「アフリカは問題だらけの場所だ」と言おうとしているわけではなく、ここでは単にアフリカ大陸の広範囲に存在している大きな問題について述べています)。

この地球上であまりにも多くの人が苦しんでいるときに、宇宙開発を正当化することは可能でしょうか? そしてそれはなぜでしょう? これは私にとって重要な質問なんです。私は宇宙を夢見ていますし、人類は己の能力が及ぶ全てを探求すべきだと確信しています。しかしながら、私はそこで道徳的難問を抱えてしまうのです(私はいつもそこで、夢見ることを続けるために無視してしまっています)。この地球上で何十億もの人々が清潔な水へのアクセスを欠き、何百万もの人々がHIVに感染しているときに、莫大なリソースを費やすことの正当性はあるのでしょうか?

MS:アメリカ人はアメリカを――それが抱えている問題とは関係なく――愛しているだろうと思うし、それと同じくらい、僕はアフリカを愛している。そして君の言うとおり、そこには問題が山積みで、先進国が直面しているものよりも目につきやすい。でも、マクドナルドやイラク戦争だけでアメリカを語れないのと同じく、ダルフールやジンバブエだけでアフリカを語れるわけじゃない。自信もってお勧めできることけど、ケープタウン、ザンジバル島、ルウェンゾリ山地、エチオピア高地を旅してみて、自分の目で確かめてみてもいいと思うよ。

アフリカの興味深い点は、それが非常に大きな可能性を秘めているということだ。50年もあれば大陸に住む20億の人々が強固な経済的・地理的位置を確保するものと、僕は確信している。良い指導者、通商においての世界からの公正な扱い、そして時間、それらがそろえば存続し繁栄するために必要なものがすべて大陸に備わることになる。だから、僕たちの生きてる間にアフリカが悲劇と曲解からくるイメージを脱ぎ捨てて、それを他が羨むような繁栄と精神の融合で置き換えてしまうものと、僕は強く確信しているんだ。

質問はこうだったね。何十億もの人々が関わってくる基本的な食料・教育・雇用問題に世界が直面し、そして同じ惑星を共有している幾千もの他の種の住処を僕たちが絶え間なく破壊しているときに、宇宙飛行を正当化できるのか。難しい質問だ。お決まりの答えはだいだい、宇宙開発は材料工学から食品工学や地理学までのすべての分野において世界を向上させてきた、というものだ。でも僕は別のところにもっと重要な答えが隠されていると思う。つまり、世界を停滞させる原因の大部分はリソースの問題じゃなくて意志の力の問題なんだ。

僕は南アフリカのいろんな学校を見てきた。何にもなくて、学校創立から何年にもなるのに毎年一級の卒業生を輩出するには至っておらず、どこも資金繰りに苦労していて、一通りのことができない。そういう場所では職員の意志の力が頼りだ。そして意志の力の大部分は、熱望の対象となる何かを持つことや、人生を懸ける何かを持つことで占められているんだ。宇宙や、人類による太陽系や外宇宙の探査は並外れて強力な意欲の源だ。僕はそのことを飛行の前に、身をもって教えられた。あるとき、アパルトヘイトの最悪の時くぐりぬけて生きてきた年配の男性が僕を抱きしめて、自分も宇宙に連れて行ってくれと請うたんだ。そして、彼の子供たちもいつの日か宇宙に行く機会を手に入れようと数学と科学を猛烈に勉強している、と教えてくれた。僕も彼らが実現してくれることを願うよ。

共通の取り組みは?
by meggito (516763)

アフリカ諸国は、科学技術の成長を促進するためにどのような協同作業を行っているのでしょうか? 現在あるいは将来の予定として、何らかの共通の指針が実施に向けられているのでしょうか、それとも、共通の基盤を築き上げることなく現在も各国が個別に取り組んでいるのでしょうか? 個別あるいは協同のいずれかに関わらずお訊きしますが、現在の手法は成果をあげていますか? あるいはまた、技術課題へのアフリカの取組み方に変えるべき点があるとお考えでしょうか?

MS: 残念なことに、ここ数年僕たちが見てきたような科学技術の急激な変化の大部分に関して、アフリカ内で生みだすための取り組みが充分になされているとはいえない。Nepadがいくつかの展望を示していたけど、それも官僚機構のなかに埋もれてしまった。比較的小さな国が革新を進めるのを促すことになるし、情報通信や技術革新、特にVoIPやWi-Maxなどの画期的技術に関連する分野が資金調達する際の規制において、主導的立場をとることになると考えているんだが。もっと明るい展望の答えができればいいんだけど。

デジタルデバイド
by Rico_za (702279)

あなたが支援しているUbuntu、SchoolTool、Translate.org.zaといったプロジェクトは、デジタルデバイドに真正面から取り組んだものと思います。発展途上国にいる一人でも多くの人々がインターネットアクセスを得られるよう、それを安価するための方策について何らかの展望や構想をお持ちですか? もっと具体的にいうと、通信業界の規制緩和がすべての人に利すると、南アフリカ政府を説得するようなお考えはありませんか?

MS: どんな産業でも、大変革の時には新しいリーダーが台頭する機会が生まれるものだ。オープンソースへの世界的な転換はまさにそういった機会なんだ。南アフリカがオープンソース革命を先導するチャンスをつかむことについて、僕は強く期待を寄せている。ITスキルの必須要件に大きな転換があるだろうし、現在主導的立場にある国々にとっても投資効率、外注効率、国内効率といった面で極めて大きな利益があるだろう。

通信に関する部分については、次の質問であわせて答えさせてもらうことにするよ。

南アフリカでのインターネットアクセス
by kobus (544780)

やあMark、

こいつは質問と提案が混じったようなもんかな。

僕は南アフリカのベイエリアで働いてるプログラマだ。

僕は1994年には既に南アフリカでインターネットに接続してた。それなのに、それから大して変わり映えしてない。実際、インターネットアクセスの酷さといったらないよ。中流階級の平均収入と較べてもかなり高額だし、ISDNやADSLときたら、バカ高いうえに泣きたくなるぐらい遅いんだぜ。

インターネットアクセスの現状こそが、僕らの国を遅れたままにしてるんだ! 学校や家庭がより良いインターネットへのアクセスを持つことは、絶対に外せないんだ。

南アフリカの事業家でIT業界での成功者として、一度でもこの問題を考えたことがあるか、インターネットへのより良いアクセスの提供について率先して提唱していくようなことを考慮したことがあるか、教えてくれないかね?

MS: 明らかに南アフリカでは、世界で最も高価で高収益率の部類に入る通信企業の独占がいまだに堅固に根付いており、僕たちは断固たる行動を取らなければならない。昨年、南アフリカ政府はいくつかの分野で規制緩和に向けた大きな動きを見せながらも、あと一歩のところでそれら行動指針を骨抜きにしてしまった。公正な行動計画に関する国内議論が進んでいると期待しているけど、残念なことに、大胆な規制緩和策の推進派が主張への賛同を得るのには時間がかかりすぎている。

将来にわたる重要な課題は海底ケーブルの国際通信料金で、ラストマイル銅線への接続の管理と価格設定が現在のところTelkomに委ねられているのと同様、秘密主義の強固な独占が続くと考えられていることだ。僕は、SATRA(南アの通信分野の監督機関)が既存のラストマイル銅線を新規の通信事業者に安価で開放することを強く望んでいる。フランスではその実施が功を奏して、現行の事業者が回線使用料として課すのは最高でも10.00ユーロ/月程度だったと思う。南アではもっと低く抑えられるだろう。それに加えて僕がSATRAに期待するのは、現在独占化にある国際帯域幅を年一回の公開競売で売りに出すことだ。

さらには、Wi-Max、WiFi及び一般の周波数帯の開放について先を見越した取り組みがなされて、ワイアレスブロードバンドの可能性への投資が促進されるのを期待している。機会は必ずあるんだ。行政当局の監督能力の有無や、先導する意志の力が知られているか否かに関わらず。

保健医療オープンソースは?
by mspohr (589790)

私は南アフリカや、アフリカのその他の地域において、保健医療情報システムに関する数多くの作業に携わっています。そこではエイズ治療や保険制度管理のためのオープンソースの情報システムが急務として求められています。既存のプロプライエタリによるソリューションは高価で、適合するものではなく、カスタマイズしにくく、地域内受容能力を構築することができません。

教育だけでなく保健医療にもオープンソースプロジェクトを広げようというお考えはありませんか? 南アフリカ、ケニア、ザンビア、エチオピア、その他の国にいる私の知人たちも参加する意志を持っているものと思います。

MS: 確かに僕は、行政機関での可能な限りのオープンソース使用を推進している。実際に南ア保健省にはある試験プロジェクトが存在するし、それはオープンソースの予想外の成功事例となった――予想外というのはつまり、担当当局者がその潜在的価値を認識しているとは思ってなかったんだけど、彼らは開発者がオープンソースを基盤に作業することを承認してくれたし、今ではその小さなツールが大陸内のいくつかの国々で利用されている、ってことなんだ。

僕はこれが、間近に迫っている未来を示す指標の一つになることを願っているよ。

僕は財団の組織を長期間かけて着実に築き上げていきたいし、教育は最初に手がけるものとしてはかなりの難題と考えているから、原則としては南アでの保健医療の取り組みに資金提供することはない。僕たちが教育分野で好成績を上げた暁には(TuxLabs、SchoolToolなどのプロジェクトは良い出発点だ)、社会に携わる事業家精神と革新を発揮できる他の分野にも展開していくことができるはずだ。

みんな、質問してくれてありがとう――こんなに回答が遅くなってごめんなさい!

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • Ubuntuにも参加したDebianの主要パッケージのメンテナが一時行方不明になってsargeのリリース遅延を招いてると言う事もありましたが、
    UbuntuとDebianの間で真に良好な関係が築かれるといいのですが…

    インタビューから見るUbuntuのスタンスというのは、一歩間違うと単なる利用主義に陥り兼ねない危なさを秘めている訳で、そこいらを払拭する意味でもUbuntuからのパッチは出来るだけDFSGに沿った形で出すように統一してほしいと思います。(non-freeに相当する部分は分離したモジュールに出来るようにするとか…)
    そうでないと相互利用が出来なくなってしまうので、まずいような感じが…

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コンピュータは旧約聖書の神に似ている、規則は多く、慈悲は無い -- Joseph Campbell

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