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von_yosukeyanの日記: ボンバルディアとエンブラエル

日記 by von_yosukeyan

かつて、航空機業界で世界トップだったのはボーイング・コーポレーション(BA)だった。しかし、2004年現在世界最大の航空機生産メーカーは、ついこの間協同組合から株式会社に転換したばかりの非公開多国籍企業体エアバス・インダストリー社で、マグダネル・ダグラスを吸収したにも関わらずボーイングは世界第二位、そして第三位はカナダのボンバルディア社、そして第四位はブラジルのエンブラエル社である

日本ではほとんど無名に近いボンバルディアとエンブラエルだが、両社が現在の地位につくまでにかかった期間はわずか10年足らず。15年前には、ボンバルディアはコミューター航空向けのターボプロップ機とビジネスジェット機を生産する企業に過ぎなかったし、エンブラエルに至っては多額の負債を抱え、恒常的に赤字を垂れ流す第三世界の国有航空機メーカーに過ぎなかった

ボンバルディアとエンブラエルが主力にするのは、リージョナルジェットと呼ばれるカテゴリの航空機である。乗客数100名以下が搭載可能な中短距離の双発リアジェット旅客機で、このカテゴリの航空機が誕生したのは1990年代初頭のことである。従来、旅客需要はハブ空港を拠点とする基幹航空路に、(北米)大陸横断が可能な中型ワイドボディ機(いわゆるエアバス)や、大型ワイドボディ機(747などジャンボジェット機)を投入し、地方路線には燃費の安いターボプロップ機を投入するのが一般的だった

90年代初頭、ボンバルディアは自社のビジネスエアジェット機技術と、コミューター用ターボプロップ機で培ったノウハウを結集して、コミューター路線に投入可能なジェット旅客機であるCRJ(カナディアン・リージョナル・ジェット)の概念を完成させる。航空自由化によって、米国では料金の安い新規参入航空会社が相次いで現れたが、これらは中小型の航空機を大量に採用し、競争が激しく利益率の低い基幹航路ではなく、利益率が高いコミューター路線を強化していったというのもボンバルディアのCRJ概念が受け入れられる余地があった。また、CRJはビジネスリアジェットの技術を流用して、地方路線でも採算性が取れる低燃費なジェットエンジンを採用することで、「低速で騒音の大きく、座席が狭い」という地方路線乗客の不満を解消させることができた

ハブ空港のような大都市から離れた航空拠点ではなく、都市に近接した小規模空港にリージョナルジェットを就役させ、都市間航空重要から零れ落ちていた需要を拾うことができる、という点でもリージョナルジェットは熱狂的に受け入れられていった。中型機が就役していた路線でも、採算性の問題から就役本数が少ない路線でも、キャパシティは低いが本数の多い小型機を投入することで需要を喚起できたという点もある。つまり、リージョナルジェットは航空機産業史では時折現れる市場の転換点、すなわち「新技術と新機種の投入によって新たな市場を創出する」ことに成功したのだ

こうして、ボンバルディアはCRJによって急激に成長していった。ビジネスパートナーとしても、米国のエンジンメーカーや日本のアビオニクスメーカーや機体コンポートメントメーカーがパートナーとして加わり、また新興のエンブラエル社が市場に参入することで市場自体も拡大していった。そして、両社はボーイング737やMD-81/90など大手航空機メーカーが独占していた100人乗り前後の市場にも新型機種を投入し、既存メーカーの市場も脅かしはじめた。ボンバルディアのCRJシリーズも、エンブラエルのERJ/EBJシリーズも、それぞれコックピットのデザインや操作体系が統一され、最新のグラスコックピット技術やフライバイワイヤを採用することで、異なるクラスの機種でも操作体系は同じであり、機体の相互互換性も高い設計になっている。これは、エアバスが中大型機市場で成功したのと同じ成功である

一方で、大型機の需要はエアバスがA340/A330のような747に匹敵する大型機を投入して競争が激化する一方で、既存の基幹航路にも航続距離を延長した中型機が投入されるようになってきた。国際航路でも、老朽化した大型機を大量に抱えた先進国のナショナルフラグの地位が低下する一方で、10年以内に機体を売却して常に最新機種をそろえる新興国のナショナルフラグが急激に市場を制し、航空会社にも二極化が進んだ

ボーイングは90年代後半に収益を増やしていったが、新規機種の開発に資金をほとんど投じず、主にリースなど金融部門の収益比率が高くなっていった。既存機種の改良による新機種投入が一般化し、機体の相互互換性や、派生機開発でも遅れを取った

現在、ボーイングやエアバスのような中大型機で有名な二社でも、生産される航空機の大半が、従来サブカテゴリの地位にあった737やA320/321/319/318といった中小型機である。エアバスA380やB747advancedのような超大型機開発も、既存機種との互換性を重視したものになり、コンコルドの後継の超音速機といった新機種は、燃料価格の高騰や911テロ後の世界情勢ではマーケットシェアが疑問視されるようになって久しい。そして、国内の航空機関連メーカーも、従来の三菱重工や川崎重工などの大手メーカーをプライマリーとして巨大な下請け構造を集合させた官製のプロジェクトで、完成航空機を開発するよりも、海外の大手航空機メーカーに優れた自社の技術やコンポートメントを輸出するのが一般化している。結局、YS-11以来の国産航空機開発の夢は、国民や官僚の期待の高さと反比例して空回りしつづけるだけだった

もちろん、ボンバルディアもエンブラエルも順風満帆というわけではない。小型機メーカーが大型機を新規に開発するのは、エアバスが中型機から大型機にスケールアップして行くの苦労していったのと同じように、資金や技術面で難しいし、逆にボーイングやエアバスのような大型機メーカーは、資金面でも技術面でも小型機市場に逆襲をかけるのはそう難しくはない。エアバスが中国にA320シリーズの主翼生産設備を技術移転したのも、小型機開発に労働力が安価な中国を活用する布石とも考えられる(エアバスは数年前にも小型機開発で中国と新型機の共同開発構想を持っていた)。また、ブラジルよりもさらに安価な航空機生産が可能なロシアの航空機業界が、冷戦後の経済混乱からようやく回復しつつあり(ウクライナはまだ混乱期にある)、エンジンに西側のGE製やロールスロイスといった一般的なものを搭載した小型機が登場している

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ナニゲにアレゲなのは、ナニゲなアレゲ -- アレゲ研究家

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