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世間では派遣切りが問題になっているのだけど、派遣は使う側としてもなかなか難しいことがある。ふと思い出したので昔の話。
その派遣君は当時20代後半で、同じ会社の先輩とともに派遣されていた。技術的には中庸といったところだけど、不幸なことに、この先輩君はよい先輩ではなさそうだった。後輩を教育しているんだと言わんばかりの様子で、彼に業務上の判断に関する重すぎる責任を負わせたり、自分のやりたくない仕事を「スケジュールの調整」と称してさりげなく押しつけたりしているのが見て取れた。
そのとき、実は僕も派遣の身で、彼はちゃんと教育してやれば伸びるのになぁ、とか思いながらも他社のことなので、数ヶ月、生暖かく見守っていた。
ある日、割り当て作業のなくなったこの派遣君が、突然僕のところに回されてきた。僕は1人で4日くらいのWBSの1日目をクリアしたところで、プロジェクトの、マネージャさんは「残り3日が2日にでも縮めば……」なんていうこの業界ではやや素人くさい発想をしていた。反射的に突っぱねようとしたけど、やっぱり少し考えさせてもらうことにした。
派遣君はガジェット好きで、観察した限りは心身共に健康である。僕は彼の資質次第で、お持ち帰り(自社に転職させる)の可能性を考えていた。手札は3枚。
案1、「いりません」と押し返す。
とりあえず保留の案。幸い僕はいわゆる「声の大きい人」で、そのチームでは自分の身を守ることはできた。自分も派遣の身であることを考えるなら、一番賢いやり方だ。派遣君はきっと何事もなく、彼の先輩の元に帰るだろう。
案2、派遣君を教育する。
彼の業務知識&技術レベルを僕の作業の手伝いができるところに引き上げ、さらに情報共有の手間をかけながら作業の手伝いをさせる。この教育コストはスケジュールの遅延に反映される。きっと僕の評価は落ちるが、マネージャーさんが管理しているプロジェクトのスケジュールにダメージを与えるほどではない。これは派遣君に対する投資で、彼がイケてる人材であれば、将来お持ち帰りができるかもしれない。
案3、派遣君を無力化する。
「いりません」はやはり多少は角が立つし、僕か僕の会社のために派遣君に投資(教育)するほどの価値もなさそうならこの案に限る。彼に仕事を渡すけど、今回のケースでは同じ仕事を僕もやる。僕の方が予備知識があり、早く正確に問題を解決できる。だから彼は僕に決して追いつくことはできず、成果がでたとしてもムダになってしまう。僕の作業は遅延せず、マネージャーさんの顔もつぶれない。ただ僕は「仕事がうまくいったのはキミのおかげだよ」と言ってやればよい。
そんなことを考えながら、お持ち帰りの可能性を探ろうとして、派遣君と話をしてみたのだが、彼は思っていたよりも重篤だった。研鑽の機会に魅力を感じた様子もなく、無難なことを口走りながら、こちらの顔色をうかがうだけ。ヘンなクセがついている。
先輩君は日頃、この派遣君になにか命令するとき、言葉で説明せずに顔色で示しているんだろう、ということはすぐに察しがついた。教育すべきはこの派遣君ではなく、先輩君のようだ。きっとそれも、そのまた先輩にそうやって教育されてきたのだろうね。
その後僕は少し年をとり、派遣を使ったり、あるいは派遣として使われたりしてきたけど、教育の問題は常につきまとっていたように思う。
慈善事業をしているわけではないので、長期的に自社に貢献してくれる見込みがない(=投資する価値のない)派遣に、教育コストはかけられない。教育しないのであれば、その人の身の丈にあった仕事だけをさせるか、もしその人の性能がこちらの要求に満たないのであれば、残りの契約期間中にこちらの仕事のじゃまをされないよう無力化するしかない、というのが現実だ。
教育されないことが決まった若い派遣君は、(自助努力以外に)成長の機会を失い、年だけ取っていく。年を取ってしまうと「こいつを教育してやろう!」と思ってもらえる機会さえも減ってしまうので、いつの間にかとても厳しいことになる。
さて、派遣君とはしばらく膝を交えて話した。
あんまり彼が自分の意志を示さないので、少しイラッときて「コイツ無力化してやろうか」とか思ったらすぐに、彼は自ら先輩君の元に帰っていってしまった。顔に出てしまったかしら、とその後僕はしばらく悩んだ。
彼が今どこで何をしているか、僕はもう知らない。
ニュースではIT系の求人は多いと言っていたけど、周囲の案件をみていると、今はまだ今年度の予算を消化しているだけのようにも感じる。来年度は僕も人ごとではなくなるかもしれない。
あの派遣君はもうどこかでチャンスをつかんだかな。あんなヤツのところなんかに行かなくて良かった、と思っていて欲しいのだけど。
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