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live-gonの日記: 書籍「ひぐらしのなく頃に」鬼隠し編 上下 - IT観察 2

日記 by live-gon

Amazonレビュー前の下書き。

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ゲームにしておけばよかったのに ★★

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ゲームに興味があるうちに小説が出たのと、ゲームより小説の方が自分にとって馴染み深いメディアだったので小説から入りました。作者本人がやっているなら問題はないだろうと。これを元にしたパロディのいくつかは知っています。また、一本道のゲームだと知っていたので、それを小説にするのは悪くないアイディアだと思っていました。あらすじも多少は知っていたけど、小説を読もうと思っていたので全貌を知るのはあえて避けていました。

本人の責任なのか編集である講談社の責任なのか分かりませんが、結果的には原作であるゲームの足を引っ張っているだけのように思います。私は(次の綿流し編も読みましたが)「ゲームをやらないと結局分からない」という結論と、「ゲームをやろうという気持ちが減ってしまった」という心情の変化を得ました。小説と銘打ってこんなものを出す作者のゲームは大したものではないと思ってしまいます。

まず、ゲームが透けています。

まずい翻訳小説に「原文が透ける」というのがあります。原文でどのように書いてあったかが翻訳の文章から分かってしまうというものです(意図的にそうしているものは失敗ではないですが)。この小説はゲームが透けています。例えば私は登場人物と挿し絵の人物が最後まで一致しませんでした。この小説には登場人物の描写がまったくありません。一方で、登場人物のセリフがあったとき、ゲームだったらここで立ち絵が現れる、というのが手に取るように分かります。おそらくこの小説はゲームのテキスト部分をコピペしただけなのではないでしょうか? 結果的にどれだけセリフを読まされても、何がなんだかよく分からないことになります。そのほか、イベント絵が出るタイミングも小説を読んでいて分かりますし、もしかしたらここで効果音が流れるのかもしれないとさえ思いました。小説としてあまりに稚拙です。このまま出版した講談社編集部の良識を疑います。物語の中で鉈が出てきますが、刃渡りがどの程度で、重さがどのくらいであるのか、主人公が手に取っているにもかかわらず描写がありません。だから、鉈という漢字だけ書かれてもそれがどのような鉈なのか分かりません。おそらく、ゲームでは鉈の絵が文章と同時に出ているのでしょう。

作者のあとがきに、小説は読まないこととそれでも表現したい情熱があったということが書かれています。表現したい情熱があって、それを小説で書こうと思うのなら、小説を読んで、最低限の技術は身に付けるというのが表現に対する情熱だと思うし、それに達していない作者を育てるのは編集者の役割ではないかと思います。編集を責めたいのは、この小説は出版社にとって、タイムリーで手っ取り早い現金を作るためのものに過ぎなかったと開き直っていることです。「てきとーでいいですよ。ファンが買いますから」という本音があからさまに聞こえます。作者を責めたいのは、「表現したい情熱はあっても、そのために技術を覚えるというようなことはしたくない。好きなことはしたいがそのための下積みの苦労はしたくない」という自分に甘い部分が透けてみえることです。私は、この作者には情熱があると思ったので、その情熱を糧に編集と二人三脚で育って欲しかったと思います。ゲームで表現したかったのなら、ゲームで完結していればよかったのにと思います。小説を書くということに――これはゲームのテキストとは違うということに――もっと真摯に向かい合って欲しかったです。

次に、不要な文章が多すぎます。

本編にまったく関係ないシーンの描写が延々と続くことが多々あります。書いている方は脳内イメージもあるので気持ちよく書いていると思うのですが、ストーリーに関係がないならもっと簡潔に書けるはずです。仲がよいことや日常が楽しかったことはもっと簡潔に伝わるように書けるはずです。残念なことに小説では簡潔でもなければ伝わるようにも書かれていません。書くことの情熱が量を書くことに結実したのでしょう。けど、読む方はどうでもいいところは読みたくないのです。このような推敲不足も多いです。編集が当然口を出すべきことがないがしろにされています。

ほかにもいくつかあるのですが、根っこのところは同じです。作者がノベルゲームのテキストと小説の違いを分かっていないこと。分かっていないことに気づいていないこと。編集もそれを指摘せずにスルーしてしまっていること。全部が重なって、ゲームのひぐらしのなく頃にを冒涜するような小説が生まれてしまったのだと思います。

頼むから登場人物が正常な状態のときに見たことは、読んでいる人に対しても描写してくれよ。あるいは描写する技術がないと自覚してもっと積極的に挿し絵を活用してくれよ。

作品単体としては星一つですが、作者が編集部に騙されてとにかく出版してしまったという事情がありそうなので、口車に乗せられた作者への同情で一つ増やしておきます。もっとも編集の忠告を作者が聞かなかった可能性もありますが。

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感想リンク。Amazonは却下されたっぽい。

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  • by Anonymous Coward on 2008年11月08日 9時40分 (#1451929)
    同じネタを違うメディアで販売するのを止めれば、一つのメディアでの販売戦略が取れるのでそっちの方が消費者も無駄な時間と金を使わなくてすみます。この金融危機の中でこの種の投資は必ず成功するので広告代理店は意味の無い投資ばかりをしています。
    • いまいち意味がよく分からないのですが、このひぐらしの小説化が成功していれば作者はもっと莫大な富を得ることが可能だったのではないかと思います。実際には、ニュートラルな人間――というかかなり好意的に期待していた人間――の期待も裏切る結果になったわけです。期待した自分が悪かったのですが、軽く腹が立ちます。

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      LIVE-GON(リベゴン)
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長期的な見通しやビジョンはあえて持たないようにしてる -- Linus Torvalds

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