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三橋平の『先例主義の科学』(ITmedia Survey、2005年4月26日)を読んだが、経済学者の書くQWERTY配列は、どうしてこうそろいもそろってアヤシゲな内容のステロタイプなのだろう。QWERTY配列に関して何の研究もする気がないのだろうから、まあ仕方がないと言えば仕方ないのだが、コラムの「ご意見・ご感想」に書いても返事すら返ってこなかったので、あえてここに書くことにする。さらに不思議なもので、キーボードの配列。左上からQWERTと並んでいるがために、タイピングが初心者の人はなぜABCDEで並んでいないのか、とその不親切さを嘆いた方も多いと思います。有名な話ですが、このQWERTはタイプライター全盛時代からの配列。連続して文字を打ち込む際にタイプライターのバーが絡まらないように、と工夫されたものなのです。
QWERTY配列に対する誤解にも書いたが、Christopher Latham Sholesの「Type-Writer」では、印字棒とキー配列の間に自由度があるので、たとえ印字棒が絡んだとしても、それがキー配列を変更する直接的な理由にはならない。そもそも「タイプライター全盛時代」ってのは、いつのことを指しているのだろう?
さらに、セールス・パーソンがタイプライターを売り込むときに、ささっと「TYPEWRITER」と打ち込めるように、TYPEWRITERの文字は一番上に配列されています。しかしながら、この配列、このようなバーがないコンピュータには全く機能的な意味がなく、さらに、「TYPEWRITERと打っても売っているのはコンピュータじゃないかよ」という21世紀では、全く意味がありません。
QWERTY配列再考にも書いたが、QWERTY配列が決定された1882年当時のタイプライターの商標は「Type-Writer」とハイフンが入るので、セールスマンが「TYPEWRITER」と打って見せても「何それ間違ってるじゃん」と言われて売り込みにならない。こういうジョークをマに受けるあたり、当時のことを何も調査していない証拠だろう。
では、なぜこのQWERTの配列がのうのうと生き残っているのでしょうか? コンピュータが米国のオフィスに導入された際、最初に使用したのはいわゆるピンク・カラーと呼ばれる女性事務職の方々。この方々が習熟していたタイプライターの配列とキーボードの配列を同じにしたほうが、スキルの転用が可能となり、よりコンピュータへの切り替えがスムーズにいき、その結果コンピュータが売れていく、という算段だったのです
コンピュータのキーボードはなぜQWERTY配列なのかにも書いたとおり、コンピュータのコンソールは、1949年発表の『EDSAC』の時点ですでにQWERTY配列だった。しかし『EDSAC』は、「米国のオフィス」に導入されたことはない。1951年発表の『UNIVAC I』のコンソールもQWERTY配列だが、このコンソールを操っていたのは「女性事務職の方々」などではない。そもそも「コンピュータが米国のオフィスに導入された際」ってのが、いつのことを指しているのか私には謎なのだが、それがもし1950年代より後のことならば、とっくにコンピュータのコンソールはQWERTY配列になっていた。
(まぁ、そのおかげでその後多くの日本人がタイピングの習得に泣かされることになるのですが)。
キー配列の規格制定史 日本編にも書いたが、日本がJIS C 6233(のちのJIS X 6002)でQWERTY配列を採用したのは、必ずしも米国の影響だけではない。A.R.N[日記]にコメントしたとおり、もし日本のキー配列が米国の影響を強く受けていたならば、「2」のシフト側は「"」ではなく「@」になっていたはずだ。
結局のところ、このコラムでのQWERTY配列の説明は、Paul A. Davidの説から一歩も進んでいない。経済学者全てがこうであるとは考えたくないが、20年も前の説を何の批判もなく平気で引用してしまうあたりは、私には全く理解しがたいものがある。
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