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198212 journal

yasuokaの日記: 心理学者の考えるQWERTY配列の歴史 2

日記 by yasuoka

ジェームズ・V・ワーチの『心の声』(福村出版, 2004年5月)を読んでいたところ、QWERTY配列に関するガセネタが書かれているのを見つけた(pp.54-55)。

この問題の一つの例として、書くときの行為を媒介するものである、パソコンのキーボードの機能について考えてみよう。キーボードの配置は、デザイナーであるクリストファー・レイサム・ショールズ(Christopher Latham Sholes)によって制作された。1872年にショールズは、複数の要請の折衷案という形である配列に到達した。一つはタイプライターのキーの機械的構造と関係がある。彼の機械の初期の型は、タイピストの指よりも「遅かった」ため、キーがいつもひっかかるような状態であった。ショールズの解決法は、タイピストの打つ速さを遅くするようにキーボードを設計しなおすものであった。

キーボードの歴史にも書いたとおり、1872年時点では、キー配列はまだQWERTYになっていない。『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版, 2008年3月)にも書いたが、1872年時点でのSholesの顧客は、George HarringtonやAnson Stagerなどが率いる電信会社だった。売り込みの様子を読めばわかるとおり、モールス電信を受信する際に、受信文を手書きする代わりにSholesのタイプ・ライターを用いたわけだ。そのような顧客に対して「タイピストの打つ速さを遅くするようにキーボードを設計しなおす」などという馬鹿げたアイデアを、Sholesが採用するわけがない。打つべきスピードは、タイピストによって決定されるのではなく、モールス電信の受信スピードで決まっているからだ。

このあたり、どうやらWertschはWilliam Hofferにマンマと騙されたようだ。でも、それにしても「タイピストの打つ速さを遅くするように」なんて、どう考えてもヘンだと思わなかったのだろうか?

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  • 拙ブログへのコメント有難うございました。 その後、こちらを見つけましたので、コメント記載のためアカウントを作成しました。 まさにこのエントリーにあるように私はワーチの著作からこの話を知りました。記憶論への応用として、彼のいう、行為主体と文化社会的道具との緊張関係に関心を持っております。 それにしても、直接ご専門とは関係のない社会心理学の文献まで渉猟されているとは敬服いたします。 専門は異なりますが、論証や資料の扱いなど、非常に好感のもてる記述が多く、大変勉強になります。 まずは御礼のみにて。
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    Kenta
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弘法筆を選ばず、アレゲはキーボードを選ぶ -- アレゲ研究家

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