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route127の日記: ナトリウムイオン電池

日記 by route127

2011/03/03付の日刊工業新聞23頁にナトリウムイオン二次電池についての記事があったらしいが元記事に当たってはいない。
東京理科大学理学部の駒場による研究らしいのでちょっと調べてみた。
新聞記事では鉄の化合物を正極材料に使用した例が載っているらしいのだが、調べた情報だとNiを使っているのでwebの資料はすこし情報が古いかもしれない。
去年、おととしあたりから、ハイブリッドカーや電気自動車で二次電池開発が熱いというのはニュースで聞き知っていたが、あまりなじみがないしいまいちピンと来ずにいた。

現状のリチウムイオン二次電池が抱える問題点としては大きく2つ、リチウム資源の地域的な偏りによる調達リスクと正極材に使われるコバルトのコストがあるらしい。
後者の正極材料については、コバルトの代替としてニッケルやマンガン、リン酸鉄などによる研究が進んでいるとのこと。
今回の研究は正極にそもそもリチウムではなく同じ族のナトリウムを使うというもののようだ。
(イオン化傾向の高いマンガンやカルシウムのイオンを用いた電池の研究もあるようだが今回はそこまで調べなかった。)

ナトリウムの利点:
リチウムの持つ欠点としてはリチウム資源の地域的偏在がある。(ボリビアでのリチウム国有化問題等)
そういった観点から日本でも海水からのリチウム回収などが研究されてはいる。
ナトリウムは埋蔵量が豊富な上に入手性も高いといった特徴があるので、最近のレアアースフリーの流れからから言っても魅力的な材料である。
また負極材の母材はリチウムイオン二次電池では銅箔だが、ナトリウムイオン二次電池ではアルミ箔が使えるのもコスト低下要因らしい。

技術的課題:
リチウムよりもナトリウムの方が比重が高いので、重量当たりのエネルギーは低くなってしまうのをどう補うか。
またイオン半径がリチウムより大きいためグラファイトへのインターカレーションがうまく行かない。
その解決策として、負極材をグラファイトではなくハードカーボンへと変えることで技術的課題を克服したらしい。
もともとリチウムイオン二次電池でも負極材としてハードカーボンを使っていたらしい(1990年代のSONY等)。
しかし、ハードカーボン負極は放電電圧が一定に下がり続ける特性を持つため、周辺回路のコストが高くなることから電圧が安定しているグラファイトが負極として用いられるようになったという背景がリチウムイオン二次電池の歴史としてはあったようだ。

今回の研究の眼目:
結局のところ、実用に足る負極材、正極材、電解質の組合せを見つけました!ということなのだろう。
こう書くとなんか寂しい感じもする。
でもこの組合せを見つけるのもさぞかし大変だったのではないかと思うが、最近は二次電池設計CADなんてのもあるし、多少の労力軽減はできるのかも。

インターカレーション(intercalation)という用語について:
耳慣れない言葉であったので調べると原義は太陽太陰暦における閏月のことらしい。
今回の用法ではグラファイトの層間にイオンが潜り込むのを指して使われている。
文書によっては吸蔵と語を当てているのも見られたが、水素吸蔵合金などでは普通にstrageが使われているようだし・・・
DNAインターカレーション等薬学や高分子化学などでは使われる用語ではあるようだ。
電気化学では昔から使われている用語だったのだろうか?

なーんてことを調べながら書いてたら住友電工がナトリウムイオン電池を開発というニュースを聞いてたまげた。
というか「ナトリウムイオン電池」という書き方をしているのは株関係のニュースで他はもっと慎重な書き方をしている気がする。
住友電工のプレスリリースでも溶融塩電解液電池と書いていて、動作機構としてはNAS電池に近い感じに思える。
NASは動作温度が300度程度であるのに対して、今回のは動作温度が57度ということでかなり使いやすくはなっているのか。

参考にしたページなど:
eetimesによる記事 動作機構の説明が分かりやすい http://eetimes.jp/column/4082
JSTによるナトリウムイオン電池の説明 http://www.jstshingi.jp/abst/p/10/1028/tus6.pdf
分析展2010に出展していたらしい http://blog.livedoor.jp/uranoon-off/archives/882300.html
理科大のリリース http://www.sut.ac.jp/tlo/patent/topics_03.html
日本ガイシによる英国NAS電池プロジェクト http://www.ngk.co.jp/product/insulator/nas/index.html
(財)建築コスト管理システム研究所によるNAS電池資料 http://www.ribc.or.jp/research/pdf/report/report21.pdf
インターカレーション http://en.wikipedia.org/wiki/Intercalation_(chemistry)
インターカレーション http://en.wikipedia.org/wiki/Intercalation
インターカレーション(wikipedia)

おまけ:
wikipediaのリチウムイオン二次電池の項から正極材、負極材および電解質を年表にまとめてみた。
-----+------------------------+--------------+--------------+--------------
年代      人物        正極      負極     電解質
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1970s M. Stanley Whittingham Li         硫化リチウム
1980s NTTショルダーホン             リチウム
1980  J. B. Goodenough    Li遷移金属酸化物
1981  三洋電機                  黒鉛
1985  吉野           Li酸化物     ポリアセチレン 非水系電解質
1986  吉野           Li酸化物     グラファイト  炭酸エチレン
1990  ソニー          Li酸化物     ハードカーボン
2010  駒場           NaNi0.5Mn0.5O2 ハードカーボン 炭酸プロピレン

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犯人はmoriwaka -- Anonymous Coward

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