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SS1の日記: 国産衛星のガラパゴス化と日米衛星調達合意

日記 by SS1

あけましておめでとう。

ちょっと気になったんで,「日米衛星調達合意」のことを調べてた。
元ネタのコメント
http://srad.jp/comments.pl?sid=431964

この日米構造協議関連の記事って,Wikipedia の記述が薄くてぜんぜん使い物にならないのね。

たとえば,
日米構造協議 無し。
スーパー301条 有った。*

この有様だよ・・・

で,ようやっと使える記事をめっけた。

文部科学省 職員の伊佐進一による記事である。
http://www.policyspace.com/2007/05/post_621.php

この日米衛星調達合意の影響はこんな感じ。

1.政府調達する衛星が全部米国製になった。

「民間の試算によれば、90年合意以前の通信・放送衛星等の実利用衛星については、気象庁の気象衛星「ひまわり」、NHKのBS衛星シリーズ、NTTによる CSシリーズなど、総額2000億円以上が国内企業から調達されていたが、90年合意以降の政府調達については、1機を除いて全て海外の衛星メーカが受注している。」

元○○電気の中の人は,人工衛星が売れなくなったのは「○○重工がロケット打ち上げを2度も失敗するからだよ!」とか言ってたんですが,それ以前に官需が失われたのが大きかった。そのため,今お空を飛んでるISSの「きぼう」モジュールを作った人たちは,仕事が無くなって転職して私の同僚になっていたりするわけ。

2.日本の宇宙開発計画が全部筒ぬけ

「90年合意においては、我が国政府は毎年、研究開発衛星の開発計画を含む「宇宙開発計画」を官報告示することが義務付けられており、さらにその区分に疑義が生じた場合、米国政府は日本に協議を開始することができることとなっている。」

そもそもどういう約束なのかは,JAXAの宇宙法を参照されたし。
非研究開発衛星の調達手続(日本、1990年6月14日、抄録)
http://www.jaxa.jp/library/space_law/chapter_4/4-1-2-1_j.html
http://www.kantei.go.jp/jp/kanbou/13tyoutatu/huzokusiryou/h2-14.html

「つまり、安全保障に資するもの等を除き、この「宇宙開発計画」に掲載していないものは全て国際公開入札であり、官報掲載により国際入札が免除された研究開発衛星についても、米国からの「発意」によって協議が開始される。その過程においては、協議に必要な衛星のスペックなどは、我が国から米国に提供されることとなるため、極論すれば、米国は我が国の衛星について、その詳細までも常に知りうる立場にある。また、我が国の宇宙開発計画に対して、大きな影響力を及ぼすことが可能となっている。事実、90年合意以前に予算認可済みであった CS-4衛星については、米国協議によりNTTのN-STAR及び当時宇宙開発事業団(NASDA)のCOMETSに分割され、非研究開発衛星とされた N-STARは海外メーカに落札された。また、進行中であったBS-4計画は頓挫することとなった。さらに、2002年に打ち上げられた衛星間通信を行うデータ中継技術衛星「こだま」についても、非研究開発衛星に区分されるべきとする米国側の主張により、最終的には研究開発衛星と整理されたものの、その協議の過程において、衛星の詳細なスペックを米国に知らしめる結果となった。」

つまり,JAXAが衛星を開発するたびに日本はその仕様書を米国に提出してんのね。

3.そしてガラパゴス化する国産衛星

「(JAXAは)研究開発機関としては、90年合意を気にするあまり、「非研究開発」と指摘される可能性のある部品やセンサーをできるだけ少なくした設計へとシフトし、必要以上に新規性を追及してしまう。将来の実用化のためには、新規開発要素が少なく、同じ部品やスペックの衛星を繰り返し打ち上げることにより実績を蓄積するという信頼性の向上が最も重要であるにもかかわらず、リスクの高い新規要素を多く含んだ衛星設計とせざるを得ない。また衛星のシリーズ化についても、同じ型式を採用してしまえば、必然的に新規開発要素が少なくなり「非研究開発衛星」として日米協議が始まる可能性が排除できないため、躊躇してしまうのが現状である。」

つまり,JAXAはコンベンショナルな設計が許されてないんだそうである。いやもうダメダメじゃん。

日米構造協議とか

こっちについては,民主党の長尾たかし議員の記事がまとまっている。読んでもらえばわかるように,自民党議員だと書きにくい内容になってる(笑)。
http://blog.goo.ne.jp/japan-n/e/4d1cbde08e1d95d4724137f519d1193b

SFCの青木節子が「日米衛星調達合意については、終了の好機を逃した感がある。」といっていたのは,たとえばMDをバーターにして解除してもらう。とか,まともに交渉する気さえあれば,いろいろとチャンスがあったよねーという話だとおもう。
http://spacelaw.sfc.keio.ac.jp/archive/executivecommentsj.pdf

以下は世界日報の記事,読んだ範囲では青木節子の論考をうまくまとめた感じ。
http://senichi-club.jp/modules/news/article.php?storyid=1849
ただ,これよむなら元の論文集のほうがお勧めかも。
http://spacelaw.sfc.keio.ac.jp/paper.shtml

まとめるとこうなる。
・この不平等条約を飲んだのは,土木のほうが議員の利権が大きかったから。
・条約の解除の交渉をしないのは,MDと上記合意とかをセットで交渉するひとがいないから。でもってまた,MDの利権も大きいから機嫌を損ねたくなかったんでしょう。
・JAXAの主務官庁の文科省にしても,商用衛星は通産マターだからカンケーネーっていうかんじですか。

青木氏の論文を読むと「国益,国益・・・」ってうるさいんだけど,そこらじゅうに国益無視して利権をむさぼる方々やら省益優先な方々がおるので,どうしても,そうなるんでしょうね。

ちなみに同じような条約は中国も交わしていたんだけど,ロラールの中国への衛星インターフェースの機密漏洩を理由に米国議会で問題になって破棄しちゃったそうです。
(ソースは失念)

ガラパゴス化するのは結局のところ環境圧力によるものなわけだけど。まあ,それにしても,良く生き残ってるものだなと。
http://www.isas.jaxa.jp/ISASnews/No.331/ISASnews331.pdf

で・・・ どうするの?

SFC青木節子教授は,同合意を終了し,WTO政府調達ルールに移行する。という意見
http://spacelaw.sfc.keio.ac.jp/WP77.pdf

筑波大鈴木一人准教授は,同合意の解釈を変更し,調停時のリスクの高いWTOではなく,バイラテラル(2国間交渉?)にすべし。との意見。
http://scienceportal.jp/HotTopics/interview/interview20/

いっそ。日本のメーカーがロラールを買収するというのはどうか。

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海軍に入るくらいなら海賊になった方がいい -- Steven Paul Jobs

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