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460343 journal

uruyaの日記: 高い城の男 / フィリップ.K.ディック

日記 by uruya

高い城の男 / フィリップ.K.ディック
★★★☆☆

大二次世界大戦で枢軸国側が勝利。世界はドイツと日本の二大国に支配されていた。アメリカはいくつかに分割統治され、東部は、太平洋岸連邦とロッキー山脈連邦が日本の影響下で傀儡政権を築いており、西側の合衆国と南部地域は第三帝国の支配下にある。大戦終了後のドイツは、地中海を埋めたて、アフリカ大陸をすりつぶすように焦土とし、さらに宇宙開発をすすめて火星移民構想までぶちあげていたが、対して日本はわが道をゆき、一歩遅れをとっているような印象があった。
この世界では、一冊の書物「イナゴ身重く横たわる」が人びとのあいだで読みつがれている。ドイツの支配地域では発禁とされているそれは、もし大戦が連合国側の勝利に終わっていたら、という仮想歴史小説である。著者ホーソーン・アベンゼンは、シャイアンの町に厳重な壁に囲まれた「高い城」を築き、そこに籠もっているという。

太平洋第一通商代表団官僚田上信輔は、スウェーデンからの客バイネス氏を迎えた。プラスチック射出成形技術の提供を受けるためで、それは日本に不足している物資・技術を補強するものである。しかし東京政府は、バイネスが技術者ではなく、スパイであることを田上に示唆してくる。

田上からバイネスに贈る品物の調達を依頼されていたロバート・チルダンは、アメリカ美術工芸品商会を経営している、しがない古美術商だ。あるとき、店にはいってきた若く美しい日本人夫婦、梶浦夫妻と知り合いになる。

人種を偽ってアメリカで暮らしているユダヤ人フランク・フリンクは、WMコーポレーションをクビになった。表向きふつうの製造業にみえるが、裏で贋作づくりを行っている会社である。工場監督のエド・マッカーシーと組んだフランクは、新たな事業を開始するため、社長ウインダム=マトスンにちょっとした罠をしかける。

ロッキー山脈連邦で柔道講師をしている、フランクの別れた妻ジュリアナは、イタリア人運転手ジョー・チナデーラと出会っていた。

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最近SF分がたりてないので、ディックの未読から。神林長平がいつまでも神林長平であるように、押井守がむかしから押井守であるように、ディックはいつだろうとディックなのであった。現実と虚構の境にこだわるディック独特の世界を、群像劇のように出てくる登場人物たちを通して、ねちねちとした心情描写で描いております。

第三帝国と日本軍大本営という狂った集団がつくりあげた、狂気の世界で読まれている、逆転世界の物語。このアイデアがとてもおもしろい。正気と狂気がねじれ現象をおこしてるわけで、さらにそこに、贋作と真作の違いはどこにあるのか、なんていうディック節が乗っかっていく。で、やはりディックはディックであることだよなあ、という結末をむかえるわけで。伝統芸能を見るかのようだ。

ちょっと投げっぱなしにすぎるかな、とも思ったが、この世界の登場人物はテーマを語るためにのみ存在しているだろうので、そこはしかたないか。あと易が小道具として多用され、また、道(タオ)を取りあげているけど、易経も老子も日本人にはあまりなじみがないので、すこし違和感を感じた。まあそれこそ、しかたないけどね。

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弘法筆を選ばず、アレゲはキーボードを選ぶ -- アレゲ研究家

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