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von_yosukeyanの日記: エアバスA350

日記 by von_yosukeyan

エアバス・インダストリが、ボーイングB787に対抗して開発を開始した中型長距離ワイドボディ機エアバスA350の雲行きが怪しくなってきた

ボーイング社のB787は、周知のとおり低燃費なGE製GE nxエンジン(またはロールスロイス製トレント1000)を搭載し、機体構造の大半に炭素複合材を採用した長距離・低燃費中型旅客機である。この787に対抗して昨年エアバスが開発を表明したのが、A350である

A350は、A330の機体の基本設計を流用した形で、新設計の炭素繊維製主翼を採用するが、胴体は従来の金属製でA380にも採用されたアルコア製の金属・炭素繊維材接合技術を応用する。エンジンには、RRトレント1000かGEnxを搭載可能で、座席数はB787よりも若干多い。胴体にも大胆に炭素繊維を採用したB787に比べ、重量は重くなるが座席数が多いために、乗客辺りのコストではA350の方が有利であるというのがエアバスの主張である

このように、仕様的にはA350はB787の対抗という位置付けが強く、革新的技術を採用したB787と比べても、基本設計のA330と開発中の超大型機A380で開発されたテクノロジーを流用することで、開発費や開発人員を最小限に止めている点が大きな特徴となっている。その実、A330の改良版であり、元々はA330-200Liteと呼ばれていたほどだ

昨年末までの受注数は、確定+オプションの計で170機ほどと出だしは好調だったが、B787の受注数と比較しても半分以下であり、最近では受注数の伸びが鈍っている感がある。最大の要因は、B787と比較した場合のA350のキャビン面積の狭さで、特に未発注の航空会社だけでなく、発注済みの航空会社の中からも、座席の余裕が小さすぎるなどの苦情が寄せられている

決定的だったのが、最大発注者である航空機リース大手2社の首脳が、A350は再設計すべきであるとの声明を繰り返している点だ。おまけに、この問題はエアバス・インダストリ社内でも再設計派と流用派の間で意見が割れているという問題まである。仮に、再設計してA350を就役させるとすれば、B787の2年遅れとなる2010年前半に就役する計画が大幅に遅れることになってしまう

そして、A350の雲行きを危うくしているのは、ライバル機のB787のストレッチ機開発と、自社のA340との関係である。元々、A330の基本形であるA330-200は、A300の機体をわずかに短縮した胴体を基本に、A300/A310シリーズの代替と、より大型で長距離の飛行が可能である4発機のA340を構成し、エアバスの中大型ワイドボディ機の主力となっている製品である。しかし、ここに来てB777シリーズとの重複を嫌って開発に消極的だったB787の機体を延長したB787-10の開発をボーイング社が表明し、2010年には就役する計画が打ち出され、航空各社の注目が集まっている。A350でギリギリB787への対抗打を打ち出したエアバスだが、よりキャビン面積が広く、乗客一人あたりの運行コストが低いB787-10が登場すれば、同社が開発中で本年中に就役予定である超大型機A380よりも運行コストが安くなってしまう

さらに、ここ最近の原油価格の高騰によって、A340の受注が絶不調であることも大きい。A340のライバルは、ボーイングB747とB777だが、双発機で運行コストが安い777の受注数が伸びているのに対して、A340の受注数は十分の一に止まっている。ボーイングが本格的にB787の派生型の開発に乗り出せば、焼付け刃で開発を開始したA350の立場だけでなく、エアバスのワイドボディ機全般に影響を与えてしまう可能性があるからだ

ただ、ここでA350の再設計に乗り出せるかというとそれも微妙な問題になる。前述した通り、ライバル機であるB787の開発が先行しており、後だしになるA350を再設計するとなるとかなり大きな設計となる(先行機種よりも劣った期待では受注は集められない)。しかし、現状ではエアバスは社運を賭けた新機種であるA380の設計に手一杯で、そのA380も試験飛行スケジュールの遅延で引渡しが最低でも半年遅れることが確定しており、今年中の(ローンチカスタマーである)シンガポール航空への引渡しが微妙になりつつある。また、A350の開発費(およそ50億ドル)の三分の一が、エアバス出資国からの補助金で賄われることになっているが、この補助金を巡り米欧間で紛争になっている。再設計となると、この開発費がさらに高騰することになり、損益分岐点となる見込み販売数が拡大すると同時に、補助金の額もさらに増えることになるだろう

A350の開発自体、エアバスが今後も主要路線のハブ・アンド・スポーク型(拠点空港であるハブ空港と、目的地空港の乗り継ぎによって大量輸送を実現)の展開が継続し、超大型機の需要が存在するという前提で開発されたA380に対し、ボーイングが最終目的地を直結する航空需要が高まるという予想を元に、長距離を低燃費で飛行する中型機として開発したのがB787であり、それに対抗するという形で開発が開始されたという経緯がある。超大型機の需要予測を低めに見積もったボーイングは、新設計の超大型機の開発ではなく、昨年決定されたB747のストレッチ(胴体延長型)であるB747-8の開発開始に見られるように、社運を賭けたA380計画自体にも強力なライバルが出現しそうな雰囲気である。新技術による超大型機と、低燃費な中型機のどちらが新時代の航空機産業の主役となるのかはわからないが、米欧の二大軍事航空宇宙複合体の激突は、今後益々激しい火花を散しそうだ

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