blechmusik2さんのところで取り上げてもらったので、現行の高校英語教科書『Power On English Reading』(東京書籍, 2009年2月)の誤りを、さらにもう一つ書いておこうと思う。Lesson 5「The Typewriter―A Lesson in Design」に書かれている初期のタイプライターのキー配列のくだりである(pp.73-74)。

Inventors experimented with three basic layouts in the early typewriters. In one layout the letters were laid out alphabetically in a circle. Another layout was like a piano keyboard, with the letters laid out alphabetically in a long row. Some of the early keyboards, including an early version of the Sholes keyboard, even had black and white keys. Both the circular layout and the piano layout were not easy to use. In the end, a third type of layout was adopted by all the inventors. It was a rectangular arrangement of keys, also in alphabetical order.

「Both ～ and ～ were not …」っていう構文にかなり面食らうが、端的に書けば、「初期のタイプライターのキー配列のレイアウトには、円形とピアノ型と長方形の3種類があって、そのどれもがABC順だった」ということを、この高校英語教科書は主張しているわけだ。その上で、p.73にMalling-Hansen Skrivekuglenを、p.75の一番下に「ABC順キー配列」を、この教科書は図示している。まあ、正直なところ、ガセネタだらけで話にならない。

まず、円形のレイアウトだが、少なくともMalling-Hansen SkrivekuglenはABC順ではない。p.73の図でも、それは見て取れるはずだ。この図を示しておきながら、なぜ「alphabetically」などと言い切れるのか、私(安岡孝一)には全く理解できない。

次に、ピアノ型のレイアウトだが、少なくともPhelps Printing TelegraphはABC順を微妙に変更している。A～Nは黒鍵を左から右へ、O～Zは白鍵を右から左へ、折り返すレイアウトになっているのだ。単純なABC順というわけではない。

最後に、長方形のレイアウトだが、p.75の一番下に図示されている「ABC順キー配列」は全くナンセンスだ。この「ABC順キー配列」は、Donald A. NormanとDiane Fisherが『Why Alphabetic Keyboards Are Not Easy to Use』(Human Factors, Vol.24, No.5 (October 1982), pp.509-519)において、比較実験に用いた5種類の「ABC順キー配列」のうちの1つだ。その意味では、残り4種類の「ABC順キー配列」と共に示さねばならないものだし、ましてや「初期のタイプライターのキー配列」とは何の関係もない。最も初期のSholesのキー配列ならば、『キーボード配列 QWERTYの謎』にも書いたとおり、たとえば1870年頃の↓を示すべきだが、これを「ABC順」だと考える人は少ないだろう。

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QWERTY配列やDvorak配列に関してもそうだったが、『Power On English Reading』は、タイプライターの歴史に対する誤謬が多過ぎる。英語の教科書だから、歴史をないがしろにしてもかまわない、っていうのは、正直かなりヒドイ態度だと私個人は思うのだが。