[ アカウントをゲット! ]
岡崎哲二の『コア・テキスト経済史』(新世社,
2005年11月)を読んだが、さすがにあいた口がふさがらなかった。これらの事実を考慮すると,現在時点でQWERTYキーボードの特性をいくら調べても,それが今日,広く普及している理由は説明できないことがわかります。その理由を説明するためにはタイプライターの歴史を調べる必要があるのです。タイプライターは,1860年代,アメリカで印刷業を営んでいたクリストファー・ショールズとその友人によって発明されました。しかし,当時のタイプライターには,大きな欠陥がありました。当時のタイプライターは,それぞれの活字が金属性の棒の先についているという構造になっていました(図1.5)。この構造のタイプライターでは,互いに近くにあるキーを短い時間間隔でたたくと,活字を支えている棒が絡んでしまいます。(p.21)
とあるのだが、図1.5の写真のタイプライターには「POWER RETURN」なんてキーがある。どう見ても『Royal Aristocrat Electric』か、そのコピー・モデルだ。「当時のタイプライターは」と書いておきながら、1950年代のそれも電動タイプライターを図示するというのは、どういう歴史感覚なのだろう。しかも、1860年代のChristopher Latham Sholesは「印刷業」など営んでいない。当時の彼は、1863年9月まで『Milwaukee Daily Sentinel』に新聞編集者として勤めた後、ミルウォーキー郵便局長を経て、1864年5月にミルウォーキー港収税官に着任し、1869年4月まで収税官の職にあった。それを「印刷業」と書くなど、いったい当時の歴史のどこを調査したというのだろう。
この問題を避けるためには,近くのキーが短い間隔でたたかれないようにすればよく,そのための工夫としてQWERTYというキー配置が考案されました。QWERTY配列は,当時のタイプライターの構造を前提とすれば,合理的に設計されたものだったことになります。(p.22)
QWERTY配列に対する誤解にも書いたが、アルファベット2文字の組み合わせのうち、英語では「th」を続けて打つことが最も多い。しかしこの2字は、QWERTY配列では近接している。その次が「er」+「re」だが、これらも隣り合っている。「近くのキーが短い間隔でたたかれないように」QWERTY配列が設計された、などというのは、QWERTY配列の実際と完全に矛盾している。「タイプライターの歴史を調べる必要があるのです」というのは、もちろん非常に結構なことだが、それならば、19世紀のタイプライターをちゃんと調査してから、テキストを執筆すべきだ。こんなテキストで学ばなければならない経済学部の学生は、正直、不憫としか言いようがない。
このページのすべての商標と著作権はそれぞれの所有者が有します。
コメントやユーザ日記に関しては投稿者が有します。
のこりのものは、© 2001-2010 OSDN です。
この話のネタもと (スコア:1)
http://www.utdallas.edu/~liebowit/knowledge_goods/david1985aer.htm
岡崎哲二が書いている内容は、ほぼここからギッてきたものです。この論文で Qwerty について書かれている内容には、ご指摘のような批判はすでに多々存在しますが、論文そのものの本題、つまりいったん何らかの理由で広まってしまったものがロックインされてしまうことでさらに普及する、という構造の指摘が否定されるわけではないために(そしてこの指摘は経済学の歴史では非常に重要なものだったので)、この論文は引用され続け、この話も経済学者の多くは鵜呑みにしています。そういう事情なのでございます。