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日記

yasuokaの日記: 『南伝大蔵経』各巻の全頁複写依頼

日記 by yasuoka

昨日の私(安岡孝一)の日記を読んだ方から、国会図書館に『南伝大蔵経』いずれか一巻まるまるの全頁複写依頼を出してみたら、という趣旨の御意見をいただいた。正直に書くと、私にはその視点はなかった。一昨日のシンポジウムでも、そういう論点は出なかったように記憶している。この御意見は、かなり大きな問題を含んでいて、コトは国会図書館だけでは済まず、『南伝大蔵経』を所蔵している公共図書館ならば、いずれも全頁複写アタックに逢う可能性があるわけだ。京都大学人文科学研究所附属東アジア人文情報学研究センターには、(表面上は)『南伝大蔵経』は所蔵されていないことになっているので、私個人がそのアタックに逢う可能性は極めて低いのだが、それでもこの問題について考えてみようと思う。

多くの公共図書館および大学図書館では、各著作物の半分までの複写を「調査研究のため」におこなうことができる、という運用をしている。もし、全頁複写の依頼が来た場合は、依頼者に対して、その著作物の著作権が切れていることを疎明してもらうと同時に、文化庁とか国会図書館とか、ウチだと京都大学附属図書館とかに、お伺いを立てることになる。それで、『南伝大蔵経』第四巻だと、依頼者としては奥付の「高楠博士功績記念會纂譯」と「昭和十四年二月八日發行」をもとに、団体著作物としての著作権が切れているとか何とか疎明することになるだろう。一方の図書館側は、目次の「宮本正尊・渡邊照宏譯」を元に、翻訳者の著作権が切れてなさそうなので、何とか半分までの複写でお願いしてもらえるよう誘導するだろう。ただ、第四巻は目次も含めて500ページちょっとあるので、むしろそこは大人の対応で、ページ数が多過ぎますので著作権の話はおいといてとりあえず250ページ分くらいにして下さい、と逃げる可能性が高い気がする。

ただ、第四巻は何とかなっても、第六巻だと、そういう大人の対応が無理かもしれない。というのも、『南伝大蔵経』第六巻は14の経典からなっていて、目次の情報はおおまかには以下のようになっているからだ。

  1. 梵網經 宇井伯壽譯 p.1
  2. 沙門果經 羽溪了諦譯 p.73
  3. 阿摩晝經 長井眞琴譯 p.131
  4. 種徳經 久野芳隆譯 p.165
  5. 究羅檀頭經 長井眞琴譯 p.189
  6. 摩訶梨經 赤沼知善譯 p.217
  7. 闍利經 木村泰賢譯 p.229
  8. 迦葉師子吼經 金倉圓照譯 p.231
  9. 布吒婆樓經 木村泰賢譯 p.255
  10. 須婆經 荻原雲來譯 p.291
  11. 堅固經 坂本幸男譯 p.301
  12. 露遮經 花山信勝譯 p.317
  13. 三明經 山田龍城譯 p.333
  14. 大本經 平等通昭譯 p.361

この第六巻で「迦葉師子吼經」の全頁複写依頼とかが来ると、かなり悩ましい。たかだか24ページほどの複写ではあるものの、このタイプの書籍においては、つい先日も更新されたリファレンス事例1000034056を適用すべき可能性があるからだ。少なくともCRICは、そう「指導」するだろう。その場合は各経典をそれぞれ著作物だとみなして、「迦葉師子吼經」だと半分の12ページの複写で我慢してほしい、という話になってしまう。それは、奥付の「高楠博士功績記念會纂譯」を振りかざす依頼者にとっては、納得のいかない話だろう。

ここまでを考えると、ウチのセンターが『南伝大蔵経』を所蔵していなかったのは、私個人としてはラッキーだった。『南伝大蔵経』を所蔵する公共図書館・大学図書館には悪いが、『南伝大蔵経』の著作権が切れている、という国会図書館の主張が正当なものであることを、私個人としては祈るばかりである。

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