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yasuokaの日記: QWERTY経済学の誤訳

日記 by yasuoka
あちら こちらで、コメントにPaul Krugmanの影が現れたので、『経済政策を売り歩く人々』(日本経済新聞社, 東京, 1995年9月)を読んでみた。

QWERTYミステリーの解答は読者にはすでにおわかりかもしれない。タイプライターのキーボードの標準配列が成立したのは一九世紀にまで遡るが、指の動きという観点からはこの配列が最も効率的であるというわけではない。しかし初期のタイプライターの構造では、あまり早く打つと文字を打ちつけるアームが絡まるという問題があり、すこしゆっくり打たざるをえないような配列の方が好ましいという背景があったので、この配列が不利になることはなかったのである。(p.255)

タイプライターに「アーム」という機構が導入されたのは、1893年発売の『Daugherty Visible』以降であり、「初期のタイプライター」に「アーム」などという機構はない。…と書きかけて、一応、原著『Peddling Prosperity』(W. W. Norton, New York, 1994)もチェックしてみることにした。

You can probably already guess the answer to the mystery of QWERTY. The standard keyboard layout of typewriters dates back to the nineteenth century. It is not the most efficient layout in terms of finger movement, but that was no disadvantage in the early days; indeed, given the tendency of keys to jam on early typewriters, there was some advantage to a layout that forced typists to work slowly. (p.222)

原著には「アーム」など出てこない。「keys to jam」と書いてあるだけだ。つまり、おせっかいな訳者が「アーム」などという単語を導入して、完全な誤訳にしてしまった、ということだろう。もちろん、原著者だって「a layout that forced typists to work slowly」などと全くの事実誤認を引用しているので、どっちもどっちという気がしないでもないが。

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