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日記

akiraaniの日記: 黙認ライセンスの狙いと意義

日記 by akiraani

赤松健氏がクリエイティブ・コモンズに「黙認」ライセンスを提案関連の話。

コメントにも少し書いたが、黙認ライセンスの意味を理解するためには、赤松氏がどういう経緯でこのような提案をするに至ったのかという点について知っておく必要がある。

まず前提として理解しておかなければいけないのは、著作権のグレーゾーン運用によるメリットについてである。
著作権でグレーゾーンとされている領域が極端に広いのは、法整備が追い付いていないという側面もあるが、それ以上に大きいのはそれでいい方向に回っているという実績があるからだ。
特にマンガの場合は、いわゆる同人誌文化による恩恵が顕著。いわゆる二次創作同人誌は、その多くが著作権法上グレー、実際に裁判になれば著作権侵害と判定されるだろうといわれている。しかし、実際に訴えられるというケースは極めてまれで、零細商業出版以上の部数を発行している場合でもほとんどは訴えられることはない。

なぜか。理由は複数考えられるが、もっとも大きな要因は「同人誌文化が業界に良い影響を与えているから」である。
ライセンス提唱者である赤松氏自身もそうなのだが、同人活動を通じてマンガを描くスキルを習得し、プロデビューに至ったというマンガ家はたくさんいる。赤松氏によれば、最近のマンガ家ではプロデビュー前に同人活動を経験していない方がまれなのではないかとのこと。
実際問題として、コミケだけでも参加サークル数は約3万5千。うちマンガ作品を作っているところを30%と換算しても、1万人以上のマンガ家予備軍がいるということになる。抽選漏れで参加できなかった、コミケには出てこない地方での活動者なんかを含めればもっとたくさんいるはずだ。マンガに限らず、スポーツなども含めたボビー全般においてアマチュア愛好家の人口はプロのレベルに直結するわけで、この数がマンガ業界に与える「良い影響」は計り知れないものがあるだろう。

一方で、著作権法では「どのような行為をどのような手段で行ったか」が侵害したかどうかの基準のすべてとなる。たとえば複製権や翻案権の場合は「私的利用を超える目的で無許諾で作ったもの」は著作権侵害となる。つまり、ファン同士の交流目的だろうが、金もうけ目的だろうが同じように著作権侵害になるのだ。
このような大雑把な法律を杓子定規に適用していては業界自身の首を絞めることになる。だから、濫用はせず社会的に悪というコンセサスを得られるものだけを選んで訴えることで対応している。
もし、濫用するような業者が現れれば、流通関係者に悪徳業者認定されて日の当たる場所では商売ができなくなる、という寸法だ。

少し説明が長くなってしまったが、このあたりが同人誌関係のグレーゾーン運用と呼ばれるものの概要だ。
これはなかなかによくできたシステムであることは、日本のマンガのレベルの高さが証明しているし、暗黙ルール自体には今のところ社会問題になるような不具合は発生していない。

つまり、今のままで問題ないから変えたくない、というのが赤松氏をはじめとしたマンガ関係者の多くの考えだろう、ということだ。
しかし、TPPの知財関係で要求されている中の2項目、法廷賠償金と非親告罪化は、このグレーゾーン運用を破壊してしまう恐れが強い。と、少なくとも赤松氏は想像しているようだ。
なりすまし事件の捜査状況を見る限り、警察がメンツのために関係者の意向を無視して、だれにともっても損になるような逮捕劇が起きてしまうなんてことも十分に考えられるわけで、警察への牽制などという発言が出るのもこのためだろう。
TPPの件は、知財だけの問題ではないので、関係者がどんなに反対しても押し切られてしまう可能性がある。そうなった時に動いていては遅いから、こんな話が出てきているのである。

つまり、黙認ライセンスは、TPPによる望まぬ法改正が行われた場合に現状を維持するために提唱されたものである、ということだ。そう考えれば、目的も意図も理解できるのではないかと思う。

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