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日記

akiraaniの日記: 続・書籍の著作隣接権の話 2

日記 by akiraani

なんかまた赤松せんせがいろいろ取材されていたようです。

★なぜ出版社は「著作隣接権」が欲しいのか(赤松健の連絡帳)

※ぐぐるとToggeterやら法学勉強されてる方の解説やらヒットしますので、興味ある人が調べてみてください。

個人的な意見としては、赤松せんせの意見に同意ですね。
件の説明内容を見る限り出版社は現在の出版権契約を維持したまま著作隣接権が欲しいと主張しているようですが、これは明らかに無理筋かと。

以前の日記で簡単にまとめたことがありますが、出版社が著作隣接権を持っていればたとえ著者がOKしたとしても権利を行使することができる、という話以外には特にメリットはありません。
出版社サイド側の意見では「90条があるから著者の権利を侵害しない」という話がありますが、条文確認してみましたが非常にシンプルです。
第九十条

(著作者の権利と著作隣接権との関係)
第九十条 この章の規定は、著作者の権利に影響を及ぼすものと解釈してはならない。

著作者の権利というのはだいたい「~を禁止する権利」のことですので、許諾する権利ではありません。このため、この部分の一般的な解釈は、片方が許諾したからといってもう片方も許諾をしたことにはならない(禁止することができる)という意味になると解釈されています。
つまり、著作者と著作隣接権利者の両方に許諾を取る必要がありますよ、ということです。

現に、音楽レコードなんかでもそういう風に運用されています。
レコード会社が隣接権を持つ音楽CDの原盤を使用する場合、著者の許諾(JASRAC管理)だけでは足りず、隣接権利者であるレコード会社、および演奏者の全員の許諾が必要になります。

ここまで踏まえたうえで考えれば出版社が著作隣接権を持つと何ができるのかという話におかしなところが混じっていることがわかります。

  1. 電子化するとき、一つ一つの作品ごとに契約を結ばなくてもよくなる→×
  2. 海賊版を訴えるときに、いちいち作者に確認しなくても、出版社の判断で訴えることが出来る→△

隣接権で著作者の権利をどうこうすることができない以上、1は明らかに×です。なので、以前に著作隣接権について話があがったときは2についてのみスポットが当たっていたかと思います。
また、今から出版社に隣接権を与えても、過去に出版された書籍にまでさかのぼって権利が発生するわけではない(法の不遡及)ので、2についてもすぐに効果が出るというものでもないんじゃないかと思います。

逆に赤松せんせが危惧している点についてはほとんど当てはまるのではないかと思います。

  • もし出版社が潰れたら、著作隣接権はどうなるの?(訳の分からない債権者に権利が渡ったりして・・・)
  • 昔のマンガを、他の出版社で再刊行したいとき、前の出版社に妨害されない? (講談社は「そんなことはしません!」と言っていますが、他の中小出版社も同じかどうかは保証できないそうです)
  • たとえ著作隣接権を得ても、海賊版を根絶するのは全く不可能である。 (そりゃそうだ・・・)
  • 権利を持つ人数が増えるので、逆に面倒が起こりやすくなる。 (やっぱ船頭が多いとモメますよね・・・)

出版社がつぶれたときの著作隣接権ですが、これはこの危惧の通りかと。著作隣接権は第三者に移行可能ですので、債権として価値がある以上は管財人の裁量で第三者に売却されるでしょう。
次の昔のマンガを~、についてですが、著作隣接権施行前に絶版になった作品についてはこれは当てはまらないのですぐに影響は出ないと思います。ただし、施行後に出版されたもの、もしかすると再版されたものも対象になる可能性があります。
海賊版の根絶が不可能なのはまあいうまでもないですよね。取り締まりが若干しやすくなるかもしれませんが、正直なところ効果は誤差の範囲内でしょう。
面倒が起こりやすくなるというのもまさにその通りで。先に例を出した音楽での原盤権の扱いなんかが証左になるでしょう。

というわけで、現状の出版社の主張を見る限り、著作隣接権は不要というのが個人的な意見です。
「電子化するとき、一つ一つの作品ごとに契約を結ばなくてもよくなる」なんて話は契約方式の問題であって、作家向けの著作権管理組織をきちんと整備して、出版契約を著作権管理組織を経由して行うようにすれば法改正の必要なんてないはずです。

この議論は賞味期限が切れたので、アーカイブ化されています。 新たにコメントを付けることはできません。
  • by Anonymous Coward on 2012年03月19日 13時38分 (#2119796)

    その理屈だと、出版社的には、
    「漫画家が昔のマンガを電子出版したいと言い出した時に、NOと言えるようになるんじゃね?」
    というのは大きいのでは無いだろうか。

    たとえ実際には適用できない部分があっても、毎回裁判に訴えさえすれば、新規ビジネスである電子出版の足を引っ張るには十分な妨害工作になると思う。

    • >「漫画家が昔のマンガを電子出版したいと言い出した時に、NOと言えるようになるんじゃね?」

      可能性はあるんじゃないですかね。
      一度絶版になってしまえばさすがに出版社の手を完全に離れますが、著作隣接権の実装しだいでは、出版契約が生きているうちは契約延長時にその旨盛り込むことが可能になるんじゃないかと。
      ただ、それで誰か得をするのかといわれると激しく疑問ですが。
      出しもしないのに電子出版権を腐らせておいたところで、待っているのはジリ貧の未来だけですんで。

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