okkyの日記: 日本のEducationプログラムがうまくいかない理由の一端がわかった気がする 10
「不合理だからすべてがうまくいく」by ダン・アリエリー という本を読んでいる。
「予想通りに不合理」という本の著者の2冊目(なのかな?)。
読んでいて、「あぁ」と思った。なぜ日本においてうちの社員/パートナー教育プログラムがうまくいっていないのか、その理由の一端がわかった気がする。
この本は行動経済学についての本。特に、人間が不合理な判断を下す瞬間とその傾向をバシッととらえて説明してくれる。
「第一部」はすごく乱暴に言うと「自前主義はなぜ起こるのか」。
あるいは「自分が作ったものに対して人間はなぜ愛着を持つのか」と考えてもいいし、「一方的に教えられるだけだとなぜ人は素晴らしい速度で忘却するのか」と言い換えてもいい。
ようするに、人間は自分が手を動かして完成させたものに対してすごく愛着を持つ。途中で取り上げられたり、どうしても完成できなかったりすると、そのものに対して愛着を持てない(時には反感さえ覚える)。これはモノだけじゃなくアイディアだったり知識だったりについても同様だ。そして、愛着をもった物/事/人については良く覚えている。そうじゃないとすぐ忘れる。
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で。実は私が働いているEMCでも社員教育とか、パートナー教育とかお客様教育プログラムというのがある。アメリカと日本では似たプログラムを実施していて、実際教科書レベルでは違いはない(いや、日本でやるものはちゃんと日本語に翻訳してあるけど)。教える内容は、もちろんEMCの製品に関連する話だけれど、もっと基本的な、普通の技術的知識も教えている。
ただし、1つだけアメリカと日本では違うポイントがある。
アメリカは、どのプログラムも大抵1週間=5日コースになっている。日本は3日コースになっている。これは日本のお客様が必ず 5日は長すぎる、半分にならないか とケチんぼなことを言ってくるのに合わせちゃったためだ。
教科書の内容を省くことはできないので、大抵の場合演習とか、実習が省略される。全くやらないわけじゃないけれど、課題がいくつかスキップされていたり、自分がやった手順を見直す…的な内容が削られている。
結果として、日本で研修を受けた人は、教科書に少し落書きをしたものをもらって帰る。
アメリカで研修を受けると、教科書に落書きをしたものだけじゃなく、研修の実習で自分が作ったシェルスクリプトみたいなものも持って帰れる。
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この両者に、その後うちの製品を触ってもらう。
「こう言うことをやりたいんですけれど」
「あぁ、じゃぁ、手順はこれこれこうこうこうですよ」
与えられる情報までは一緒。ところが。
日本で研修を受けた人は、手順をちゃんと再現できない。
なぜか知らないが、おかしな具合に手順がスキップされる。それもかなり最初のほうをスキップするので、必要なファイルが存在せず、あるポイントから後ろのインストールが全滅する。
のみならず、全滅したときに出てくるメッセージ
「君がやった bbb は失敗した。aaa をやってからもう一度 bbb を実行してくれ」
を読まない。読まないで「成功した」と思い込む。で、先に進んで先に進んで…
「君がやった zzz は失敗した。 yyy をやってからもう一度 zzz を実行してくれ」
まできて、ようやっと問題に気がつく。
判ると思うけれど、ここから yyy→xxx→www…ともどって行くのは大変だ。時間もかかるけれど、それ以上に stack 状になった問題をどこまで roll back すればいいのか判らない。たとえば kkk でエラーが出なかったとしよう。でもそれは aaa から jjj まで全部が大丈夫だったという意味じゃない。たまたま kkk は aaa から jjj までのうち問題がなかったものだけで出来ていたということに過ぎない。だから、jjj, iii …と戻り続けるしかない。全然先が見え無い。
見えないが、じゃぁ、最初の aaa からやり直すと…いや、それさっき間違えたでしょ?
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ところが。
アメリカで研修を受けてきた人たちは、このミスが無い。
彼らは手順をシェルスクリプトみたいなもので書いてきて
「こんな感じ?」
と聞いてくる。多分、本当にそのスクリプトを実行しているんじゃないかと思う。
そりゃ手順通りに書かれたスクリプトを一発でGO!ってすれば、問題は起こらんわな。
というか、実際にはこの手の処理って、
1. 変更前確認
2. 変更
3. 変更後確認
という手順を繰り返すんだけれど、この手のスクリプト化をする人たちって:
- step a 変更
- step a 変更後確認
- step b 変更前確認
の3つを1セットにした関数を1つ実施しては画面に出ているものを確認し、
- step b 変更
- step b 変更後確認
- step c 変更前確認
の3つを1セットにした関数を1つ実施しては画面に出ているものを確認し…的なことを繰り返す。(そこまでできてるなら、Expect使って(あるいは Expect ライブラリを使って)、エラーチェックも自動化しようよ、もう一息だよ。頑張れ。できたらコピー頂戴)
多分、アメリカで研修を受けたときにもらったスクリプトを改善し続けているんじゃないかと。
これは別に社員だろうが、パートナーだろうが、お客様だろうが、傾向が変わらない。
どのコースを受けようが(つまり先生が誰になろうが)変わらない。
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違いが教える側にあるとは思えない。あるとすれば省略された研修。研修で「モノを作り」それを「持って帰れる」事。
これがあると、「もって帰った物」を愛着もって改善し続けるし、そのための知識は忘れない。
これがないと、教わった知識まで忘れる。
今まで、同じ学習量により多くの日数をかければ繰り返し学習がより強力に働くから、学習効率が良くなるのだ、とだけ思っていたが。どうやらそれだけじゃないみたいだ。
授業で受けた知識を使って、モノを作らせる。簡単すぎても駄目だけど、ほぼ確実に完成させられるものをつくってもらう。それを持って帰れるようにする。これって、その後の学習効果にものすごく影響があるんだ…
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じゃぁ、なにか製品を売る場合も、同じような経験をしてもらうと愛着が増す = 満足度が上がり、価値が上昇するってことか…と思ってたら、そういう例は書いてあった。
なるほどな。もうちょっと自分の過去の体験とか他の人に教えたときの経験とか、思い返してみる価値がある指摘だと思う。
単に気合の差だと思うけど… (スコア:3, 興味深い)
行動経済学とかそういうレベル以前に、単に「海外に行って研修を受ける」っていうのが普通に刺激となっているのでは?
日本で研修受けているといつポケベルで呼び出されるかわからないし、なんだかんだで研修の後にデスクに戻ってしまったりして。
海外でその辺がシャットアウトされるのもそうだし、アメリカで研修受けた時は研修所の中で朝食まで食べれる食堂があって、ある意味ドップリと「研修漬け」になれるし。
もうちょっと高い視点から見れば、「研修」というものの価値を日本の経営者たちは理解してないって事じゃないのかな。
---- ばくさん!@一応IT土方
Re:単に気合の差だと思うけど… (スコア:2, 興味深い)
いつもごひいき頂いて、ありがとうございます(^o^)。
確かに「海外で研修」はそれ自体刺激ですね。
研修を受けさせる人を選ぶ側の基準も厳しくなるでしょうし(交通費がべらぼうに高くなりますから)、それを突破したわけですから、そもそも優秀でしょう。
それにアメリカだと授業の終了時刻はわざと早い目に設定してあって、観光にいけるようにしているからなぁ(楽しい思い出と研修内容をペアリングすると、記憶力が高まり、満足度も向上する。なので観光にいけるようなスケジュールにした方が効果的なので、わざとそうなっている)。日本だと早く終わったら一旦オフィスに戻るから苦痛と研修内容がペアリングされちゃう。
そういったバイアスは、確かに除去できていない。
しかし、そのバイアスを除去するのはお金がかかるなぁ(アメリカで3日コースを受けさせたり、日本で5日コースを受けさせたりしなくちゃいけない。日本は3日コースばかりなので、機材自体が不足していて、それに合わせてマシンルームがデザインされているので、床面積と給電設備が不足していて…)。
何か、いい実験方法はないかなぁ。
fjの教祖様
「5日は長すぎる、半分にならないか」も (スコア:1)
行動経済学と言えば「5日は長すぎる、半分にならないか」も素直な 双曲割引 の発露で
目前の節約の評価が長期的な成果の評価に勝ってしまうから…なんてことは…。
参考:
「誘惑される意志 人はなぜ自滅的行動をするのか」 [amazon.co.jp]
ジョージ・エインズリー 著、山形 浩生 訳、NTT出版 (2006/8/30)刊
ISBN-13: 978-4757160118
(今読んでます。表紙のラブリーな「後悔する白クマ」写真が目印w)
やってきたものがうまくいかず頭抱えてたところかっさらわれた結果 (スコア:1)
格好つけてかっさらって行った人に対し全力で反感を覚え、3ヵ月後に精神科医の前で号泣するようになりました。それからもう7年か。
KyaTanaka
Re:やってきたものがうまくいかず頭抱えてたところかっさらわれた結果 (スコア:1)
「ソフトウェアは段階的に完成させよ」
という警句があります。あまりにも巨大なものを一気に作ろうとすると、完成前に燃え尽きる。
完成までにかかる時間が延びれば延びるほど、この傾向は高くなり、パフォーマンスが下がり、失敗率は上がる。
経営判断的には、途中でサポートを入れたり他の人にやらせるしかなくなるが、それはつまり途中で手を出されたりふんだくられたりするって事で、当人は頭にくる。
しかし特にソフトウェアは形がないので、いつが完成なのかよくわからない。だから「ここ」という区切りを明確に切ってあげないと倒れてしまう。
研究職なんかも、研究テーマは1つにしない。3つぐらいは持つ。1つだけだと燃え尽きる。なかなか完成しないし、他の人が完成させて発表してたりするとショックだ。
3つあれば全部一気に失う事はない。切り替えるタイミングで
- 今まで完成させた事
- 今後のテーマ
の2つをまとめておくので、区切り感というか「部分的達成感」を味わえる。これら swap out中のテーマは、横取りされてもさして苦痛ではない。
# 私も結構な数のアイディアを盗られているけど、まぁどうせ手を付けられなかったものなので、あまり痛くない。
# どちらかというと、やった人に対して「よくやった。でも、もうひと押し。ここをどうにかしてくれまいか…」的な要求が…
人生は「1つでは多すぎる、最低3つはないと」ばかりなのかもしれない。
fjの教祖様
Re:やってきたものがうまくいかず頭抱えてたところかっさらわれた結果 (スコア:1)
某OEM製品のOEM契約から始まって、技術評価、拡販といった仕事なのですが、拡販がうまくいかなかったところでかっさらわれたのです。しかもその時点でこの仕事自体が、敗戦処理であることを明らかにされたというショック…敗戦処理なら最初から敗戦処理って言えよ!
あ、思い出したら涙出てきた…。
KyaTanaka
Re:やってきたものがうまくいかず頭抱えてたところかっさらわれた結果 (スコア:2, 参考になる)
OEM契約はちゃんと結んだし、技術評価もしっかりできたのでしょう?
この2つは技術力がものを言う世界じゃないですか。
これに対して拡販は技術力じゃない。それはある程度しょうがないのでは?
というか、3つの課題の内、最初の2つをちゃんと完成させているのです。
この2つは one and only な能力がものを言う。
でも、そこから先は物量作戦が正解。
そういうのが得意な人に押し付けても構わないのではないかと。
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もしこれが自社製品なら、営業においても技術力で押す事が出来ます。
でも自社製品ではない場合、お客様は「あなたの会社の技術力」を買っているわけじゃない。
この場合、KyaTanakaさんの技術力がいくら高くても、お客様の購買意欲にはつながらない。
お客さまにとってKyaTanakaさんの技術力は「風邪薬」ですもの。何かあった時のための常備薬であって、
プラスの価値には数えられない。
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どちらかというと舌先三寸な人の方が購買意欲を掻き立てるのには有利 = 技術者には不利。
しかも、各お客様に張り付いてないと駄目なので、人数が必要。
で、そういう人を沢山雇うと、当然上がってくるレポートも結構嘘まみれになる。
レポートのウソを見抜き、でも問題対応に直接影響がないなら無視する… 内海課長のような性格が必要になる。
KyaTanakaさん、内海課長みたいになれます??
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KyaTanakaさんは後藤隊長になる方が向いていると思いますよ。
fjの教祖様
昔を思い出してすごく納得したのココロ (スコア:1)
> KyaTanakaさん、内海課長みたいになれます??
> KyaTanakaさんは後藤隊長になる方が向いていると思いますよ。
掲題の製品の仕事より、某C*の障害火消し部隊をしていた時の方がずっと生き生きしていたような気がする私。障害解析が後輩の手で足りるうちは後輩に任せ、後輩が判らなくなったら解析手法を考えて指示。掲題の製品のOEM契約も押し付け合いになっての尻拭いだったなぁ、事実上。
そういう点で、ナイフはさほど鋭利じゃないし、昼行灯も装ってるんじゃなかったし、影でこそっとサポートしてくれる強い味方(大先輩)も必要だし今でもその人に頼ってるけど、不器用でレベルの低い、後藤隊長タイプなのかもしれませぬ。
「みんなで幸せになろうよー」
あー、Emotion the bestのパトレイバー買お。
KyaTanaka
Re:昔を思い出してすごく納得したのココロ (スコア:1)
後輩に、小さな目標をいっぱい与えて、小さな成功をいっぱい経験させて、自分が持っている技術に愛着を湧かせる…
うむ。君には教育者としての才能がある。「行動経済学」を勉強したまへっ
(きっと、ダン・アリエリー教授ならそういう)
fjの教祖様
Re:昔を思い出してすごく納得したのココロ (スコア:1)
日記本文の本を2冊ともぽちった(笑)
なんかokkyさんにうまく乗せられた気がしなくも無いが、その結果私に知識→知恵が身について私を筆頭とした周囲のみんなが幸せになれるならプロセスは気にしない(笑)4000円なんて安い投資ですしね。
KyaTanaka