y_tambeの日記: 新型インフルエンザの病原性:Nature AOPのReview
#Yahooニュース経由でも出てるけど…「よく判ってない」ことが判ってない、というか、微妙な感じだったりして。
以下はメモ程度に。元ネタは総説のTable2あたりが中心。
今回の新型インフルエンザウイルス(以下、S-OIV:swine-origin influenzavirus、ブタ由来インフルエンザウイルス)の病原性がどの程度かについて、遺伝子変異の状態から見てみると、やはり現時点では「はっきりとは言えない」。ただし、過去の知見と合わせると以下のことが言える。
- HAの開裂部位:この部分が、インフルエンザウイルスの毒性には最もクリティカルな領域とされる。高病原性H5N1に見られるmultiple basic siteはS-OIVには存在せず、「いわゆる弱毒性」である。
- HAのその他:S-OIVのリガンド結合部位は、Asp190 & Asp225のタイプでヒト型(トリ型だとGlu190 & Gly225)。ただしこれ以外に、135番目と226番目のアミノ酸がS-OIVでは従来とは異なり、ヒトから分離されたH5N1と同じものになっている。この意味は不明だが、受容体への結合に影響する可能性が示唆されてる……ただし、ここは自分とこのunpublish dataを参照してるので、現時点ではその意義はよく判らんというか(ニュースが指してるのはこの部分)
- PB2:RNAポリメラーゼのユニットの一つであるPB2では、627番目と701番目のアミノ酸で、病原性に関連する変異がこれまでに報告されている(Glu 627→Lys 627と、Asp 701→Asn 701:それぞれ後者が毒性が強い)。S-OIVではどちらも弱毒タイプ。
- NS1:非構造タンパクのNS1では、92番目のアミノ酸(Asp 92→Glu 92)、C末(Arg-Ser-Glu-ValまたはC末欠損 → Glu-Ser-Glu-Val)の二つの部分で、病原性に関連する変異がこれまでに報告されている。S-OIVでは前者はAsp92だが、後者ではC末が11アミノ酸短く、どちらのタイプとも異なり、このことが病原性に対して影響する可能性もあるが、詳細は不明。
- PB1-F2:RNAポリメラーゼユニットの一つPB1をコードしている遺伝子の+1フレームシフトで生じる非構造のタンパク質で、アポトーシス誘導能を持つ。66番目のアミノ酸の違いが病原性に関与するとの報告がある(Asn 66→Ser 66)。S-OIVではこの部分はAsn 66で低病原性タイプ。ただしS-OIVのPB1-F2は11アミノ酸短いタイプ(元の全長は87-89アミノ酸)で、これは古典的ブタインフルエンザと同じタイプになっている(S-OIVのPB1はヒトH3N2由来とされてる)。このことが病原性に対して影響する可能性もあるが、詳細は不明。
以上から、大雑把にまとめると、
- (繰り返し言われてきたように)少なくともHPAIタイプの強毒性は持たない。
- 従来のものと比較したときの毒性の強さがどうかは、少なくとも遺伝子レベルでは判らない。
- ただし、過去に毒性の強さに関係することが判明している部分は、従来の弱毒型と「まるっきり同じ」わけではないので、ひょっとしたら毒性の違いに影響してるかもしれない。
というところ。結局のところ「毒性が強いか弱いか」は、ヒトでの疫学調査の結果などから帰納的に決まるものなのだけど、遺伝子情報から「ある程度」演繹的に予測することもできる…けど、今回はまだ無理だ、という感じ。
ただまぁ、河岡先生のところは、リバースジェネティクスの系を持っている…というか、インフルエンザウイルスでのリバースジェネティクスの系を立ち上げたところなので、特定のアミノ酸変異が病原性にどういう影響を与えるかを解析するところが可能だったりするわけで。
#このへんのウェットな実験系を持っているかどうかが、以前話題に出たAdrian J Gibbsとかの、bioinformaticsの系だけしかない研究者に対しては大きな強みだったり。
まぁ誤解を恐れず率直に言うと、河岡先生はかなり「商売上手」な研究者だ、という印象を持ってたりします…もちろん業績も実力もすごいものなのだけど、それと同じくらい、メディアでの宣伝も上手いし、例えばワクチン開発なんかと結びつけて予算を獲得したりというような部分の動きも活発だったりする。
なので、河岡先生の名前がニュースなんかに出てきたときには、その話が「最終的にどこまでモノになるのか(実用可能か)」という見極めが、意外と厄介なことがある。例えば、以前タレコまれたエボラウイルスの無毒化なんてのは学術的には面白くても、一般のニュースでは斜め上の解説されちゃうしなぁ、とかそんな感じ。そういうネタであっても、河岡先生はマスメディアにばんばん流すので、宣伝熱心だなぁという印象を受けるわけです。
#そのこと自体は良いとも悪いとも評価しにくいのですけどね…むしろ、この辺は他の日本人研究者に欠けてる部分でもあるから。
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