パスワードを忘れた? アカウント作成
525757 journal

von_yosukeyanの日記: 公人のファンド投資 2

日記 by von_yosukeyan

中学生の頃に読んだので記憶は定かではないが、ジェフリー・アーチャー卿の政治小説FIRST AMONG EQUALS(めざせダウリング街10番地)の中で、ある保守党庶民院(下院)議員が、友人の不動産業者と会食しているとき、10ポンドの出資を求められそれに応じたところ、数年後に不動産会社が上場し巨額の含み益を得、政治倫理を問われるエピソードがある

アーチャー卿の政治小説では、未公開企業への投資が利益不正供与に当たることが問題だったが、日銀の福井総裁のMAC(村上ファンド)への投資問題は、それよりもさらに違法性という面では薄い話で、倫理を問うといっても問題の論点が定かではない。ボキュ自身は、福井総裁がMACに投資していたという話は、随分と前に何かの媒体で読んだことがあったので、公知のことだと思っていたが、どうも世間的にはそうではないようだ

問題点を挙げるとすれば

1)日銀総裁が投資ファンドに対して投資を行っていたこと
 1.1)日銀総裁就任後も投資を継続していたこと
2)投資を行ったファンドが違法行為を行っていたと疑われていること
3)日銀の量的規制緩和政策の転換が行われた時期に解約申請が行われたこと

の三つくらいだと思うのだが、まず1)の問題に関しては、投資時期が日銀総裁就任前の富士通総研勤務時の99年に行われている点からも法的にも同義的にも問題はないと思う。しかし、総裁就任後にも保有していた点は、いささか問題になりえる

2)に関しては、総裁がMACの違法行為を知りうる立場にあったか否かが焦点になるが、そうではないので問題にならない。しかし、3)の(日銀総裁在任中で)政策転換前に解約申請を行ったことが問題の核であるように思える

MACがどのようなファンドであるか知らないのでアレなのだが、一般的に考えればミーチュアルファンドやヘッジファンドのような投資ファンドは、一般の投資信託と異なり運用期間中いつでも解約できるような性質のものではない。あらかじめ定められた解約申請期間中に解約申請を行い、実際に解約されるのは期末の計算期間になる場合がほとんどだと思う。参議院予算委員会での答弁を流し聞きしたところだと、実際に解約計算が行われるのは今月末となるようだ

私人がどのような投資を行おうと自由であるし、政治家だろうと日銀総裁という公的な立場だろうと、金融資産を保有すること自体は法的にも倫理的にも責められる問題ではないと思う。むしろ、責めること自体が反自由主義的なコミュニストの発想である。そういった点で、民主党平野達男氏(岩手県選出)の質問はマジでどうでもいい話のように思える(彼の質問はどうも支離滅裂で何が言いたいのかさっぱりわからなかったし、キャピタルゲインと課税所得を混同していてるので、そもそも質問に立つべきではないと思った)

平野氏が指摘した、海外の中央銀行関係者が金融資産を信託凍結しろという点も、ファンドという形である種凍結されているわけだから、総裁が実利を得ようとするならば、保有している金融資産に有利な形で政策を恣意的に運用するか(それほど強大な権限が日銀総裁にあればの話だがw)、自由にファンドの設定・解約が行えるかのどちらかだろうが、MACはそのような性質のファンドではない。しかし、政治家と同等な資産公開制度が日銀総裁や、政策委員にも求められるというのは今後の制度設計上の問題であると思う

ただ、実際にはMACへの拠出の事実は公表されていた話なので、これ自体が問題視されるのはどうかと思うし、これに連動して株価が下落したというのも、日銀への信認性というよりも市場のファンダメンタルが悪化した中で、売り浴びせの材料として使われた感が非常に強い。これに対して総裁の責任を問うというのも妙な話だ

在任中の株式の凍結(例えば平野氏が指摘した管理信託)というのは手であると思うが、実際に政治家が保有する金融資産を管理信託などで凍結しているという話は聞いたことがない(している人がいたら教えてください)。一般的に、信託銀行が提供している管理信託サービスは、最低残高が1000万円から1億円以上というところが多く、信託銀行に対して支払う手数料を考えると割に合わないと思う

制度的に凍結(管理信託など)を行うとすれば、そのコスト負担をどう行うのか、日銀総裁だけでなく政治家の保有する金融資産に対しても規制をかけないのか。ちょっと複雑な気分になった

6/15 23:50追記
きょうの出来事を見ていたら、福井総裁のMACへの出資額(1000万円)が低すぎるという点が話題になっていた。MACの最低出資額は、99年の設定時では最低1億円、後に時期は不明だが10億円であり、1000万円からというのは低すぎる(これ自体が利益供与的ではないか)という疑惑が提示されていた

前述した通りMACの運用スキームや実態はよく知らないので、一般的なヘッジファンドで考えると、一般的な投資額が1億円(または100万ドル以上)というのはそれほど珍しくない。ヘッジファンドは、金融当局の規制を回避するために、出資者人数を概ね100人程度に制限する場合が多い

設定時に、100人から平均100万ドルの資金を集めたとしてファンドの規模は1億ドル程度になるが、ファンドの運用規模が拡大すると最低運用金額が大きくなる(例えば10億ドルになれば、出資最低額は1000万ドルになる)。そうすると、ファンドマネージャーや、ファンドの従業員、アドバイザーといった関係者が出資できないくらいの規模になってしまう。これを回避するために、一部のヘッジファンドでは、ヘッジファンドに対して投資を行う、別のファンドやミーチュアルファンド、投資組合など(こういったファンドをベビーファンドと呼ぶ)を設立して、投資口数を小口化することがある。こう言った仕組みを、ファミリーファンド方式と呼ぶ

総裁が投資したのは、このヘビーファンドであったかもしれないが、実際に村上氏の旧通産省時代の同僚が99年のファンド設立時に出資を求められた際、1000万円の最低投資額が払えないので、同僚の1人が名義上の出資者となり、各自が100万円づつ投資して、名義上の出資者が取りまとめて出資した形式になっていたという。ファミリーファンド形式が事実だとしたら、マザーファンド<>ベビーファンド<>名義上の出資者<>実際の投資者という構造になっていたのかもしれない

こう言った投資方式は、違法性に関してはなんともいえないが、ヘビーファンドが出資者をどのように選定したのか、その公平性と利益供与性が今後問題になるのかもしれない

6/16 0:50追記
某所に、信託に関するエントリがあったので補足
ここで言う「信託」とは、厳密に言えば有価証券の管理型信託と呼ばれるもので、遺言信託のような継承型信託(委託者と受益権者が異なる信託)や、投資信託のような運用性信託や処分性信託(運用指図者による運用指図に従って信託財産の運用や処分を行う信託)とは仕組みが異なる

管理型信託とは、主に有価証券の管理を信託の形で行うものを言い、例えば大企業の有価証券報告書の上位に出てくる信託銀行名義の株式などの中には、本来の所有者(委託者)が、有価証券の管理を合理化したいので、信託銀行に委託している状態のものがあったりする。具体的には、有価証券を信託銀行に信託し、信託銀行は信託契約期間内は有価証券の保管、配当金の受取といった管理を委託者に代わって行い、受益権者(委託者と同じでも良い)に対して収益を交付する。信託契約期間の間は、委託者は信託財産に対して処分指図を行うことができない(信託を一旦解約しなければならない)ので、当該有価証券を「凍結」することが可能となる

こういった有価証券の管理型信託の実例としては、先の楽天によるTBS乗っ取り未遂の際に、一時休戦策として楽天がみずほ信託銀行にTBS株を管理型信託の形で委託し、TBS株に対する議決権を凍結した例がある(議決権は名義人が行うことになるが、管理型信託を行うと名義人は信託銀行名となり議決権行使は信託銀行に対して指図することによって行われる。信託契約に議決権行使に対する指図条項がなければ、委託者は議決権を行使することができなくなり「凍結」されたことになる)

ただ、海外の中銀の事例を見てみると、国債などに対しても信託凍結を行う場合があるようだが、債券を信託凍結してしまうと、信託期間中に償還されてしまうと、償還から信託期間終了までの間、利子がつかないかあってもほとんどない状態で管理されることになるので、委託者は大きな機会損失を被ることになる。また、ファンドへの出資というのは、基本的に有価証券ではなく資金の運用契約であるので信託の形で凍結可能かという点でも疑問がある

さらに言えば、こういった管理型信託は、一般的には企業や機関投資家を対象にしたものであって、小口な個人の契約を前提としたものはあまり聞いたことがない(富裕層向けのサービスとしては存在する)。仮に信託凍結を制度的に強制するにしても引き受け先があるのかという疑問もある(そういえば、国会に支店があるりそな銀行は信託兼営行だったな)

1/16 1:30追記
ついでに言うと、「総裁がなぜ2月とか3月といった微妙な時期にあえて後々問題になることがわかりきったマズイ時期に解約申請を行ったか」という点だが、おそらく総裁は真実を語っているのではないと思う。1月にライブドア事件が摘発されたときに直感的に思ったのだが、おそらく検察はライブドアそのものよりも、MACが行っている非常にマズイ投資案件に関する捜査が最終的な目的なのではないかと思うのだ

というのは、MACが行っている投資案件の中には、かなり違法スレスレというか、インサイダーがいなければ成立し得ないような問題のある案件がここ2~3年前から存在していて、個人的にどうなんだと思うところがある。とはいえ、その尻馬に乗って個人的にボロ儲けしたのでアレなのだが、もしかすると総裁はその事実を知って解約したのではないかという推測も成り立つ

これが事実だとして、今後の検察の捜査の進展によっては、総裁が道義的責任を取って辞任するというのも結構現実的なんじゃないかと思ったりもする

ところで、責任ある方が保有資産に対して気を使うべきだと主張される民主党に一言。親中派の中核的議員の一人である内藤正光先生は、なぜ駿威汽車有限公司株と中国石油天然気有限公司株を保有されているんでしょうね? まぁ自由主義者にして市場原理主義者であるボキュは、総裁や議員がどこに投資されようと、自由だと思いますし、1トロイオンスも気にしませんが

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • by hongokucho (29531) on 2006年06月16日 23時20分 (#961595)
    >今後の検察の捜査の進展によっては、総裁が道義的責任を取って>辞任するというのも結構現実的なんじゃないかと思ったりもする この点が私が一番心配している事態です。うわさながらも、かなりヤバイ話が聞かれ始めておりますので。
    • ども真実一郎でございます。どうにかコメントの方法を探し当てました。アカウントがないので、「匿名の臆病者」でコメントさせていただきます(笑
      von_yosukeyanさんはリサーチ・リテラシー高いですね。脱帽です。 正直、「公人は就任時に個別株や私募ファンドなどは売却するか信託する」っていうのが、どこで入った知識かいまだに自分でもはっきり思い出せないのですが(もしかしたら、日経文庫の「信託の話」みたいな本じゃないかと思うんですが)、それは当然のことと思っていました。でもvon-yosukeyanさんの記事を読むと、突き詰めて考えると難
typodupeerror

身近な人の偉大さは半減する -- あるアレゲ人

読み込み中...