ページ内ジャンプ:

アレゲなニュースと雑談サイト

y_tambe の日記から検索

y_tambe (8218)

y_tambe
(メールアドレス非表示)
http://slashdot.jp/~y_tambe/

珈琲と科学とコンピューティング
2010 年 02 月 08 日
PM 08:21

UCC

日記 表のストーリーだと、オフトピっぽいのでこちらに。

UCCは去年の1月に社長が交代したところで、今後、どのような方向に進んでいくのかが、コーヒー業界の関係者から注目されてるところです。
新社長に就任した上島豪太氏は創業者の孫で、また同時に会長兼社長であった父が会長に就任(?)したことで同族経営路線が固まったこと。また新社長は、大学では経営学を専攻しており、いわゆる「コーヒー屋さん」とは違う観点からの経営方針に切り替える可能性を考えている業界人もいました。加えて、日本のコーヒー業界自体も、スタバの進出によるショックから抜け出せないうちに、今度はマクドナルドの本格参入という事態がやってきて、かなり大きな動きが避けられない時期に来てるとも言えます。

個人的には、新社長就任の少し前から続けられていたようなUCCの取り組み…中でも、「コーヒーハンター」川島氏がマダガスカルで「再発掘」したブルボン・ポワントゥの生産・販売や、お茶水大の芦原先生らと行っている、GCA低カフェインコーヒーの作出などを、「世界のコーヒーの歴史に残る」一大プロジェクトとして、非常に高く評価してるので、経営方針の見直しをすることになったとしても、このあたりはぜひとも続けてもらいたい、と思ってるのですが……。
2010 年 01 月 19 日
PM 03:23
日記 セレウス菌(毒素型と感染型の両方を起こしうる)は別にして。

燕尾服の大猿が かんぴょう植えると感染し、毒素で黄色いぼつぼつに
  • えんびふくの:腸炎ビブリオ
  • おお腸菌
  • さるが:サルモネラ
  • かんぴょう:カンピロバクター
  • うえると:ウェルシュ菌
  • かんせんし:(感染型食中毒)
  • どくそで:(毒素型食中毒)
  • きいろい:黄色ブドウ球菌
  • ぼつぼつに:ボツリヌス菌

感染型食中毒を起こすのには、サルモネラや大腸菌以外にも非O1コレラ菌とか、エロモナスとか、エルシニアとかいろいろあるし、広義の感染型食中毒(食由来感染症)であるリステリアとか、腸チフスや赤痢、コレラの扱いなんかもややこしいところなんで、代表的なものだけ挙げた(まぁ看護師国家試験対策のための補習講義用だし)

そこよりもポイントは、毒素型食中毒の起因菌の「黄色いぼつぼつ」。黄色ブドウ球菌とボツリヌス菌。この二つだけなのでしっかりと押さえること。ただ、最初に述べたようにセレウス菌食中毒にも毒素型のものがあるので、これだけ注意が必要だったり。

2009 年 12 月 16 日
AM 09:39
日記 高齢者の認知機能とカフェイン摂取の関連を見た論文が出てるのだけど、要旨から引用すると…

Generally, higher cognitive scores were associated with coffee consumption, and lower cognitive scores with tea consumption

…つまり、コーヒーを飲んでる人では認知機能が高く保たれ、お茶を飲んでる人では認知機能が落ちてる、ってことに(笑)

ただまぁ、タネ明かしをすると、

, but these effects were not significant in the fully adjusted model.

と続くわけですが。

ウチでは全文が読めない雑誌なんで、要旨しか読んでないですが、他にもいくつか落し穴はありそうな印象です…見落とされてる因子がいくつかありそうな、というか。

2009 年 11 月 13 日
PM 07:38
日記 この辺りも、今は完璧にスルーされてるみたいだけど。

新型インフルエンザ用の輸入ワクチンは、培養細胞(MDCK辺りだったと思うけど)を用いて作製されてるようですが、そのうち「BSE(いわゆる狂牛病)の感染リスクが?!」なんて話が出てくるんじゃないかと予想してみたり。

基本的にワクチン作製では、まず「生きたウイルス」を多量に作る必要があります…十分に弱毒化したワクチン株ならそのまま、そうでなければそのウイルスを壊して、予防用のワクチンにする。で、その「生きたウイルス」を作るためには、これまた「そのウイルスが増殖できる、生きた細胞」が必要になります。日本で用いられてる、ウイルスの鶏卵培養法では、有精卵(ふ化鶏卵)を、その「生きた細胞」の集団として使ってるわけです。で、輸入ワクチンの場合、その代わりに動物の培養細胞を用いて作ることになります。

動物細胞を培養する場合、それを培養するための溶液(培地)には、さまざまな成分が必要になります。それも菌類とか植物など、他の生物とは異なり、糖類や必須アミノ酸、ビタミン、塩類など(いわゆる基本培地を構成するもの)だけでは培養ができません。他の動物に由来する生体成分(さまざまな成長因子タンパク質などを微量に含む)が不可欠です。通常、哺乳動物細胞では、ウシ胎児血清(Fetal bovine serum, FBS, Fetal calf serum, FCS)を5〜10%程度培地に添加して培養する必要があります。

このウシ胎児血清は、生体由来成分なもので商品ロットごとのバラつきがあり、その良否が細胞の生育に大きく影響するので、細胞生物学屋さんにとっては非常に重要なものなのですが、2000年代初頭にそのメーカー供給がほとんどストップしてしまったことがあります。そう、BSE騒動の影響で。ウシ胎児血清も異常プリオンが検出される可能性があるから、ということで、輸入量が減り、元からかなり高かった価格もさらに高騰してしまいました。
#その後、BSE騒動も随分と下火になり、国産とかオーストラリア産のウシ胎児血清を取り扱うメーカーも増え、現在はさほど問題はありません。

例えば、ヒト幹細胞治療の分野などではワーキンググループで、培養時に用いるウシ胎児血清と、異常プリオンの問題についても話が出てます。細胞培養によるワクチン作製でも、この辺りは無関係ではないはずなんですけど、「供給量を確保せよ」という論調の陰に隠れてしまってる感がある。特に海外では、日本ほど異常プリオンに神経質でない国が多いわけで、「国内での規準に照らし合わせれば」問題になって、後から騒ぎ出す人が出てくるんじゃないの? とか予想してみたり。

個人的にはまぁ、培養液からのプリオン混入(ワクチン精製過程では、むしろ濃縮されそうだし)のリスクがどの程度のものなのか「全く見当がつかず、判断の手がかりすらない」というのが正直なところ。なので、果たして安全側に倒して判断すべきか、それともとりあえず直近の問題だけを考えて「良し」とするかは、本当に悩ましいのだけど。

まぁ安全側に倒すなら、最低限のプリオンのモニタリングくらいは実施しておく、ということになるかなぁ……もっとも、それ以前に「輸入ワクチンは高齢者用、低年齢の人はできるだけ鶏卵ワクチンで」という風な割当が可能なら、それでほぼ解決可能な問題だろうと思いますけどね。

#プリオン病は遅発性なので、高齢者だったら万一感染しても発症前に天寿を全うする可能性が高いから。
2009 年 10 月 05 日
PM 06:13
日記 TarZさんの日記経由。"What's inside a cup of coffee?"(Wired記事)

随分とまたダメダメなリストだこと…以下突っ込み。
−−−
2-エチルフェノール:大して含まれてない。むしろ、グアヤコール(2-メトキシフェノール)類の方がよっぽど大事。
3,5-ジカフェオイルキナ酸:別名、イソクロロゲン酸(3,5-ジクロロゲン酸)。クロロゲン酸(≒カフェオイルキナ酸)類の中では含量は比較的少ない方。ここは素直にクロロゲン酸にしとこうよ。
ジメチルジスルフィド:これも少ない。同系統の化合物なら、むしろジメチルスルフィドやジメチルトリスルフィドの方だろうと……というより、含硫化合物を挙げるなら、2-フルフリルチオールを挙げずしてどうする。
アセチルメチルカルビノール:アセトイン。これも少(ry どうせならダイアセチル(2,3-ブタンジオン)を挙げずしてどうす(ry
プトレシン:これも(ry 含窒化合物ならピラジン類を(ry
トリゴネリン、ナイアシン:ちなみにトリゴネリン→ナイアシン→ピリジンと分解される。ピリジンの生成はかなり深煎りの段階になってから(焦げ臭や煙臭の一部)

カフェインとかキナ酸はまぁともかく、香り物質についてはもうぼろぼろ。よりにもよって、こんなものを「代表」として扱うとは何と失礼な!
※ただし、記者がコーヒー好きならば特別に許す

ちなみにコーヒーの香りについては、Coffee Flavor Chemistryという網羅的にレビューした本があって、2001年の段階で1000種類近く(生豆300種類、焙煎豆850種類、うち200種類は共通)のものが見つかってますが、この論文ではそのうち約30種類を混合すると「コーヒーらしい匂いが再現できた」としてます。

#香料関係者に話を聞く機会があったのですが、その混合物だと「60点くらいの出来」だそうですが。今度会う時は、僕も嗅がせてもらうんだ…
2009 年 09 月 10 日
PM 02:24
日記 少し前に出たダチョウ抗体入り納豆の話。

いくら何でも、こりゃあかんでしょ、というくらいツッコミどころ満載な商品…と言っても、新型インフルエンザ流行時に抗体マスクがあれだけ売れたこの国では、わからずに買っちゃう人が多いんでしょうけどね。
以前のコメントでも、少し触れたけど、そもそもダチョウ抗体使うくらいなら、マスクに消毒薬染み込ませた方(ただし、既存商品の一部にあるようないいかげんな「抗菌剤配合」とかでなく、きっちりと効果検証した上での話)がよっぽど確実なわけで。「抗体」という言葉の響きや、そのメカニズムを示した「見てきたような絵」を見て、「何だかすごそう」なイメージを持った人が多かったのだろうけど、それはつまり抗体というものを良く知らない人が如何に多いかということの裏返しでもある。

最近、「美容目的でコラーゲンを食べても、それが直接、組織に入るわけではなく、『結局は消化されるから』から無駄」という反論が(ようやく)広まりつつあるみたいけど、納豆ダレに抗体を入れるのも全く同じ話。んなもん、胃の中でほとんど消化されますって。特に抗体の場合は、抗原結合部位(Fabの先端部分)の立体構造が特に重要なんだけど、その立体構造はpHによって大きく変わります。むしろ、実験室なんかだと、抗体を使って抗原分子を分取した後で、それを外すときに酸性の緩衝液で処理して外すくらい。なので、万一効果があるとしても、それはせいぜい「食べ物に、(そのまま食べると食中毒を起こすほどの量の)有害な菌が混じっており」「それに抗体が結合し、その除去が食道までに行われる」という、ありえないほどわずかな可能性でしかないわけで。

#それ以前にまぁ、真っ当な研究者が、今時「悪玉菌」なんて言うのはどうよ、というのもあるんだけど。

−−−−
ところで、引き合いに出した「美容目的でコラーゲンを食べても、それが直接、組織に入るわけではなく、『結局は消化されるから』から無駄」という話だけど……こっちに対しては、「ようやく」ここまできたけど、まだまだというか、随分と雑な反論だよなぁ…というのが正直なところだったり。いや、結果から言うと「ほとんど無駄」というのは、おそらく正しいのだけど、それは決して、こんなに雑な、「底の浅い」議論で結着付けられるものではないです。上述の抗体とか、他のタンパク質については、その程度の議論でも十分なんだけど、コラーゲンについてはそれだけでは不十分、というか。

そもそも、コラーゲンってのは、タンパク質の中でもアミノ酸組成がかなり特殊で、グリシンとプロリンの比率が異様に高い、というのがあります。

#全アミノ酸のうち、約3分の1がグリシンで4-5分の1がプロリン。特に、プロリンがこれだけ多いのはかなり特徴的で、ここらへんが、三重螺旋構造をとることなんかにも関わってるわけですが、まぁともかく。

従って、コラーゲン新生の際には、グリシンとプロリン、もしくはその前駆体になりうるアミノ酸が多く必要になるわけで。もし仮に、経口摂取したコラーゲンが消化されることが、これらのアミノ酸の量を増やし、さらにそれがコラーゲン新生を促進する、というようなメカニズムがあるのならば、「コラーゲンを食べても『結局は消化されるから』無意味」という反論は成立しないのです。

じゃあ「意味があるのか?」ということになるんだけど…まぁ正直言うと「判りません」、というか、直接的な研究データはありません。ただし、間接的なデータは出てます。そもそも医学分野での「コラーゲン新生」ってのは、別に「お肌ぷるぷる」にするためのものではなくて、創傷の治癒との関係から研究されているものです。で、その創傷治癒について言うと、食餌にプロリンを添加し補強した場合に効果は認められませんでしたが、アルギニンやオルニチンを添加した場合には、コラーゲン新生の増強が認められてます(Pubmed)。また古い文献では、アルギニン、3-ヒドロキシ-3-メチル酪酸、グルタミンの添加が有効であったというものもあります(Pubmed

元々、プロリンはヒトにとっての必須アミノ酸ではなく、体内ではアルギニンやオルニチンから作られるのですが、アルギニンなどの添加によってコラーゲン新生が増強されたことから、コラーゲン新生にはおそらく、このプロリン合成経路が関与しているのではないか、と考えられてますが、詳細はまだ不明です。

まぁ、この「創傷でのコラーゲン新生による治癒の促進」というのと「お肌がぷるぷるになる」ってのが関係あるかと言われると、それは判らないし、また個々のアミノ酸添加ではなく、高分子であるコラーゲンを摂食・消化した場合の話というのは、別の話にはなるのだけど、少なくとも「コラーゲンを食べても、消化されたら一緒」と、一言で片付けてはいけないだけの特殊性というのが、コラーゲンという特殊なタンパク質には存在してるわけで(そして、抗体にはこんな特殊性はないわけで)。

なので、このあたりは割りかしデリケートというか、そこらへんを計り間違えて、「雑な反論」で片付けてはいけない問題だと考えてます。むしろ、きちんとした医学的なデータ(コラーゲン摂食と肌の張りだかなんだかとの関係を解明した学術論文)を要求することで、反論しなければならない問題なんだと。
2009 年 08 月 27 日
AM 11:52
日記 一度は特例承認の話も出てたけど、慎重論が優勢になったようで、ほっと一安心。

今は、小中学校の教員に…とか、いう話も出てますが、ワクチン接種してもあんまり意味はないと思われるので、むしろ毎日の体温測定と、マスク着用を指導して下さい。

体温については、毎日職場でも把握し、熱があると思われる場合には早めに対策できるようにしておくことが肝要。マスクについては、本当なら流行期間中は必須にし、学生が聞き取りづらい場合にはマイクを使用するのが理想的なんだけど……さすがに小中高ではそれだけの設備は期待できないだろうなぁ…。幸い、僕が講義してるような、大学とかでは使えてるけどさ。

ただまぁ、もうこの段階になると、新型インフルエンザに罹るかどうかは、ある意味、タイミングと運次第みたいなものなので、本人がいくら気をつけても罹るときは罹る、という状況です。もはや「罹るか罹らないか」ではなく、「いつ罹るか」という状況だったり。
なので、まぁ感染リスクを減らす対策もさることながら、罹ることを前提として、いざ罹ったときにどう動けばいいか、あたりに個人の考えもシフトさせておく必要が出てきてます。

死亡率の高さについて、新型の方が従来の季節性より高いという、アメリカやカナダでのデータは出てますが、ぶっちゃけて言うと、結局のところ、罹ったときに(ハイリスク群以外の)個人が取れる対策というのにはほとんど変わりがないので、そこを気にしても仕方が無いというか…出来るだけ早く、感染初期に発見して、近くの病院に行き、タミフルと解熱剤を出してもらえれば御の字、というところ。

タミフルを「無駄に」消費しないためにも、発見が遅れた場合には解熱剤だけ処方するところも増えてくるでしょう…。 解熱剤の使用については賛否あるけど、高すぎる場合にはやっぱり使った方がいい(頓服で)という面もあって…さすがに解熱剤はいつでも処方してもらえると思いたいところだけど、念のために確保しとくのも手かな、と。ただし、アセトアミノフェン以外の解熱薬については、インフルエンザに使用できないものが多いので要注意。
2009 年 08 月 25 日
PM 12:23
日記 基本的な知識を得るのに役立つリンク二つ。
http://www.nih.go.jp/niid/topics/influenza01.html(感染研)
http://med2.astellas.jp/jp/infection/vin_dekirumade/main.htm(旧・化血研:アステラス製薬)

現在、日本で使われている従来型に対するワクチンは、HAワクチンと呼ばれますが、これはSV (subvirion) ワクチンと呼ばれる成分ワクチンの一種であり、ふ化鶏卵で増殖させたウイルスをエーテル処理することにより、インフルエンザウイルスの持つ膜構造(エンベロープ)を除いたものです。これに対して、海外からの輸入が検討されているものについては、WV(Whole virion)ワクチンと呼ばれる、ウイルス粒子をホルマリンなどで不活化処理したタイプのものが多いと思われます。

実は、日本でも以前はWVタイプのインフルエンザワクチンが使われていましたが、副作用の問題からSVワクチンに切り替えられたという経緯があります。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/living/health/293586/この辺りのニュースで見られる、専門家の慎重な意見というのは、こういった事情によるものです。

また、ふ化鶏卵以外でのワクチン製造方法についてですが…これはまだ実用段階には遠いな、というのが正直なところです。ふ化鶏卵以外でのウイルス複製については、一応、培養細胞を用いた実験系で可能ですが、このためには培地中にトリプシンを加えておくなど、やや特殊な培養方法を行う必要があり(強毒型なら必要ないんだけど…ねぇ)、大量合成が困難かつコスト高になります。

また、一応HAワクチンは「成分ワクチン」という分類なので(厳密には、度合いを高めた精製ワクチンというイメージなんだけど)、インフルエンザのHAタンパク質だけ大量合成できれば…というアイデアもあります。ただしHAタンパクは糖タンパク質で、しかもその糖鎖の構造が抗体との反応性に重要になってきます。良く知られているような、大腸菌を用いたタンパク大量発現系では、この糖鎖修飾ができない(元々、糖鎖は真核細胞の小胞体、ゴルジ体内部で付き、大腸菌などの細菌を含む原核生物には、これらの細胞内小器官はない)ので使えません。期待できるのは、酵母や昆虫細胞(いずれも真核細胞)を使った発現系なのですが、これらの系でもまだHAワクチンの大量合成は実現できてない、という段階です。また、仮にHAの大量合成が出来たとしても、それが本当にワクチンとして使い物になるかは、臨床で試してみないと判らない、ということになりますので…実用化にはどれだけ早く見ても、これから年単位の時間が必要になります。

#ついでに言うと個人的には、NPとかMなど、表面抗原以外を標的とした、いわゆる「パンインフルエンザワクチン」についてはやや懐疑的だったりします……中和効果低そうだし。まぁもちろん本当に出来て効果があるのならば素晴らしいことだけど。

とりあえず、ニュースなどでも手洗いやうがい、マスク着用の励行が行われてます。まぁ、感染リスクを減らすために出来る対策としては、ある程度出尽くした感もあります。あと、これに追加するなら「今のうちから、毎朝体温を計る」習慣をつけておくと、初期発見に有効だと思われます。あとまぁ、実際に発症した場合には医者の指示に従うのはもちろんではあるのだけど、念のために、アセトアミノフェンによる解熱剤を一つ常備しておくと安心かもしれません。
2009 年 08 月 24 日
PM 05:46
日記 マスメディアをはじめ、ワクチン接種の方にばかり関心が向いている昨今ですが、実はこれから大事になるのはタミフルやリレンザの確保の方なんだけどな…とか言ってみる。

特に、ハイリスク群に該当しない人であれば、ワクチンを接種しておくことによるメリットがどれくらいあるかというと、かなり疑問だったりするので。2つくらい前のエントリに書いたように、現行の方法で作られたインフルエンザワクチンは重症化を抑えるけど、罹らなくなるような効果はあまり期待できません。これは、新型でも従来の型でも、おそらくはそんなに変わらない可能性が高いので。
#とか言いつつ、いざ実施してみたら、新型では予防効果も見られたというのであれば、興味深いんだけどなぁ…とか考えてる微生物学者としての自分がここにいる。

本当のことを言うと、実はワクチンよりも、タミフル予防投与の方が確実なんじゃ?…とか思わなくもないけど、あんまり普及しすぎて耐性ウイルスが増えてくるようだと、却って困ったことになるわけで。ここらへんは、乳幼児と医療従事者のための手段として確保しておきたいところ。
2009 年 07 月 03 日
PM 02:27
日記 国内でも出ましたね。H275Yだそうな。

タミフル(オセルタミビル)耐性のインフルエンザウイルスでは、ノイラミニダーゼ(NA, N)のアミノ酸に変異が生じており、タミフルの結合能が低下していることが、昨年のNatureに出た論文などで報告されてます。これまで、His274Tyr(=H274Y:NAの274番目のヒスチジン→チロシン)、Asn294Ser、Arg292Lysなど、いくつかの点変異によるものが見つかってますが、この中で最も重要な変異とされるのがHis274Tyrで、Natureの論文によると、変異前のものと比較するとタミフルのKiが265倍(大雑把かつ極端に言うと、タミフルを一度に265錠飲まないと同等の効き目が出ない ;-P)と、非常に大きくなってます。なおこの変異でのリレンザ(ザナミビル)のKiは変異前の1.9倍なので、こちらの方は耐性と呼ばれるレベルには達してません。

基本的にタミフルもリレンザも、どちらも標的であるノイラミニダーゼと結合して阻害するもので、またその結合する部位もほぼ共通なのですが、薬剤の立体構造の微妙な違いのため、どちらかというとリレンザの方が耐性ウイルスの出現頻度が低い傾向にあるというのが、ここ一年くらいの間に明らかになってきてます。
#まぁその分、というか、リレンザは吸入薬になる分、投与量のコントロールなどの面で扱いづらいのですが。

なお今回国内で見つかった変異は、H275Yと呼ばれてますが、これはH274Y(His274Tyr)と同じものです。元々、この変異はH3N2亜型のN2の274番目のヒスチジンの点変異として見つかったものですが、H1N1の持つN1ではこのヒスチジンが275番目になってるので。論文などでは、H3N2のもの、もしくはH3N2とH1N1, H5N1などを総称して論じるときには「H274Y」と呼んでますが、今回のはH1N1での話なのでN1でのナンバリングに従って、IDSCなどでは「H275Y」と表記しています。

まぁ、実際のところ「タミフル耐性」と呼ぶかどうかは、むしろ臨床的にタミフルが効くかどうかの方が決定的になるんで、本当を言うと、このような変異があるウイルスが分離された*だけ*の段階では、厳密には「タミフル耐性の可能性があるウイルスが分離された」というのが正しい扱いになります……つっても、さすがにこれだけKiが違うものだと、まず間違いなく臨床的にもタミフルは効かないだろうという予測がたつのと、実際、今回の検体は、患者と濃厚接触があってタミフル予防投与を行っていた人で、途中からリレンザに切り替えてるようですから、臨床的にも「タミフル耐性」だった、という表現で問題ないでしょう。

#今日の午前中のニュースの段階では、「耐性に見られる変異が見つかった」というだけで、臨床の効果や変異の詳細が不明だったので、その段階では「タミフル耐性が国内でも発生」はミスリードな見出しでした。午後に医療介護CBニュースに出た詳細な内容から言うと、その見出しで問題ありません。