パスワードを忘れた? アカウント作成
436244 journal

yasuokaの日記: シフトJISの誕生 10

日記 by yasuoka
清水哲郎の「シフトJIS」って何のためにあるの?(キャリア・ラボIT「文字コードで世界に出る」, 第11回, 2005年11月)を読みながら思ったのだが、「シフトJIS」誕生の過程はあまりに知られていない。特に

Windowsの前身にあたるMS-DOS開発時にマイクロソフト社などによって考え出されたのが「JIS漢字のコード領域をごっそり1バイト文字の領域と重ならないコード領域にズラしてしまえ」という方法、すなわち「シフトJISコード」でした

という誤解を非常に多く見かけるので、「シフトJIS」誕生に関して私が知る限りのことを、ここに記しておこうと思う。

「シフトJIS」を最初に採用したのは、三菱電機『MULTI 16』搭載の『日本語CP/M-86』で、1982年4月20日出荷開始(この時点の『日本語CP/M-86』は暫定版)である。この『日本語CP/M-86』を開発したのは、マイクロソフトウェア・アソシエイツと三菱電機であり、Microsoft社ではない。というのも、『CP/M-86』はDigital Research社の製品であり、日本での権利はマイクロソフトウェア・アソシエイツが握っていた。Microsoft社の出る幕はない。

その後、1982年10月29日にマイクロソフトウェア・アソシエイツは、『日本語CP/M-86』の文字コードである「シフトJIS」を他社も採用するよう、カリフォルニア州モントレーでデモンストレーションをおこなった。これを受けて、Microsoft社とその日本代理店であるアスキー・マイクロソフトは、1983年5月リリースの『MS-DOS 2.01』で「MS漢字コード」を採用している。ただし、この時点での『日本語CP/M-86』の「シフトJIS」と『MS-DOS 2.01』の「MS漢字コード」は、異なる点が一点だけあった。1区1点の「 」に対するコードが、「シフトJIS」では2020だったのに対し、「MS漢字コード」では8140に変更されていたのである。

なお、マイクロソフトウェア・アソシエイツがアスキー・マイクロソフトの子会社として設立された、というのは確かに事実だが、だからと言って、「シフトJIS」の開発までアスキー・マイクロソフトがおこなった、とするのは間違いである。Digital Research社製品はマイクロソフトウェア・アソシエイツが、Microsoft社製品はアスキー・マイクロソフトが、それぞれ担当するという「住み分け」は、マイクロソフトウェア・アソシエイツがDigital Research社の極東総代理となる際の基本条件だった。しかもマイクロソフトウェア・アソシエイツは、アスキー・マイクロソフトとの資本関係を1982年3月に解消しており、「シフトJIS」の発表はそれより後のことである。

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • に関しては、十数年前に上記の "マイクロソフトほか" の記載を当時関係者でないわけではないはずのアスキーの西氏がしているのを読んだ記憶がありますので、いわゆる「誤解」とはちと違うかな、と思います。今すぐにポインタは示せませんが。
    • by yasuoka (21275) on 2005年12月25日 16時03分 (#855054) 日記
      西和彦さんが「シフトJIS」の誕生に関して言及している記事って、私は今の今まで見たことがないので、ものすごく興味があります。私のほうでも当時の『ASCII』周辺を再度チェックしてみますけど、alpさんも是非是非ポインタをお示し下さい。
      親コメント
  • 安岡さん

    古川さんのブログで、シフトJISについてお聞きしたら、その誕生について非常に詳細なコメントをくださいました。

    よろしければご参照ください。
  • by Anonymous Coward on 2005年12月24日 21時54分 (#854826)
     いつも楽しく拝見させていただいてます。ちょっと質問なのですが、マイクロソフトウェア・アソシエイツがアスキー・マイクロソフトとの資本関係を解消したのは1982年3月ということですが、それは「シフトJIS」の開発と何か関係があったでしょうか?もしご存知でしたら教えてください。
     それにしても、yasuokaさんの日記を拝見していたら、ほんの20年前のことでも解釈の問題というよりも事実の誤認らしきことが多いですね。ちょっと昔のことが一番不確かなのかもしれませんね(蛇足でした)
    •  技術史で誤認が多いのは、技術的合理性と、新旧技術の接続問題とが絡み合っていて、一方だけみて論評する人が多いからだと思います。
       資料はどんどん多くなっているのですが、信用ならない文書の比率も高いから、真実を明らかにするのは手間がかかります。
       資料はそのソースを評価した上で吟味しないと、自分もウソ情報の発信源になりかねないし。

       私は、ビデオデッキ進化論のようなものを書いてみたいと思っていますが、当時のビデオ雑誌はライターが開発担当者の半ば宣伝文句を書き写していることが多くてぜんぜん信用できません。
       βは初期から殊再生が得意で、VHSはぜんぜんダメだったのに、現在はVHSが軽々と特殊再生をしている理由をきちんと書ける人ってあまりいないでしょう。
      親コメント
  • by Anonymous Coward on 2005年12月25日 1時37分 (#854917)
    ちょっと横道にそれてしまいますが、舛谷研究室の文字論の掲示板 [rikkyo.ac.jp]の2003/01/07(Tue)23:36の記事で、「ちなみに「シフトJISの誕生」もいつか書こうと思いますが・・・」とありましたが、それがこの記事なんでしょうか?タイトルが同じなので・・・。
    • 本当は論文誌に書きたかったんですけど、「シフトJISの誕生」なんて載せてもらえるところがなくて…。で、いきおいあまって、『文字符号の歴史 欧米と日本編』(共立出版、2006年2月発行予定)を書き上げました。「文字論」の皆さんには、ぜひ読んでほしかったりするのですが、もう「文字論」の授業は終わっちゃったみたいですね…。
      親コメント
typodupeerror

身近な人の偉大さは半減する -- あるアレゲ人

読み込み中...