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yasuokaの日記: 「Type-Writer」か「Type Writer」か 1

日記 by yasuoka

『キーボード配列QWERTYの謎』(NTT出版、2008年)の読者から、この写真を見てほしい、と連絡があった。1878年以降に発売されたRemingtonタイプライターの写真だが、フロントパネルの「TYPE」と「WRITER」の間にハイフンなどないのに、なぜ『キーボード配列QWERTYの謎』のp.41では

当時の商標は『Sholes & Glidden Type-Writer』

とハイフンが入っているのか、という質問だった。それはもちろん、p.41で言う「当時」が1874年であって1878年以降ではないからなのだが、この際なので私(安岡孝一)が調べたことを記録に残しておこうと思う。

初期のRemingtonタイプライター(44キー大文字のみ)には、大きく分けて3種類が知られている。1874年4月発売のオリジナルモデル(マシンの向かって右側に「行送りハンドル」があるが「キャリジ戻しレバー」はない)、1876年頃発売の改良版モデル(右側に「行送りハンドル」も「キャリジ戻しレバー」もない)、および1878年以降発売の装飾品モデル(右側に「行送りハンドル」と「キャリジ戻しレバー」がある)である。これらのうち、フロントパネルに「Sholes & Glidden TYPE WRITER」の文字があるのは1878年以降発売の装飾品モデルであって、それ以前のモデルではフロントパネルにそのような表記はない。唯一の例外は、私の知る限り、Darryl Rehrの『Antique Typewriters』(Collector Books、1997年) p.7右下およびp.123左下の写真だが、これはRehr本人に聞いたところ、写真のために「組み上げた」ものらしく、実在していたわけではない。そもそも、フロントパネルに「Patented」の文字があるモデルは、アメリカの特許法上、U.S.Patent No.199263の成立以後でなければ「Patented」表記そのものが違法なのだから、1878年以降の発売なのは明らかだ。

では、1874年時点での商標はどうだったか、ということになるのだが、これは『キーボード配列QWERTYの謎』p.37に記したとおりだ。すなわち、Milwaukee Daily Sentinelの1873年6月14日号や1874年6月16日号にChristopher Latham Sholes本人が書いた記事による限り、当時の商標は『Sholes & Glidden Type-Writer』だったと考えざるを得ない。少なくともSholes本人は、そう考えていたはずだ。ただし、George Washington Newton YostとJames Densmoreは、当時の宣伝(たとえばThe Nationの1875年12月16日号)に『The "Type-Writer"』という名称を用いている。この差は、そもそもフロントパネルに何も書いていなかったからこそ起こってしまったのだが、どちらもハイフンを入れているという点については違いはない。残る問題は、この1874年時点でRemington側が、商標に関してどのような意識を持っていたかだろう。

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