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203320 journal

uruyaの日記: あなたの人生の物語 / テッド・チャン

日記 by uruya

あなたの人生の物語 / テッド・チャン
★★★★☆

バビロンの塔
エラムの鉱夫ヒラルムたちは、バビロンにそびえる塔へ向かっていた。目的は、天の丸天井に穴をうがつことである。
塔は文字どおり、天に届いていた。地上からてっぺんまで登るには、外周に設置された階段をつかって四か月かかる。荷担ぎ人夫たちは、ひとグループ四日の道程をテリトリーとし、バケツリレー方式で物資を上へ上へと運んでいる。ヒラルムらは、人夫たちに混じって旅をつづけ、塔の頂上へたどりついた。するとそこには、まさにこの世の終端を示す丸天井が、蓋のように広がっていた。

理解
レオン・グレコは、厚い氷の張った水中でおぼれ、一時間後に救助されたときは脳に深刻なダメージを受け、植物状態となっていた。彼を生き返らせたのは神経細胞を修復する新薬、ホルモンKのおかげである。しかし治療を続けるうち、ある副作用が見つかった。レオンの知能が驚異的に発達してきたのだ。ホルモンKには、脳へのダメージが大きかった患者ほど、知能を増幅させる作用があったのだ。やがてCIAが彼に目をつけるが、協力させられることを嫌ったレオンは獲得した頭脳を利用して脱出し、内的研究にふける。その興味はあたらしい言語を考案することにある。彼の思考はすでに、既存の言語で表現できる限界を越えてしまっていた。

ゼロで割る
数学者レネー・ノーウッドは、入院させられていた精神病院を退院する。生物学者の夫、カールが身元引受人だ。実はカールも遠い昔に入院歴があり、それを克服したのはレネーの助けがあったからだ。ふたりが出会ったのは、まだ学生のころだった。
事の起こりは、レネーがまったくあたらしい数学の大系を発見したことにある。それは、形式的理論を無にするものであった。

あなたの人生の物語
自分の娘に話しかけているらしき女。モノローグであり、話しかけている相手の娘がどのような状況にいるかは不明。内容は、これから未来に起こる娘との思い出について。
異星人が地球各地百十二箇所に設置した通信装置、ルッキンググラス。その装置は、大きな樽の円周に七本の脚と七つの目を配置した生物ヘプタポットを、まるで目の前にあるかのように映し出す。地球人類は、個々の装置に言語学者と物理学者のチームを配置。合衆国の牧場に設置されたひとつには、ルイーズ・バンクスとゲーリー・ドネリーがその任についた。ヘプタポッドたちは非常に協力的であったが、向こうから何かを知ろうとするような行動はしない。やがて、彼らの使う表義言語〈ヘプタポットB〉を研究していたルイーズに、ある変化があらわれる。

七十二文字
十二文字×六行のヘブル文字を組み合わせた「名辞」を埋め込み、無機物をオートマトンとしてプログラムどおりに動かすことのできる世界。「オートマトンを作るオートマトン」の名辞を考案したことでウィロビー親方ににらまれている命名師、ロバート・ストラットンは、フィールドハースト卿に招かれる。そこには恩師アシュボーン師もおり、次のような説明を受ける。
胎児を急激に成長させて精子を取り出し、次の胎児を得る方法が発明された。ところがその技術によって世代を進めていくと、必ず五世代後に生殖能力を失ってしまう。つまり、人類は五世代のちに絶滅する運命なのだ。問題は、五世代の長さがその家系によって違うことである。ゆるやかな滅びに気づいた人々は必ず暴動を起こすだろう。そこで我々は、有機物からオートマトンを生み出す方法を研究している。経血から卵子を採取し、名辞の書かれた針を埋め込み単性生殖を可能とする研究だ。将来、不妊治療に訪れた女性にこれを施せば、人類は絶滅を免れるであろう。協力してほしい。

人類科学の進化
人類へ向けた論文。
超人類があらわれてのちの人類科学は、彼らが作り出し、彼らのみが真に理解できる新言語を翻訳し、後追いするのみになってしまった。

地獄とは神の不在なり
ニール・フィクスは天使の顕現により妻セイラを失った。その世界では、天使は天災と同様に、唐突にその巨大な姿を世界中のどこかへあらわし、いくつかの人間には救済を与え、それよりも多くの人々に逆向きの奇跡と災厄をもたらす。セイラは、天使ナタナエルが立ち去る際に放った波動で割れたガラスに切り裂かれ、短時間に多くの血を失って死んだ。
ニールは天国にいるであろうセイラに再開するため、ある計画を立てる。再開したい相手が地獄にいる場合は簡単で、自殺すればよいのだが、天国にいる場合はそうはいかない。しかし、天使があらわれる際に放たれる稲妻は、それに打たれた者のすべての罪を許し、どんな罪を犯そうとも天国へ行けるのだ。たとえそれが自殺の罪であっても、ニールは天国へ行けるだろう。

顔の美醜について─ドキュメンタリー
ナノマシンによって脳へ擬似的な障害を与え、美醜の判断を失認させる“カリー”。美醜差別をなくす目的で、親が子供に施術したり、教育現場で使用される例があったが、賛否がある。ある大学で、入学の条件として強制的に“カリー”を受けさせる規則を作る案に対し、学生投票が行われることになった。賛成論者、反対派、さらに「美」を商品として扱う広告代理店の陰謀なども含み、論争がまき起こる。
これは、関係者の証言をあつめて構成されたドキュメンタリーである。

─────

『バビロンの塔』
なんとなく星新一を連想。

『理解』
あ、これは俺の琴線にビビッときた。高度に発達した科学による呪術ですよ。この手のに弱い。
そしてこの時点で感じたビリビリは、ほぼ全体に存在することに、読み進んでいくうち気づいていくのであった。

『ゼロで割る』
数学をガジェットとして使ったヒューマンストーリー、でしょうかね。

『あなたの人生の物語』
これはすばらしい。オールタイムベストに挙げられるのも納得の傑作。タイトルの秀逸さもさることながら、異文化コミュニケーションとフェルマーの原理から敷衍し演繹して○○○○○○○○の人生を描くとはどういうことだろうか。この物語のすごさは何だ。いったいどのような思考をすればこの物語が生まれるのだ。感動すら覚えた。

『七十二文字』
これも言語による呪術ですね。たった七十二文字を組み合わせることで、いくつもの意味を持たせることができる。命名師とはつまり非常にリソースが限られた状況下のプログラマであり、ゲノム解析者でもある。

『人類科学の進化』
四ページの疑似論文ショートショート。これも『理解』『あなたの人生の物語』のように超自然言語を扱っている。

『地獄とは神の不在なり』
まったくもって意味不明な神の存在。でけぇ天使がいきなりあらわれて迷惑極まりない。トンチンカンな奇跡。地獄の顕現と言っても、地獄に落ちた人たちはまったく普通に暮らしてる。そんな神に対する信仰心の持ちようを模索する人たちが出てくるお話。あまりにナナメ上な神の描き方に笑った。宗教信仰を強烈に皮肉ってるように読めました。ヤハウェの三宗教文化圏から見たらどう読めるのかわかりませんが。

『顔の美醜について─ドキュメンタリー』
外見で判断するな、とはよく言うけど、なかなかできることじゃない。じゃあ美醜をわからなくしてしまえばいんじゃない?という話。外見にコンプレックスを持ちがちな人や、障害者には強力な武器になる。一方で対人関係の発達阻害や、芸術的分野における影響も懸念される。そんな思考実験。“カリー”をはずして自分の美しさに気づいた女子大生の話が軸。

俺の中のセンスオブワンダーをガンガンに刺激してくる作品が詰まった、濃厚な作品集でございました。おいしゅうございました。

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