y_tambeの日記: 新型インフルエンザの鑑別検査
保健所が新型を疑わなかった理由のひとつは、国の「診断基準」。今回の新型インフルの症状は季節性インフルとほとんど区別がつかない。新型インフルも、大きく分けて二つある季節性のインフルのひとつの「A型」に分類される。簡易検査でA型と診断された患者全員を「新型に感染の疑いあり」と報告されてしまうことを避けるため、厚生労働省は「米国など発生国への渡航歴があるかどうか」を基準に加えた。
この辺りは、実際の検査の流れを理解してないと判んない部分があるだろうなぁ…。
僕自身が現場で動いてたわけではないので、多少の推測を含むのだけど、今回の鑑別検査の流れは大体こんな感じかと。
- 症状からインフルエンザが疑われるか【→疑われない例は除く】
- インフルエンザキット(イムノクロマト法:咽頭ぬぐい液とって、妊娠検査薬みたいなキットでやるアレ)を行い、A型かB型かを判定【→今回のケースではB型のみを棄却し、両陰性も次に回す】
- H1またはH3に対する抗血清を用いて、HI(血球凝集抑制)反応を行い、A/H1かA/H3かを判定【→H3なら香港型として棄却】
- RT-PCR(RNAウイルスなので一旦RNA→DNAにしてからPCR)により、検体ウイルスゲノムを増幅して確定診断とする。
- シーケンシングによる方法:インフルエンザのHAに共通するプライマーで、HAの配列のうち、新型とA/ソ連で違いが見られる部分を増幅し、その部分の配列をシーケンサーで解析して確定する。
- RT-PCRのみによる判定:新型インフルエンザのHAのみを増幅可能なプライマーを設計し、RT-PCRを行い、その増幅断片が現れるかどうかで判定する。
こんな流れ。基本的に、こういった病原体の鑑別検査の場合、いろんな可能性が同時に考えられるし、個々の鑑別検査だけでは偽陽性や偽陰性が出ることがあります。最終ステップの検査が「確定診断」になるのだけど、ここでも偽陽性や偽陰性の問題は残るので、単一の検査だけで鑑別することはまれです。
また確定診断となる検査では通常、使用する機器や試薬、測定に要する時間の関係から、一度に検査できる検体数に限りが出てくることが多く、結果が出るまでにもそれなりに時間がかかるので、それまでに短時間で結果が出て(大体、イムノクロマトで15〜20分、HIは1時間〜2時間くらいってとこかな?)、多量の検体を捌けるような別の検査(上で言うところの2や3)を行い、確定検査に回す検体数を絞り込みます。
上のうち、イムノクロマトについてはこれはキットとして販売されてるので、それこそ個人病院でも入手が可能です。HI反応については、赤血球とかそれぞれの抗血清が必要になるので、検査室を自前で持ってるところでも常備してるところは少なく、おそらくは保健所とか少し大きめのところでないと検査できないかと。RT-PCRについては、PCR装置自体は比較的小さなとこでも持ってるところは多いだろうけど、RT-PCR用試薬キットを常備してるのはやっぱり少し大きめのところだろうし、何よりプライマーの配列が公表されないことには、検査のしようがなかったわけです。特に、初期の段階では新型のみに特異的な(かつ診断に使える保証がある)プライマーの配列がまだ決定されておらず、これがWHOから発表されたのが5/12。それまではシーケンス(ここで時間がかかるんだ)までしないと確定ができなかった、という状況だったわけです。
神戸での感染が見つかった時、最初に感染研からの発表でなく「神戸市環境保健研究所の遺伝子検査で見つかった」というのには、恐らくこれが関わってくるというか…その直前にプライマー配列が公開されたことで、感染研以外でも確定診断が可能になり、各地で検体を捌けるようになってたことが大きいと思われます。もちろん、最初はさらに感染研での確認が必須だったのは間違いありませんけどね。
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ついでに、HI反応ってのは、インフルエンザウイルスなんかに固有でかつ古典的な検査法なので、馴染みのない人も多いかと思うので。
インフルエンザウイルスの表面にはHAとNAの2種類のスパイクがあり、HAは宿主細胞への吸着に関わってます。HAは「ヘマグルチニン」「赤血球凝集素」と呼ばれる通り、宿主となる細胞だけでなく、さまざまな動物の赤血球表面にある糖鎖にも結合する性質があります。ウイルスの粒子表面には多数のHAが出ているため、十分な量のウイルスを赤血球と混ぜると、ウイルス粒子を介して赤血球同士が架橋されて凝集します。これを「赤血球凝集反応」あるいは「HA反応」と呼びます。一方、HAタンパク質を動物に免疫して作らせた(あるいは、そのウイルスが感染した後の患者から得られる)抗血清は、このHAに対する抗体を含んでいるのですが、その中にはこのHAの凝集作用を中和する作用を持った、中和抗体が含まれてます(HAの受容体結合領域の近くに結合するものなど)。この中和抗体は、H1またはH3など、それぞれの亜型のものに特異的に反応します。抗H1血清はH1亜型のウイルスだけ、抗H3血清はH3亜型のウイルスだけをそれぞれ中和することで、それぞれのHA反応を特異的に抑制します。なので、患者から分離したウイルスを、抗H1、抗H3血清とそれぞれ反応させた後でHA反応を行えば、そのウイルスがH1とH3のどちらかを鑑別できるわけです(これをHI反応と呼ぶ)。
また、この応用として、患者から分離した血清をH1、H3亜型のウイルスにそれぞれ反応させて、HA反応を抑制するかどうかを見ることも可能です。ただしこの場合、患者の血清中に抗体が増えるのは回復期になる(抗体が増えて病気が治ることになる)ため、急性期の迅速診断としての有用性は落ちます(後から「何に罹ってたか」を調べ、疫学的解析を行うのには有用ですが)。
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