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SS1の日記: ニセ科学批判のエビデンス 2

日記 by SS1

ニセ科学批判のエビデンス

apj氏のブログのコメント経由で,こんな記事を知った。甲野×内田対談本の感想である。引っかかったポイントは,私もおんなじなんだけど「その批判のやりかたはどうなのよ」とおもったので,その話。いつものように脱線しまくります。

まず。ちょっと引用。

甲野氏:科学者というのは、自説を正しいと信じ込むと、広い立場で客観的に検討することを嫌いますよね。例えば、よく地震の時に「地震雲」という独特の形の雲が出ることが伝承で知られてきているのですが、科学的な地震学者は決して認めようとしません。

         一度私は、高名な地震の専門家が地震雲に対してある所で「地震と雲は関係ありません」と断言したので、「いままでの歴史を調べてみると、人が死ぬような大地震の時、雨が降っていたという話は全く聞いたことがありません。とすれば統計学という学問もあるのですから、天候と地震の間には、何か関係があるのではないかと考える方が、科学的な態度ではないのですか」と尋ねたのです。

         そうするとその人は、「ああ、これだから素人を相手に話すのは嫌なんだよ」といった白けた顔をして黙ってしまいました。(P252・253)

話に出てくる学者氏が、その様な態度を取ったのも、ある意味当然だと思います。甲野氏が指摘された様な事は、「当たり前」です。で、(推測ですが)それを踏まえた上で、「地震と雲は関係ありません」とした筈です(地震雲と呼ばれるものと、地震との関係については、余り知りません。科学的には概ね否定されている、というのを見聞きした事がある程度です。「関係無い」と本当に断言したかも気になる所ではありますが)。勿論、学者氏が、具体的にどの様な言い方をしたのか、態度を取ったのかは、定かではありませんが、いかにも、科学者の「融通の利かなさ」を仄めかす様な文章です。
http://seisin-isiki-karada.cocolog-nifty.com/blog/2007/01/post_7e7d.html

私も同じく,甲野氏の発言に「それはちょっとどうか」と思ったんだけど,それは「ニセ科学的な批判だから」じゃなくて,ちゃんと準備していなかった人にする質問としては「それはちょっと,いじわるだよねぇ」と思ったからです。
「地震と雲は関係ありません」という発言は「常識で考えて」当然でしょ。な発言です。でも,それを「高名な地震の専門家」というぐらいだから,たぶん教授職以上の方だと思われますが,その人が,門外漢の方から「文献的には,関連があるように思える,(科学の技法である)統計学のような手法では,地震と降雨には関連があるといえるんじゃないのか?」というツッコミを甲野氏がした。っていう話に理解しました。

ようするに,これって科学的な言い方に翻訳すれば「その話の,根拠(エビデンス)は何ですか?」っていうのを甲野さんが聞いたという話ですよね。それに対して「いい質問ですね^^;」の一言も返せずに,指導教官にレポート叩かれた学部生みたいにむっつりと押し黙ったのが,その(私の推測では教授職以上の)センセーですよね。つまりエビデンスないんでしょ。そんな教授いたらバカにされて当然じゃん。と私は思います。

そもそも教育者としてどうなのか。いいところの大学でも学部生ってのは「この子,アホの子,スズメの子?」っていいたくなるくらい,知性はあっても無教養で「空は何で青いのか?」系の「いい質問」をする生徒がうぞうぞいるわけですよね。で,その教授は,きちんとした日本語で説明できさえすれば納得していただけるだけの教養のある甲野氏のような人物に,ちょっとつっこまれただけで,厨房よろしく押し黙ったわけですよね。そんな人間が入学したときに指導教官になることを考えて御覧なさい。まともなエビデンス・ベースドの会話が出来る能力が,その生徒に身につくわけ無いでしょう。そんなの許していいわけないです。

たしか,クリフォード・ストールの「カッコー・・・」で読んだ話なんですが,彼が天文学の博士号(だったか?)の口頭試問で受けたネタが「空はなぜ青いのか?」というやつだったそうです。これは常識的に言えば(私の常識ですが),大気中の塵や水蒸気によって太陽光が散乱されたから。ですが,これを「散乱」とは何か。「青い」とはなにか。・・・と延々と教授陣に突っ込まれて,量子力学的な説明まで遡って説明させられる。というものです。もちろん,そのとき論理の飛躍は許されませんから,素朴な説明から,究極的な説明までの連続性が求められます。

そういう類(たぐい)の質問を甲野氏はぶつけたわけですから,やっぱり「いじわるだなぁ・・・」というのが,私の感想。そりゃ,そういう直球をストレートに打ち返せる先生って,日本にそんなにいないと思いますし。

んで・・・ じゃあ。そういう批判をする私はどうなのか?

いや,ほんと甲野さんは,いいところを突いていると思うんですが・・・ ええっと・・・
ただまあ,当の質問をされた教授(推定)と違って,口頭じゃないし,考える時間もたっぷり一年以上あるので,なんとか説明できることは出来ます。甲野氏のツッコミをバラして一つ一つ答えてみましょう。

1. 例えば、よく地震の時に「地震雲」という独特の形の雲が出ることが伝承で知られてきているのですが、科学的な地震学者は決して認めようとしません。

ええっとですね。科学的な立場では「地震雲」は定義不可能です。だから,認めようとしない。じゃなくて,科学的な議論の俎上に載せることが出来ない状態にある。というのが,科学者としての立場だと思います。ちなみに地震の直前に見た特異な(定義の難しい)雲を観測した。という話は地震学では「宏観異常現象」とよばれて研究対象となっています。ただ,これは自然科学者の立場では,いわゆる「都市伝説」的な社会心理学的な現象と認知されており,自然科学の俎上に載せるものとは思われていません。

2.一度私は、高名な地震の専門家が地震雲に対してある所で「地震と雲は関係ありません」と断言したので、

とりあえず。ごく常識的なことを言うと,気象現象と地震は,どちらも気象庁の管轄で,各気象台では日常的に観測されています。地震波については,科学的に校正され精度の補償された地震計が設置されていますし。雲についても,全天空カメラによって雲量測定のための基礎データが採集されています。つまり,現在。どのようなタイミングにあっても,各都道府県内において起きた地震と気象現象について,相関があると判断できる可能性のあるような特異性のある雲が発現していたばあい,エビデンスのあるデータを提供する能力が気象台にはあります。専門家が断言できるのは,こうした日常的な観測データが背景にあるからです。

3.「いままでの歴史を調べてみると、人が死ぬような大地震の時、雨が降っていたという話は全く聞いたことがありません。とすれば統計学という学問もあるのですから・・・、

まず,地震学における文献学的な研究について,説明しましょう。もっとも有名(というか私が唯一知っている)研究成果としては「南関東69年周期説」というものがあります。これは社会的なインパクトも大きく。政策にも強い影響を与えた論文ではありますが,地震学としてはすでに「科学的には意味の無いもの」として否定されています。その理由についてなんですが,これはちょっと私には荷が重過ぎます。その説明のためには,甲野氏のいう統計学的な説明をきちんとできる必要があるからです。この説明には,キーワード的には,「地震メカニズム(原因)」の共通性,「有意差」の検定,あと有意差と同じ意味ですが偶然と相関の違いを科学的にかつ理解いただけるように説明できることが必要です。このあたりの説明は,さすがに私の能力ではムリなんですが,(私の理解ですが)統計学的には否定されていると理解して良いと思います。

また,日本の過去の地震における降雨と地震の関連性については「科学的」に否定できると思います。まず甲野氏の一段目の「人が死ぬような大地震の時」という条件設定ですが,科学的にはそのような大地震も,そうでない人が感じることの出来ないような地震も同じメカニズムで発生している。という共通理解があると思います。ということは,過去の歴史に遡らなくても現在の(微小な)地震を観測することで,その仮説に対する知見を得ることが可能だと,仮定できます。ということはですね。現在も,今この瞬間に起こっている(誰も気づかない)地震も観測することで,雨の日とそうでない日の違いについて検証することが可能。ということになります。そして雨の降る時期というのは季節(梅雨とか秋雨とか,台風とか)や時間帯(夕立とか,夜の長雨とか)によって明確な違いがあります。そうすると,微小地震の発生時間や季節との関連性を数学的(統計的)に検討するだけで,雨と地震との関連があるかどうかが,はっきりとわかるはずです。

まず,季節との相関があるか。ですが,これについては私は聞いたことがありません。時間帯については「潮汐との関連については相関があった」。というニュースを目にした記憶があります。ただし,これは精密な科学検定によって得られた話で,素人的には冗談にしか思えないような目に見えないレベルの相関だったと思います。つまり,常識的な意味では影響が無いです。

4.天候と地震の間には、何か関係があるのではないかと考える方が、科学的な態度ではないのですか」と尋ねたのです。

わたしが「いじわるだな~(笑)」と思ったのは,この部分です。この質問を読んだのは今から一年ほど前ですが,内田氏がブログで紹介しているところでは,同書の編集作業はとても難産なものがあって,二年ほどかかったそうです。ということは,該当の地震学者に質問したのは今から3年以上前ですよね。
その当時の知見を現代の知見から批判するのは,ちょっとかわいそうな気がします。

というのはですね・・・

いや。私も,そのセンセーとおなじように,「地震と気象は関係ないだろ常識的に考えて」とか思ってたわけです。 その理由もちゃんとあります。これを読んだときにすでに「地震と電波(というか電離層など)」との関連について電総研で研究された成果があったからです。まあ,いわゆる「ニセ科学オタ」であれば「そりゃ関係ないだろwww」と一笑に伏すような研究テーマを(予算をたっぷり使って)まじめに(?)研究した研究者が電総研におったわけです。その研究成果についてはインターネットからその過程を含めてレポートを読むことが出来ます。で,どうだったかというと・・・ 否定されてます。でもって,その関連分野として気象との関連も同時に否定されてしまった。というのが,その学者先生が話したときの状況だったと思います。

わたしも,読了直後の第一印象は,そうでした。・・・ところがですね。同書が出版された直後の日経サイエンス(サイエンティフィック・アメリカン提携誌)を立ち読みしていたらですね,

「チベット山脈の造山運動とモンスーン降雨との関連について」

のやたらと詳しい解説記事が載ってたんですよ。いやもう「ぶー」と吹きましたよ。「そりゃねーだろ」と思った直後ですから。

いやもう・・・ さすがに,チベットの造山運動と日本の地震現象の基礎理論のプレートテクトニクスを否定する度胸なんであたしにはござんせんから,これはもう,

「天候と地震の間には、何か関係があるのではないかと考える方が、科学的な態度ではないのですか」

という甲野氏の意見は,科学的に正しい。と評価せざるおえないんじゃないかと。私は思います。

だからもう,タイミング的にみると甲野氏のあの素朴な批判に反論できる科学者は同書が出版されたあのタイミングでは,少なくともソースの英字記事を読んでるような専門家には,ほとんどいなかったでしょう。そして,そういうタイミングで出版を敢行させたタッツミー内田氏に対しての「政治家になったほうがいい」という,同書あとがきにおける甲野氏の批評は,まさに「正鵠を射る」という言葉を体現するものだったと思います。

そこまで,あざといシンクロシニティをする内田なんか,政治家になっちゃえ~~~~~!

でございます。。
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11月19日 字句訂正 誤:巷間超常現象→正:宏観異常現象

あと,読んでて疲れた人のために,日本地震学会のFAQから地震雲の説明FAQ 2-12へのリンク。
モンスーンで隆起するヒマラヤ』,日経サイエンス2006年11月,K. ホッジス

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UNIXはただ死んだだけでなく、本当にひどい臭いを放ち始めている -- あるソフトウェアエンジニア

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